第413話、ミクへの認識
「ふぅ、さっぱりした・・・」
『楽しかったー♪』
浴室に備え付けてあったタオルで体を拭き、寝室に戻ってベッドに腰を下ろす。
服は着ずにそのままなので、あのクソ真面目騎士が見たら慌てて出て行く事だろう。
素っ裸なのは服をついでに洗って干しているからで、別に露出したい訳じゃない。
「この辺りに何か有りそうな気がするんだが・・・有ったな。とりあえずこれで良いか」
クローゼットらしき場所を少し調べると、やはり色々と入っていた。
中にはタオルやシーツなどが幾つかと、ガウンらしきものがかけてある。
態々俺に合う子供サイズを用意している辺り、中々にきっちりした仕事だ。
「まあ、今はこれで良いか・・・おお?」
『妹、驚いてどしたのー?』
「いや、随分と着心地が良いなと・・・何の素材なんだこれ」
『どれどれー? おーフカフカだけどサラサラー? ふっしぎー』
精霊の言う通りフカフカしているが、同時にサラサラとした感触も有る。
これを纏って寝るなら、それはきっと心地良い事だろう。
欲しいなこれ。何処かで買えないだろうか。
「予想外に良い事が有った、と言うべきなんだろうか。この場合」
『兄はポケットここで寝まーす。おお、気持ち良い!』
ボスンとベッドに転がると、少しだけ眠気が襲って来た。
このまま目を瞑ればすぐに意識を落とすだろう。
服だけの事では無く、ベッドの質や、部屋の匂いも関係している気がする。
何となくではあるが、精神に作用させる香りな気がする。心を落ち着かせる香りだ。
「ただの歓迎の為の香り付けなのか、それとも何かの仕込みなのかは解らないが・・・何か企んでいるのなら、仕掛けてくれる方が嬉しいが・・・」
『すぴー・・・すぴー・・・』
あのクソ真面目共を付けておきながら、国王が仕掛けてくる訳は無いか。
何かしてくるとすれば、他の貴族に買収された人間だろう。
そしてあの二人は買収される人間には見えない。確実に拒否する人員だ。
おそらくだが、あの娘もそこそこ位の高い貴族の娘なのだろう。
城の奥の、それも貴賓の世話に、地位も血筋も無い一般人はそう居ない。
本来なら誰かの侍女として仕えている人間を、俺に態々回した可能性もある。
等と考えながらボーっとしていると、小さめなノックの音が耳に入った。
「入って良いぞ」
それに応えると一泊遅れて扉が開き、使用人が腰を深く折る。
「ミク様、お休みの所失礼致します。護衛から夕食を楽しみにしていると伺ったものですので、失礼ながらこちらから訊ねさせて頂きに参りました。余計な真似で不快にさせましたら、誠に申し訳ございません」
俺の姿を見て一瞬で眠りかけていた事を理解し、その邪魔をした事を謝罪。
その上で端的に用件を告げて、それでも不快にさせた事を再度謝罪と。
気を使っての行動だが、それを余分と受け取られたら自分の落ち度だと言っている。
何と言うか、本当に完璧だな。これに文句を言うのは余程の馬鹿の類だろう。
「それにミク様の立場を考えれば、城の食事は信用がならない事でしょう。ですので拒否されても何も問題は有りません。お望みでしたら厨房を一つ、ミク様専用にする事も可能ですが」
騎士といい使用人といい、俺が毒殺されるとはっきり言って来るな。
それだけ俺に事を邪魔だと思い、そして軽く見ている奴が居るという事だろうが。
「夕食は貰おう。俺を毒殺などすればどうなるか、お前達には解らん訳でも無いだろうしな」
「勿論でございます。それに私共も、その様な愚か者を許すつもりはございません」
ん、気のせいか、今この使用人から結構な怒りと殺意を感じた気がする。
俺に対してと言うよりも、その『愚か者』に向けた感じだったが。
「ミク様を害する様な愚か者は、この国を潰したいと言っているに等しい事です。その様な者を許す訳にはまいりません。絶対に、実行犯のみならず、指示した者も捕らえましょう」
・・・うん、気のせいじゃないな。思いっきり殺意を感じる。
というか、口ぶりから既に『愚か者』の心当たりが有る感じがするんだが。
「・・・心当たりのある言い草だな」
「はい。大恩ある方だという認識すら未だに無い時点で、国には不要な愚か者ですから」
大恩? 何の事だ。俺は王都では暴れた事しかないぞ。
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