第623話、他の戦場の話

「もぐもぐ・・・」

『もぐもぐ・・・』


 食堂に案内された後、殆ど待たずに料理が出て来た。

 用意が余りに早かったので、恐らく俺が帰る前から準備していたんだろう。

 玄関口で確認されたが、最初からこちらに連れて来るつもりだったんだろうな。


 もっしゃもっしゃと出される食事を食べ続け、思ったより腹が減っていたのだなと自覚する。

 そこまで消耗した覚えは無いんだが、どうも意識していた以上に疲労があったらしい。

 やはり呪いの道具を相手にしたからだろうか。その可能性は大きいかもしれないな。


 そう言えばあの連中、あの後人質は助かったんだろうか。

 別に連中がどうなろうと知った事じゃないが、犠牲者は少ない方が良い。

 その結果連中が暴れる結末になるなら・・・それも俺には関係の無い話か。


 もう隣国の件は終わりだ。俺が気にする事は何一つない。

 後は俺に仕掛けた本命連中だけだ。が、どこに居るのか解らないのが問題か。


「追加はどれぐらい必要ですか?」

「もぐもぐ・・・同じ量を頼む」

『お願いねー!』

「畏まりました」


 大きなテーブルの半分程を埋める料理を食べ、まだ足りないと追加を頼む。

 とはいえそれなりに腹が落ち着いて来たのか、空腹感は感じなくなって来た。

 満腹感にはまだ遠いがな。この倍を食ってもまだまだ入る。


「ふふっ、良い食べっぷりね」


 そこに可愛らしい声が響き、もっしゃもっしゃと咀嚼しながら目を向けた。


「こんな時間に起きていて良いのか、サーラ」

『夜更かしさん? 悪い子だー!』

「さっきまで寝ていたのだけど、少し目が覚めたら城の気配がおかしい感じがしたのよ。それで侍女に確認をしてみれば、貴方が帰っているっていうじゃないの。ならお帰りなさいを言いに来るくらいはしたっていいでしょ」

『おお、確かに! ただいまー! ほら妹もただいまって!』


 おかしい気配か。人の動きが普段と違ったからだろうな。

 多分サーラの最初の認識は、また刺客でも来たのかと思ったんだろう。

 だから余計に目がさえて、ならついでにと挨拶に来たという所か。


「それにしても、随分早く帰って来たわね。もっと時間がかかると思っていたわ」

「そうだな、思ったより早く終わったとは思う・・・もぐもぐ」

『早く帰って来れて良かったよねー。もぐもぐ』


 まさかほぼ一日で片が付くとは、俺も思ってはいなかった。

 それもこれも地図のおかげと、隣国の国王に本当の臣下が居なかったからだろう。

 もしあの呪いの道具を持つ者達が、奴の忠臣であれば結果はもっと違ったはずだ。


 暴走した人間が王妃では無く、鍛えられた戦士ならもっと苦戦しただろう。

 色々と俺にとって都合の良い展開が多かった。なので早く終わった感じだな。


「もぐもぐ・・・そう言えば、他の戦地の状況なんかは伝わっているのか?」

『もぐもぐ・・・のー?』

「ええ、とても凄い事になってるわよ。大きく三つの戦場が在ったのだけど、その内二つから呪いの道具で暴れる人間が出たわ」

『ええー、まだ有るのあれー』


 有るかなと思ったが、やっぱりまだ有ったか。しかも戦場にか。

 俺相手の実験だけかと思ったが、別の使い方もしてやがるか。


「・・・使ったのは敵国の兵士か?」

「いいえ。呪いの道具で暴れ出したのは、友好国の兵士だったらしいわ。どちらもね」

「やってくれるな」

「ええ、本当に」

『まったくもー』


 国王の策なのか、それとも他の王族か臣下の策なのか、それとも奴らの実験なのか。

 呪いの道具を隣国の兵士が使っての戦闘では無く、別の国の人間に使わせた。

 その結果がどうなろうとも、忌避されるのは使った人間のいる国だろう。


 確実に隣国の連中の仕業だろうが、だとしても使った人間の所属は隣国ではない。

 なればルール違反の戦争を仕掛けた者達よりも、呪いの道具を使った連中の方に意識が行く。

 悪いのは隣国だと言った所で、じゃあ何故貴様らの国の兵士が持っていたと言われる訳だ。


 それに関してはこの国も例外じゃない。持っていたのはこの国の兵士だからな。

 勿論周辺国も馬鹿ばかりじゃない。嵌められたのだろうと認識する人間は多いはずだ。

 だがそれでも、この機会に実験をしたのでは、という疑いはどうしても拭えない。


 どちらを疑うべきか、信じるべきか、助けるべきかと・・・本当に面倒な事をしてくれる。


「そいつが狙ったのは敵国だけか?」

「いいえ。先ずは上司を殺したそうよ。次に先輩と、不満を喚き散らしながら殺したらしいわ」


 どうも呪いの道具を持たせる仕事をした奴は、持たせるべき人間の選別が上手いらしい。

 滅私奉公する兵士では無く、味方に不満を持つ人間を選んでいる様だ。

 呪いの道具の性質故に望む方向に暴走し、そして被害は甚大になる。


「そいつらはどうなったんだ。いや、その戦場はどうなった。全滅か?」

『あの汚いの、壊せてないのー?』

「いえ、それがすごい事に、どちらも精霊付きが現れて場を治めたわ。片方はまだ解るんけど、もう片方にまで現れたのは凄い話よね」

「精霊付きが、二か所で・・・精霊が呪いの対処をしたのか?」


 精霊付きは珍しいという話のはずだが・・・いや、珍しいぐらいの存在でしかないのか。

 居ない訳ではないと考えると、他国にも俺の様な存在が居てもおかしくはないな。

 これで俺が知る限り、近くに5人の精霊付きが居る事になるな。


『お、僕意外に精霊が! どんなのどんなのー』

「ええ。呪いの道具と相対する時にその姿を見せたそうだけど、片方の戦場ではとても綺麗な毛並みの白猫が、もう片方は見惚れる程に神々しい狐だったそうよ」

『おお、猫と狐ー! ん? 猫と狐ー?』


 ・・・どっちも知ってる奴だな、多分。片方は解るって、そういう意味か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る