第411話、理由が消えて行く

 俺に付けられたという騎士は、その宣言通り俺の行く先にずっとついて来る。

 ただしそれ以外の事をする様子は無い。俺の行動を止める様子も移動を促す事も。

 最初に宣言した通り、俺が過ごし易い様に、対処の為だけにと言わんばかりに。


 言葉を違えたら文句を言おうかと思ってたんだが、これでは何も言えんな。

 なら挑発した時の様に撒くかと考えたが、撒いた瞬間対処が取られるだろう。

 例えば前に来た時は無かった警笛。アレが城内に鳴り響く予感がする。


 そしてああいった警笛というものは、事前に鳴らし方を決める事で動きを変えられる。

 城へ突入した時も、ただずっと鳴らしているだけでは無かった。

 規則の有る鳴らし方を何回か続け、その後に長く吹く感じだったと思う。


 となれば俺がコイツを撒いた時点で、厳戒態勢になるかもしれない。

 そうなればもう、貴族共は無理矢理にでも部屋へ押し込まれる事だろう。


『ねーねー、妹ー、お菓子はー?』

「無い」

『何でー。さっき過ごし易い様にするって、そこの奴が言ってたよー?』

「しらん」

『妹は人の話を聞いてる様で聞いてないなー。仕方のない子だねー。兄はちゃんと聞いてたよ? 妹の為に付けられたって言ってたもん。ならお願いすればお菓子が出て来ると思う!』

「出ない」

『でるもん! 妹の駄々っ子! 頑固者! 可愛い! 赤ちゃん! 大好き!』


 お前は罵倒したいのか褒めたいのか何なんだ。俺は大嫌いだ。

 さて、そうなるとどうしたものか。俺は馬鹿共を引っかける為に居るんだが。

 もしこのまま何も出来ないというのであれば、滞在している理由は何も無い。


 王都周辺には強い魔獣は居ないし、となれば魔核が手に入ると思えない。

 なら訓練をするかと言えば、ここは敵地と考えた方が良い場所だ。

 ここ最近の消耗する訓練などしていたら、寝首を描かれる可能性もある。


 望めるのは美味い食事位か。王城の食事ならさぞ美味い物が・・・いや、怪しいな。

 過去の記憶ではあるが、王室の争いで毒殺の警戒をしていた記憶がある。


 というか、有名どころの貴族は大体が毒殺を警戒していた。

 なので毒見を済ませた料理を食べる事が多い。

 しかも毒見を済ませた後、暫く待ってから食べる。毒の効果が出るまで待つ訳だ。


 用意の時点で時間をかけ、出来てから着席し、毒見に食べさせてからやっと食事。

 そうなると大体の料理は冷めている。冷たい料理なら良いが、暖かい物はすぐ食べたい。


「おい、お前は普段から城に勤めているのか?」

「はい。部隊長を任されております」

「・・・部隊を率いる人間が、俺に付いていて良いのか?」

「むしろ貴女に下っ端を付ける様な真似は出来ません。失礼を働いては事ですので」

『妹は大事だからね!』


 これはその部下が失礼というよりも、起きた出来事に対処できない可能性か。

 となるとこの騎士、どこぞの貴族の血を持っている可能性が有るな。

 貴族を黙らせられるのは、大体はどの世界でも殆どは貴族だ。


 後は貴族に金を貸せる大商人とか、民の人気の高い英雄とか、その辺りか。

 それに国王の後ろ盾が有ったとしても、平民ではその力を振るうのに躊躇する。

 全く持って的確な人選をやってくれるな。適当に絡む事が絶対に出来なくなった。


「随分と頼りにされているんだな」

「身に余る光栄です」


 むしろ身の丈に合った人選だろうよ。こいつはクソ度胸が過ぎる。


「まあ良いか。とりあえず一つ聞きたい事が有るんだが」

「何でしょうか。私に答えられる事であればお答えいたしますが」

「城の食事は美味いのか?」

『それ大事!』

「ミク殿は客人として迎えられますので、不味い食事など出せるはずもありません。ただお口に合わない可能性もありますので、必ず美味な物が出るとは言えません」

『・・・おいしいの? おいしくないの? どっちなの?』


 美味い不味い一つに対してもクソ真面目な回答だ。

 確かに口に合うかどうかは個人の差だから解る話だが。


「毒見の類はしているのか?」

「勿論です。安全はしっかりと確認してお出しいたします」

「・・・そうなると、冷えた物が出てきそうだな」

「それは・・・そうなるかもしれません」

『えー、兄あったかい方が良いー』


 否定しなかったなコイツ。やっぱりそうなる訳か。

 辺境領主は平気で食ってたが、あれは部下を信用してるからだろうか。

 厨房の中までは目が届かん気もするんだが・・・何か対処をしているのかもしれんな。


 そういえば初めて会った貴族達も、確か暖かい料理を出して来たな。

 領主クラスはそこまで狙われないのか? 狙われない理由でもある?

 いや、辺境領主は明らかに狙われているし、やはり毒殺の危険もありそうだが。


 解らん。あの有能な使用人達が防ぐと、そう信じているだろうか。


「ミク殿がお望みであれば、暖かい物を届ける様に命じますが。勿論厨房に監視を置いて、安全を確保した上で作らせます・・・それでも、万が一が無いとは言い切れませんが」

「徹頭徹尾クソ真面目な補足をどうも」

『ありがとね!』


 つまり監視を置いた所で、誰かが買収されていれば毒が盛られるという事だ。

 全ての状況で全てを監視、などという事は現実的ではないからな。

 何というか、どんどん滞在理由が無くなっている気がする。もう帰るか?

 

 それはそれで何だか悔しいな。国王にしてやられた気分になる。

 何か良い手は無いか。せめて一晩だけでも泊ってゆっくり考えるか。

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