第420話、恐れる理由は

「ミク様、差し出がましいと思われる事を承知で、提案したい事がございます」


 のんびりとした朝食を終えた所で、突然使用人がそんな事を言い出した。

 余りにも唐突な話し出しに、キョトンとした目を向けてしまう。


「何だ、突然。何の提案だ」

『妹に何を言いたいんだい! 言ってみない!』


 因みに精霊は朝食の途中に起きて来た。おかげで静かな朝は一瞬だったな。

 後お前は一体何者のつもりなんだ。俺の話をお前が応えるな。


「深夜から早朝にかけての間、ミク様の護衛の数を増やしても宜しいでしょうか。そして許可が頂けるのであれば、室内に常駐する者を数人でも付けさせて頂ければと」

「・・・何故だ?」

『人が増えるのー? 兄はその方が楽しそう! 皆で踊ろー!』


 騎士に視線を向け、不可解だという意思表示をしながら返す。

 そもそも俺に護衛など必要無い物だ。アレは護衛という名の監視だ。

 だというのに態々増やすなど・・・俺が寝ている間に更に何か動きが有ったのか?


「ミク様は朝に弱いご様子。勿論ミク様ほどの手練れとなれば、寝起きでもそう簡単に後れを取る事は無いでしょう。ですが万が一の可能性も有るのではと思いまして」

「・・・ああ」


 アレか。さっきの俺の寝ぼけた様子を見ての話か。そんなに弱そうに見えたか。

 いや、あれは頭は起きてるぞ。体が上手く動いていないだけで。

 それに危機を察知してしまえば、別に関係無く目は覚めるし。


『妹寝起き悪いもんねー? 前に何も無い所でこけてたの、兄は見ていました。むふー』


 煩い。お前の方が余程だろう。大体俺より起きるのが遅いくせに。

 今日だって俺が朝食を食ってる間の起床だろうが。


「要らん。周りに人が多くても邪魔なだけだ」

『えぇー・・・いっぱいの方が楽しいのにぃ』

「っ、しかし・・・いえ、畏まりました。出過ぎた真似をして申し訳ございません」


 俺が断ると反射的に反論しかけ、だが直ぐに堪えて頭を下げる使用人。

 おそらく彼女としては、純粋に好意と心配での提案だったのだろう。

 俺に恩が有ると言っている人間だ。俺に万が一など有って欲しくないのだろう。


 勿論それは彼女の告げた内容が、全て本当の事であればだが。

 これまでの行動で、彼女が優秀な使用人だと解っている。

 つまり全て演技、という可能性も無いとは言えない訳だ。


 俺の為の様に告げているが、その実襲撃の為の配置の可能性もある。

 いや、それなら望む所な気もするな。許可を出すべきか?


「・・・ミク殿、彼女の提案は悪い事では無いと思います。失礼を承知で申し上げますが、先程のミク殿は余りに隙が多く、敵に対処出来る様子には見受けられませんでした」

『ほらほらー。騎士もこう言ってるし、ひと増やそー。騒ごー』


 うん、無いな。これは本気で心配されてる感じだな。

 ただそこまで言われる程、俺の寝起きは悪いとは思わないんだがなぁ。

 ちゃんと起きて受け答えしてるし。頭はしっかり回ってるのに。


「随分と過保護な話だな」

「当然でしょう。私共は貴女が強者である事は疑っていませんが、同時に貴女が傷つく事を恐れております」

『兄もそれは恐れております』

「俺が傷つき、精霊が暴走する事を、だろう?」

「はい、その通りです」

『妹が傷ついたらプンプンだぞ!』


 断言しやがった。俺が死のうがどうでも良いが、その結果精霊が暴れるのは困ると。

 下手なおためごかしを告げるよりも、公の判断を言った方が良いと判断したか。

 賢い判断だ。ただ俺の身が大事だ、等と言われるよりも余程納得できる。


 ただ使用人の方は別意見なのか、騎士の発言の際に若干睨んでいたが。


「辺境の雪山での野営より王城が危険、と言うなら護衛を頼もうか。勿論護衛に入った連中は、それだけの腕が有るのか確かめさせて貰うが。どうする?」

「・・・畏まりました」

『もしかして雪合戦する!? 妹の吹雪は痛いから禁止ね!』


 許可を出す様で全く出していない返答に、騎士からの反論は無かった。

 まあ反論出来ないだろうしな。もし出来るなら俺が驚く。

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