第419話、城での朝

 取り合えず半ばふて寝に近い睡眠をとり、翌朝に目を覚ます。


『すぴー・・・すぴー・・・』

「朝・・・起きるか・・・ねむ・・・」


 隣ではまだ精霊が寝息を立てているが、気にせず体を起こして寝室を出た。

 すると目に入って来るのは無駄に広い部屋。一人で使うには余りに不必要な広さだ。


 ただ本来なら城に泊る様な人間は、大概が手勢を連れてきている貴族だ。

 となればその手勢、使用人や護衛を詰めさせておくのに必要な広さか。

 天上も高く感じるのは、武器を振るい易い様にだろうな。


 狭いと小さな武器しか振るえず、そうなると範囲の広い牽制攻撃が出来ない。

 例え敵を仕留められずとも、護衛対象に近づけない攻撃というのは大事だ。

 等とどうでも良い事を考えていると、コンコンとノックの音が耳に入る。


「んー・・・うん、うん」


 ノックの音にうんうんと頷き返していると、静かに扉が開かれた。


「っ・・・!」

「ミク様、おはようございます。お返事が無かったので、まだお眠りかと」


 現れたのは騎士と使用人で、騎士は少し驚く様子を見せた。

 だが使用人はさして驚く事も無く、腰を折って挨拶を告げて来る。

 返事はしたつもりだが。ちゃんと頷き返した。うん。


「・・・うん、おあよう」


 それに返事を返すと、二人共何か衝撃を受けた様な態度を見せる。

 騎士は困惑顔をしているし、使用人は顎に力を入れて何かを耐えているな。

 良く解らない反応だなと思いつつ、少し喉が渇いたので水を探す。


「・・・みず・・・みず・・・どこだっけ」

「ミク様、水でしたら私が用意致しますので、どうぞそちらにお座り下さい」

「・・・んー」


 使用人は素早く俺の望みを聞き入れ、すっと水差しを手に取る。

 喉が渇いた時にどうぞと、昨日寝る前に置いて行かれた物だ。

 俺は素直に椅子に座ろうとしたが、その椅子がどこに有るのか解らない。


 まて、壁しかない。通路はどこだ。壁冷たい。床の方が冷たいな。

 寝起きで少し体温が高いのか、床の冷たさを寒いと感じない。

 むしろ気持ち良いかもしれない。二度寝には固そうだが。


「み、ミク殿、だ、大丈夫ですか?」

「・・・何が?」

「い、いえ、急に床にお座りになられたので・・・不調なのですか?」

「・・・別に、元気・・・うん、問題は、ない」


 ペチペチと床を叩きながら騎士に応え、壁に頭を預けて自分の調子を見る。

 別に不調がある感覚は無く、むしろここに来る前の方が不調だったと思う。

 少々無茶な訓練をして翌日に来ているからな。昨日何もしていない分今日は元気だ。


「ミク様、お水です。飲めますか?」

「んー・・・うん、ありがと」

「っ・・・!」


 使用人が俺の隣に膝を突き、水を差し出して来たので礼を言って受け取る。

 そこでまた使用人が肩を震わした気がしたが、気にせず水を喉に流した。


 冷蔵庫や氷室に入れていた訳でも無い水は、当然ながら生温い。

 それでも寝起きには、これぐらいの温さがちょうど良い。

 暑くて仕方の無い真夏であれば、また話は別かもしれないが。


「んっく、んっく、んっく・・・はふ・・・んー・・・ふああああぁぁああ・・・」

「空になったカップはお受け取り致しますね」

「んー・・・あい・・・」

「っ、可愛い・・・!」


 使用人は思わずという様子で呟きを漏らしながら、空になったカップを受け取る。

 俺が寝ぼけて聞こえてないと思っているのだろうか。しっかり聞こえているんだが。

 まあ俺の容姿は幼い少女だし、可愛いのは単なる事実だけどな。


 どんな生き物でも大体幼少期は可愛いものだ。勿論例外は有る。


「んんっ、ミク様、朝食はどうされますか?」

「・・・食べる」

「畏まりました。量はどう致しましょう。朝食は軽くの方が宜しいですか?」

「・・・うん、夜の、半分ぐらいで、良い」

「はんっ・・・!?」


 使用人の質問に応えていると、横で聞いている騎士が驚く様子を見せる。

 だが返答をしている使用人の方は、一切驚く気配はない。


「畏まりました。ではその様に。ミク様、床は硬くて座り難くありませんか。あちらにソファがございますので、朝食が出来るまでお座りになっては如何でしょう」

「ん・・・」


 手を引かれてソファへ移動し、数回瞬きをすると朝食が出来ていた。

 あれ、俺は何時テーブルに着いたんだ。まあ良いか。食べよう。

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