第409話、呪いの道具への対処へ

「ちっ、ならもう話す事は無いな」


 心の中と表と両方で舌打ちをしながら、猫から視線を外して部屋を出る。


「精霊付き殿、お待ちを!」

「・・・まだ何かあるのか」

『なーあーにー?』


 だがその歩みを客人の女が止め、面倒になりつつも振り向いた。


「あのお方は無事なのか。ずっと外に出る事など無かった彼の方が外に出て、問題は起こっていないのだろうか。それだけでも教えて頂けないだろうか」


 相変らず精霊が見えてない女は、俺に対しそんな事を訊ねて来た。

 視線を猫に向けると優しい笑みを向けており、だがそれを伝える気は起きない。

 そんなものは俺の知った事じゃない。お前らで話をするべき事だ。


「・・・はぁ、俺に通訳をさせるな。そんな義理は無いし、手間をかける理由もない。さっきまでは俺が少し興味があっての事だ。もう興味が無い連中の為に話す事は無い」

「っ、そ、そうか・・・」


 溜め息を吐きながらの返答に怒るかと思ったが、意外にも女は納得する様子を見せた。

 最初に突っかかって来た事を考えれば、礼儀だ何だと言って来るかと思ったんだが。


「確かに貴殿の言う通りだ。これはこちらが解決すべき事だろう。手間をかけて申し訳ない」

「・・・最初と随分態度が違うな」

「先程は貴殿を賊だと思っていた。騎士達の動きもそれであったし、陛下も貴殿を警戒しておられた。ならば賊の対処をするのは当然の事だろう」

「・・・成程、クソ真面目なだけか、お前」


 何の事は無い、猫が言った通り『正義感』が過ぎるだけの話だった。

 他国の騒動など放置すれば良いのに、賊を放置できぬと首を突っ込んだだけか。

 結果として一族相伝の精霊を無くした訳だが、まあそれも俺には関係の無い話だ。


 一応無くした訳じゃ無いからな。精霊は相変わらずアイツの傍に居るつもりらしいし。


「用件はそれだけか。なら俺はもう行くぞ」

「あっ、いや、もう一つ良いだろうか」

「何だ」

「私の名はヒャナミャリャ・ミュニャム・ンビュミャムと言う。良ければ貴殿の名を教えて頂けないだろうか」


 ・・・凄い名前してるな。時々居るんだよな、そういう呼び難い名前を誇りにしてる一族。


 ヒャナ・・・いや、覚えなくても良いか。呼び難いし、関わる事も無いだろうし。

 他国の人間だというのであれば、余計に出会う可能性は低いだろう。

 面倒臭いし、コイツの居る国を避けるのもアリだ。というかそれが一番良いな。


「さっき国王が言っていただろう。ミクだ」

『僕ヴァイド!』

「家名は持たないのか」

「要らん。俺はただのミクだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「そうか、ならばミク殿、今後も宜しく頼む」

「は?」

『よろしくー!』


 今後とは一体何の話だ。まさか他にも俺の知らない所で話を進めていたのか。

 そう思い国王を睨むと、彼はビクッと背筋を伸ばしてから慌てて首を横に振った。

 知らない・・・いや、何もやっていない。話していないという事か?


「この国は呪いの道具を使われたと聞いた。その様な一方的な愚行を我々は許すわけにはいかんだろう。力を持つ者として共に義を持たぬ悪漢を打ち取ろう」

『おー、かっけー! うっちゃうぞー!』


 ああ、そうか、うん。こいつ本当に無駄にクソ真面目なんだな。

 そしてそれを俺もやると思ってやがる。やる訳無いだろう。

 というかアレだな、スラムの連中に聞いた通りの流れが出来始めてる感じか。


 戦争が正式に始まった訳でもない状況で、呪いの道具を持ち出した奴が居る。

 ソイツを叩き潰す為に他国が動き出したか、それとも協力を求めたか。

 まあどちらにせよ今の俺には関係ない。


「俺はただの悪党だ。知った事じゃないな。やるなら勝手にやれ」

「なっ・・・!」

『あ、妹待ってー! おいてかないでー!』


 今度こそ女から背を向けて、謁見の間から外に出た。

 ここで待つ方が本当は良いんだろうが、もうあれらと絡むのが面倒だ。

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