第412話、城の客室
「ミク様、こちらになります、どうぞ」
「ふむ・・・」
騎士との会話後にテクテク歩いていると、部屋の用意が出来たと使用人が現れた。
割と無軌道に歩き回っていたのに、良く俺を簡単に見つけたものだ。
等と最初は思ったが、良く考えると俺の傍にはクソ真面目な騎士が付いている。
コイツは道中に会う騎士や兵士に、合図の様なものを何度か出していた。
おそらくアレで俺の位置を把握させているんじゃないだろうか。
同時にやらかしそうな貴族を遠ざけ、宣言通り俺に快適な宿泊をさせようとしていると。
本当にクソ真面目に仕事をしてやがる。何処までも筋を通すなコイツは。
そうして案内された部屋の中を見回し、素直に思う事は・・・。
「・・・随分広いな」
『あはは、走り回れるー!』『追いかけっこだー!』『ははははー!』『ひゃっほー!』
「はい。一番良い部屋を御用意させて頂きました」
精霊のテンションが上がって増えて走り回る程に広い。無駄の広いと思ってしまう。
先ず小娘一人が寝る為だけの場所だというのに、何故かベッドが四つある。
そしてそのベッドは今精霊達のトランポリンになっている。
更には居間もあり、しかもその居間が五部屋もある。
たった一人でこの部屋をどう使えと。住む訳じゃ無いんだぞ。
いや、住むとしても五部屋は完全に持て余すが。
台所は無い。これは当然というべきかもしれない。城の客間だからな。
貴族を泊めるための部屋だろうし、そんな部屋に台所は無いだろう。
トイレと浴室は有る。トイレはどういう処理をしているんだろうな。
流石に水洗などではないし、汲み取り式にも見えるんだが。
風呂が排水を地下に流す形の様子を見るに、一緒に流しているのか?
解らん。まあ良いか。別のその辺りの改善など俺の仕事では無いし。
環境がどうだとか衛生がどうだとか未来の為だとか、そんな事を考えるつもりは無い。
そういった事は優秀な学者殿が考えれば良い事。凡人の俺が口を出すだけ無意味だ。
「まあ、良い部屋、なんだろうな」
『兄は楽しい!』『広いと遊びやすいよね!』『べっどふっかふかー!』
「お客様が快適に過ごす事が出来れば、使用人として喜ばしく思います」
軽く腰を折って告げる使用人には、俺に対する恐れが余り無い。
というか、そこのクソ真面目騎士と同じ匂いがする。
多分わざとだろう。確実に『そういう人間』を意図的に当てている。
あの国王め、俺に会うのは恐れる癖に、俺の事を意外と調べているじゃないか。
これは俺が気が付いていないだけで、辺境に俺の観察をしている奴が居るな。
最近人の目を気にするだけ無駄だと思っていたが、こんな弊害があったか。
殺気や害意の無い類の視線だと、最早区別がつかなくなっているからな。
特に辺境は若干頭の足りない力自慢が、俺を舐めた様子で見て来る事も多いし。
後は単純に、小さな可愛い子供、として見つめて来る奴も居るが。
「風呂か・・・そうだな、風呂でも入ってゆっくり考えるか」
『お風呂はいるのー?』『兄も入るー!』『よーし、泳ぐぞー!』
取り敢えず現状は国王に上手く反撃されたと、そこを素直に認めよう。
しかも俺が腹を立てられない筋の通し方をしてだからな。
情けない国王だと思っていたが、流石は王の地位に居る者と言うべきか。
先程も他の貴族を押し退けてでも、現状の解決に踏み切ったしな。
最初に会った時の印象よりも、随分と思いきりが良いと感じる。
いや、もしかするとあの一件が要因となって、そう判断する様になったのか。
「み、ミク殿、私は部屋の外に立っていますので、御用の際はお申し付け下さい!」
突然騎士が慌てて告げ、バタバタと部屋を出て行った。
何だ突然と思ったが、ふと自分の姿を見る。
ああ、クソ真面目な騎士殿なら、女が服を脱ぎ始めたら焦るか。
俺の場合性別の自認すらほぼ無い様なものなので、見られた所で気にもならんが。
そもそも最初にこの世界に生まれ落ちた時は、真っ裸で暴れ回ったしな。
「お風呂に入られるのでしたら、今すぐお湯をご用意いたしますね」
「要らん。自分でやる。お前も外に居ろ。部屋に人が居ると気になる」
「畏まりました。では部屋の外で待機しておりますので、御用の際はお申し付け下さい」
使用人は『ですが』や『どうやって』や『何故』も無く、腰を折って出て行った。
まるで俺をどう扱えば良いのか、完全に解っている様な潔さだ。
実にやり易いが、やり易いが故にやり難い。全く面倒くさい。
「・・・とりあえずゆっくり入るとしよう」
浴槽に魔術で水を溜めつつ、熱波の魔術でお湯にしていく。
「はぁ・・・気持ち良い・・・」
自分で沸かし直しも簡単だから、のんびり長時間は入れるのが良いな。
『うおー!負けるものかー!』『兄の威厳を見せてやる!』『がんばれー!』『負けるなー!』
浴槽で水泳競争している精霊は煩いが。我慢できなくなったら沈めよう。
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