第421話、本題に戻る

「さて、部屋に引き籠っていても仕方ない。城を散策するか」

『おー! 散策! 行こう行こう!』


 騎士が黙ったのを確認して立ち上がり、返答は聞かずに装備を整え部屋を出る

 通路に出ると、数人の使用人や騎士が立っており、恐らくは俺に付けられた者達だろう。

 ただ俺に直接言葉を伺う者や、どこにもでも付いて来るのは二人だけという感じか。


「さて、どこに行くか」

『兄はあっちが良いと思う!』

「じゃあ反対に行くか」

『何で!?!??!???』


 精霊の指示した方角と反対に向かい、適当に城の中を歩き回る。

 道中何度か貴族らしき者とすれ違ったが、今の所は絡まれる事が無い。

 俺を見て怯えるか、怯えずとも腫れもの扱い、という感じが多いな。


 なるべく俺から距離を取り、上役の貴族にする様に少し顔を伏せる。

 下手に絡んでも良い事は無いと、態度がそう言っている感じだ。


「・・・滞在は無意味かもしれんな」

『どしたの妹、帰りたくなっちゃった?』

「・・・それもありだろうな、と思い始めている」


 色々とやってくれた仕返しとして、混乱を与える為に城に突貫した。

 結果として初手は成功したが、二手目以降はどうにもならない状態だ。

 勿論俺がここに居る、というだけで動く馬鹿者は居る様だが。


 俺が知らない内に捕まって処分されているのでは、俺には何も起きていないのと同じだ。

 普段こそ面倒臭いと思う事ではあるが、絡まれた仕返しに来てるのにこれではな。


「あ、そうだ、肝心な事を忘れていた」

『んー? 何か忘れ物したの?』


 仕返しの事ばかりを考えていて、元々俺が何故ここに来たのかを忘れていた。

 俺を利用とした者が居て、その謝罪も無く次の手を打って来たからだ。

 勿論国王に判断を付けさせたが、それはまだ一つ目の話でしかない。


 最初から謝罪は受け入れておらず、今度も許容する気は無いという話をしただけだ。

 なので本来の目的。いや、俺としては別に本来でも何でもない話なのだが。

 俺に目通りをしたいと言い出した連中への挨拶が終わっていない。


「なあ、お前達は城の人間の役職に詳しいのか?」

『詳しいのかい! 詳しくないのかい! どっちなんだい!』


 足を止めて騎士達に振り向き訊ねると、一瞬だけ二人が目を合わせる様子を見せた。

 だがそれも本当に一瞬で、騎士が一歩前に出て口を開く。


「申し訳ありません。主要な方の事は存じておりますが、私はそこまで詳しくは有りません」


 少し腰を折って頭を下げ、本当に申し訳なさそうに告げる騎士。

 ならば使用人はどうなのかと目を向けると、彼女も同じ様に少し腰を折る。


「ある程度は存じております。流石に全ての者を把握は出来ておりませんが」


 これは騎士と使用人の差なのか、それとも彼女がただ優秀なだけなのか。

 多分両方だろうな。特に王城の使用人なんて、誰が誰なのか解ってないと困るだろうし。

 そういった貴人への対応が上手く出来なければ、城で上の立場には付けないだろう。


「なら都合がいい。お前は俺がここに来る事になった理由は知っているか?」

「ミク様の名を都合良く使い、国の戦力として数えた不遜を問いに来た、と認識しております」

「大体合っているが、もう一つ理由がある。それは知らないか?」

「・・・ミク様を呼び出そうとしていた者達の事、でしょうか」

「そうだ。そいつらが一番の理由だ」


 その話が無ければ、俺は多分王城に来ていなかった。

 領主からの話が無かっただろうからな。来る切っ掛けが無い。

 毎日の訓練の方が重要で、呪いの杖の事も過去の事になり始めていたしな。


 だと言うのに態々もう一度藪を突いた馬鹿共が居る。

 俺の反撃が無い事に油断したのか、脳が軽いのかは解らんが。

 少なくとも自分達はリスクを負わず、顔合わせの話すら領主に任せた奴が居る。


「先ずは外交官共に会うとしようか。奴らはどこに居るか解るか?」


 国王の謝罪で話は済んだ、と連中は思っていそうだ。

 アレはあくまで、国としてどうするのか、という事を問うたに過ぎない。

 今後も俺の扱いに関して見ないふりをするのか、明確に対処するのかと。


 国王はその答えを出した。だから俺もそれで良しとしただけの事。

 肝心の連中への苛つきは、何一つ収まってはいないぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る