第638話、考察と結論

 羽が壊れて落ち込む精霊のせいで、上がっていたテンションが若干下がった。

 おかげで今の優先順位を思い出したが、礼を言う気にはならないな。


「さっきの現象も気にはなるが、取り合えず蛇を先に運ぶか・・・ん?」


 なんだ、蛇を触った感じが明らかに先程と違う。

 さっきまではかなり頑丈な手触りだった。

 皮はもちろんの事、中の肉も筋肉質で固かった。


 だが何だこれは。まるで固さを感じない。というか、鱗が剥げている。

 これは・・・腐っている? いやそれとも違うな。だが明らかに劣化している。


「・・・中の肉はまだ解らないが、皮は駄目そうだな」

『おー? なんかボロボロだねー?』 


 少し擦っただけでボロボロと剥げて崩れる。まるで何年も経った物の様だ。

 これじゃ幾ら山奥の魔獣と言って持って帰っても、支部長は納得しないだろう。

 後もう復活したのかお前。本当に落ち込んでいるのか疑わしいんだが。


「どうせ駄目そうだし、掻っ捌いて中を見てみるか」

『おー、おっにくー!』


 解体用の短剣で蛇を適当に斬ると、まるで抵抗なく刃が入った。

 斬ったという感覚は殆ど無い。近い感覚と言えば、ジェル状の物だろうか。

 差し込む為に若干の抵抗は感じてはいるが、切り裂く様な感じではない。


『うへぇー、なにこれー。美味しく無さそー』

「・・・確実に、さっきの事が原因だろうな」


 流石に『これはなぜ起きたんだろう』等と惚ける程の馬鹿じゃない。

 これはほぼ間違いなく、さっきの強力な魔術の代償だろう。

 違っている可能性も有るだろうが、それを考慮するには少々無理がある。


「とはいえ、その程度であの威力となると、代償としては安すぎる気がするが」

『うーん、舐めて見たら案外行けるのでは・・・うん、不味い! 妹これ不味いよ!』


 辺境には魔獣が大量に居て、この蛇程度の魔獣なら他にも居る。

 それらの素材を犠牲にするつもりが有るなら、精霊にすら迫る事が出来る。

 ならその代償は余りに安い。安すぎると言っても良いぐらいだ。


「いや、魔獣が一体の全ての命を燃やしたと考えれば、本来は安い物では無いか。使う側としての理屈は安いが、命を全て使い尽くす力の行使なんて尋常じゃないな。それに俺は単独で倒せるから問題無いだけで、普通の人間にとってはもったいない使い方か」

『ねーねー、妹聞いてるー? これ不味いんだよ? 妹も一回舐めて見ない?』


 それに不明点や欠点もある。先ず現状何の魔獣で何が出来るのかが解らない。

 今回は魔獣の使っていた霧だったが、外に放つ魔術を使う魔獣は多くない。

 だから魔力を流し込んだだけでは、何も起こらずに劣化するだけの可能性も有る。


 次に俺はこの事実を今日初めて知ったが、これが一般的な事実かどうかだ。

 ただその可能性は低いと思っている。何せ今まで一度も見たことも聞いた事も無いからだ。

 魔核は高く売れる。つまり需要があり流通があり、色んな人間が手に取れる一般的な物。


 なら俺如き凡人が考える事は、既に先人がやっていておかしくない。

 そうなると逆に、さっきの現象の理由が解らなくなる。何故あんな現象が起きた。

 

「いや、これは今考えても仕方ないか。実際に数を試すしかない。一応念の為、支部長や領主には聞いてみるか。何だかんだあの二人は色々知っているしな」

『むーん、妹が構ってくれない。どうするべきか』


 次に持ち運びに不便が過ぎる。大体の強い魔獣は図体がでかいからな。

 小さくて強いのも居なくはないが、それらを見つけるのは中々に骨が折れる。

 これは保管も同じ事が言えるな。何処に大量に置いておくのか。


 最後にこれが一番重要だ。効果時間が短い。一番の問題点だ。

 確かにあの霧は凄まじい威力だった。精霊に届くかもしれない力だった。

 だがその効果時間はかなり短く、あの短時間では精霊を仕留め切れるとは思えない。


 この時点で一撃の威力を求める魔術以外では、精霊には届くが届くだけでしかない訳だ。

 俺の魔術は、攻撃に回す様な術は余り無い。これだと決定打に欠ける。

 基本的にかく乱の為の魔術が多くて、メインは身体強化の接近戦なんだからな。


「身体強化に使えれば、話は変わるんだが・・・」


 あの力を、まるで力を入れていないのに溢れる魔力。

 明らかに出せないはずの威力を、身体強化に回せれば。

 それはおそらく、今までに類を見ない一撃を撃てる。


 呪いの装備も怖くない。俺の力で、単独で撃破出来る。


「そうだ、魔核」


 ふと、魔核はどうなっているのかと思った。

 蛇の肉体が劣化しているなら、その力の源はどうなっているのかと。

 そう思い魔核が在るべき場所を探り、さらに蛇を切り分けて行く。


 相変らず切るという感覚は無いし、ドロッとした肉だった何かが地面落ちていく。

 血と肉が混ざった半固体って感じだな。そういえばこの蛇、毒は持ってないんだろうか。

 持っていない事を祈ろう。かなり今更な話ではあるがな。


「・・・無い、な。何処にも魔核が無い」


 まあ当然と言えば当然の話だ。肉体がこれだ、その源が無事で済むはずが無い。

 仕方ない。丁度良い獲物だと思ったんだが、また何か手頃なのを探すか。


『みてみて妹! 兄の最強装備(予定)の恰好は! いつか兄はこういうの欲しい!』


 俺の気を引こうと何をしているのかと思ったら、また訳の分からん事を。

 虹色にビカビカ光る羽は存在・・・するかもしれないな、この世界なら。

 というか今作れてるから要らんだろうが。何でそこまで実物が欲しいんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る