第624話、懸念材料

「片方はまあ、あの面倒な人として・・・」

「まあ、そうだな、アイツだな」


 猫の精霊付きと言えば、どう考えても王都で絡んできたあの女だ。

 名前は・・・なんだったか。忘れてしまった。余り興味も無かったしな。

 取り合えず猫の精霊付きだ。本来はちょっと違ったみたいだがな。


「最初から戦場に居たのか、あの猫」

『猫は元気ー?』

「どうなのかしらね。その辺りの詳しい事はまだ知らないけど、呪いの道具で暴れて被害が出て少し経った頃に、颯爽と持ち主を撥ねて行ったらしいわよ」

「・・・撥ねて?」

『おー、元気そー』

「ええ。凄い速度で突っ込んで行って、凄い音をさせて撥ね飛ばしたんですって。その後撥ね飛ばされたのを追って行って、暫くしたら戻って来て呪いの道具は処分したって報告したとか」


 そこで食ってるコイツもそうだが、精霊の全力は周囲に被害が出る。

 人間が多い場所での戦闘は、枷が付いた状態に近いだろう。

 なのでその枷を外す為に人のいない方向に吹き飛ばし、その上で対処した訳だな。


『ん、どしたの妹、これ食べたい? はい、あーん』

「・・・自分で取る」


 とはいえそれは、猫が人間の立場も理解しての事だが。

 アイツが付いている女は、自分の立場と言うものがある。

 人間に被害を出せば、その立場が危うくなるかもしれない。


 コイツはそんな事を一切考えず、被害など無視して戦うだろうな。

 俺も余り気にしていないから、別に構わないと言えば構いはしないが。


「それで、もう片方は・・・多分前に聞かせてくれた子の事、よね?」

「多分そうだろうな・・・もぐもぐ」

『もぐもぐ・・・どの子ー?』


 狐の精霊。神々しい狐の精霊と言えば、俺の知る限りメラネアの精霊だ。

 アイツは王都襲撃の際に姿を見せているし、ある意味この国で一番有名な精霊か。

 なのでサーラも存在は知っているし、俺も少し説明をした事が有る。


 勿論別人の可能性も無くはないと思うが、流石にその可能性は低いだろう。


「こちらも呪いの道具で暴れた人間が暫く陣を混乱させ、暫くした頃に上空から降って来たんですって。前足で叩きつけ、怯んだ所また前足で弾き飛ばして追いかけて行ったと。こっちは破壊報告は聞いてないけど、その後の被害は無いそうよ」

「メラネアの事だ、破壊報告をして目立つのを嫌がったんだろうな」

『狐も元気そうで良かったー』


 あの狐の事だから、メラネアが危険な事は出来るだけ避けるはず。

 それでも彼女が我が儘を言えば、無理をする可能性は有るが。

 だとしても狐が単独で向かった以上は、なるべく無理をさせない為だと思う。


 そして狐の力は当然だが強く、恐らくは問題無く呪いの道具は破壊されているだろう。


「狐の方は最初こそ精霊付きの仕業とは思われてなかったのだけど、こちらの軍と情報共有をした結果、王都に現れた精霊だと判断された感じね」

「ああ、そうか。暴れた奴が居た国は、メラネアの事を知らなかったのか」

「貴女の事は結構有名になってるけど、彼女は無名に近いのよね。危険性の問題かしら」

「かもな」


 一応メラネアの事も、知っている奴は知っているだろう。

 だが俺の暴れ方の方が印象に強すぎて、彼女の印象が薄まっている。

 結果周辺に知られている精霊付きは俺であって、彼女が連想される事は少ないだろう。


「しかし、アイツもつくづく面倒事にかち合う人間だな。旅に出た先が戦場で、かつ呪いの道具と遭遇するなど。不幸の星の下にでも生まれたんじゃないか」


 折角自分の楽しみの為に、望みの為に旅に出たっていうのに。

 碌でもない連中との縁は中々切れないという事だろうか。


「貴女も同じじゃないの?」

「俺は知っていてここに居る。巻き込まれた訳じゃ無い」

『そうかなぁ?』


 お前はいちいち俺の発言に疑いの言葉を入れないと気が済まないのか。

 今回は間違いなく、巻き込まれた訳じゃ無いだろうが。


「・・・しかし、呪いの道具が使われた戦場の、どちらにも精霊付きが居た、ね」

「やっぱり、疑っちゃう?」

「呪いの道具が使われた場に、都合よく現れてしまえばな。そういえば、もう一か所の戦場では使われなかったのか」

「ええ、無かったらしいわよ」

「なら尚の事疑わしい話だ。そして苛つく話だ」


 もし呪いの道具の件が隣国の誰かの策なら、同じ事が三か所で起っていたはずだ。

 だが実際に起きたのは二か所、まさか呪いの道具が足りなかったという事は無いだろう。

 アレだけの数の呪いの道具を作っていたんだ。絶対に足りないはずが無い。


 ならその二件は隣国の策では無く、何かしらの実験の為だった可能性が高くなる。

 更にはもし実験だった場合、連中は俺達の居場所を常に把握している事になる訳だ。

 猫の方はどうでも良いが、メラネアの方は少し気がかりだな。


 狐が居るから滅多な事は中々無いと思うが・・・前例があるからな。


『ん、何。やっぱりこれ食べたかったの? もー、素直になれば良いのにー。はいどーぞ』


 こいつも狐も、一度捕らえられている。方法は知らないがそれは確実だ。

 となれば狐が居るから問題無い、という考え方は出来ないだろうな。

 ブッズはまだ一緒だろうか。一緒ならアイツの身が一番危険だが。


 さて、どうするかな。俺はどう動くべきか。

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