第410話、騎士付き

「ミク殿、お待ち下さい!」


 思わずため息を吐きながら、呼び止めて来た者へと目を向ける。

 今度は男の様だ。というかさっき居た騎士の一人だな。

 それも騎士共を一喝していた騎士だ。


「・・・どうした」

『今度はなあにー!』

「え、い、いえ、ミク殿がどうなされたのかと。部屋の準備は今させておりますが・・・もしや気が変わって帰られるのでしょうか」

「いいや、帰らんぞ。ただあの場に居る気が無いだけだ」

『妹拗ねちゃったからねー』


 煩い、別に拗ねてない。面倒になっただけだ。まるで猫に虐められたみたいに言うな。


「そうでしたか・・・」


 ・・・会話が止まった。何だ確認に来ただけか。ならもう良いよな。

 そう思い踵を返し、スタスタと部屋から遠ざかる。

 すると騎士の男は俺に付いて来て、無言で俺の後ろを歩き続ける。


 何となく歩幅を少し開くと、同じ様に歩幅を開いてきた。

 元に戻すと同じ様に戻し、俺と同じ速度で突かず離れずと。


「何なんだ、俺に何か用なのか」

「いえ、自分はミク殿に付く用にと命を受けましたので」

「は?」

「ミク殿が城で過ごされる際にご不便が無きようにと、国王陛下と騎士団長が命じられました」

『おー、じゃあお菓子、お菓子持って来てー。後お茶もね!』


 ・・・・ご不便、ね。不便があるのは俺ではなく、お前らの方だろうが。

 俺が猫やあの娘と話している間何かしている気配は有ったが、そんな指示を出していたか。

 つまりは俺が動く前に、この騎士が先に動いて事を終わらせる為だろう。


 若しくは俺を一人にしない事で、騎士が傍に付く事での行動の抑止か。

 国王が命じた騎士が傍に居るとなれば、その行動は全て国王へと入る。

 既に騎士を付けた話も通っているだろう。となれば俺に馬鹿をやらかす輩は少ない。


 むしろ先程の国王の焦りを考えれば、手を出さずとも拘束する可能性も有るだろうな。

 通りがかった際の暴言。それだけでの俺にとっては手を出す理由になる。

 王都で王城の奥に居る、危険とは程遠い位置で暮らしてる連中は危機感が無いからな。


 だからこそ、あの暗殺組織を抱える様な奴がのさばる事が出来たのだろう。

 他の連中の薄い危機感の中、一人危機感と、それを超える野望を持っていたが為に。


「要らない、と言ってどくか?」

『え、何で!? 兄はお菓子欲しい!』

「申し訳ございません。陛下直々の命に背く事は出来ません」

「俺に殴り殺されたとしてもか」

『おっかしー! おっかしー! おっ茶も飲っみたっいぞぶべ!?』


 煩い。今真面目な話してるからちょっと足の下で黙ってろ。


「陛下直々の命に背いた時点で極刑となる可能性もございます。なればどちらを選んでも同じ事でございましょう。どちらを選ぶとなれば、私は騎士としての生き様を全うしたくあります」


 ああ、これは駄目な奴だな。クソ真面目が二人目か。

 コイツは俺の恐ろしさを知り、その上でこれを吐いている。

 つまりは全て覚悟の上であり、下手をすると望んでこの場に居る感じがするな。


「何よりミク殿は、筋の通らない事を不愉快とする発言をされておりました。であれば事が起らぬ様に事前対処の為の配置は、受け入れて下さるものと思っております」

「・・・良い度胸をしているな、お前」

「よく言われます」


 本当に良い度胸をしている。俺の機嫌を損ねればどうなるかと、皆が思っているだろうに。

 的確に俺の言葉を拾い上げて、俺なら断らないだろうと言って来やがった。

 これは理不尽な行動ではなく、筋を通すが故の行動だと。


「・・・ふん、精々俺に撒かれない様に気を付ける事だな」

「ご納得頂けた事、感謝致します」


 ちっ、良く言う。ほぼほぼ了承する事が解っていたくせに。

 それでも俺に言い切る度胸は、やはり中々の物だとは思うがな。

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