第368話、牛の気遣い

「・・・牛よ、起きたのは何か理由が有るのか?」


 精霊と穏やかに、にこやかに話している牛だが、少し声音が緩い。

 それに目はただの笑顔ではなく、どこかトロンとしている。

 明らかに眠そうだ。なのに起きたという事は、起きる必要があったという事だろう。


「ふふっ、寝たままだと、心配をかけちゃうかなと思ってね。起きれないぐらいに消耗したのかと思われちゃうかもしれないかなって。だから大丈夫だよって、言っておこうと思ったんだ」

「成程。確かに領主は心配していたな」

『してたねー』


 杖を壊したのが牛だと伝えた後、領主は感謝の後に心配をしていた。

 となればこれは領主に伝えておけばいいだろう。

 俺は多少に気になった程度で、心配はしていなかったしな。


 精霊はいつの間にか一体に戻って、牛の頭の鼻先に座っている。


「だが実際の所はどうなんだ。アレだけの事をして、消耗は無いのか?」

『どうなんだい!』

「あははっ、実を言うと、ちょっと疲れちゃったかな。今年は少し、暖かい時期が短くなっちゃうかもしれないね。あの子達には申し訳ないなぁ」


 やはりそうか。牛がここに居るのは、この土地の安定の為だ。

 と力溢れる力を受けて強くなっているが、同時に強い力の制御もやっている。

 全力を出しても季節一つ分しか抑えられないそれを、加減をしながらでも続けている。


 だと言うのに、そこに追加でアレだけの事をすれば、疲れないはずが無いだろう。

 あれは明らかに強すぎる力だった。呪いの杖の力が玩具に見える程に。

 それだけ怒りで全力を出した、という事なのだとは思うがな。


「お嬢さんが来るのは、何となく感じていたから、起きようと思ったんだけどね。少し眠くて、精霊さんが居なかったら起きれなかったかもしれない。ありがとうね」

『どういたしましてー。ふふっ、これで妹は兄の事を更に好きになるに違いない』

「ならないから安心しろ」

『何で!? 何で!?!?!???』


 好きになる要素が無いからだ。そんな心底不思議そうな顔をするな。

 むしろ俺の方がそんな顔をしたい。何でお前が俺に好かれてると思った。

 と言うか、更にって事は好きな事前提か。自己評価が高すぎる。


「牛よ、もう少し起きていられるか?」

「んー、うん、大丈夫だよ。少し世間話するぐらいは、起きていられると思う。でも次寝たら、多分また暫く起きないと思うかなぁ。今度は起きようと思っても、ちょっと辛いかも」


 ならば今この瞬間が、牛と話す最後のチャンスか。

 勿論長々と待つつもりであれば、来年でも良い訳だが。

 折角都合の良い機会が来たんだ。わざわざ待つつもりは無い。


「最近魔核を食べても強くなれなくなったんだ。お前は元々魔獣だろう。お前の時はそういう事は無かったのか?」

『うしもそうだったのー?』

「うーん、僕の時は・・・どうかなぁ・・・とにかく逃げて、食べられる魔獣だけ食べて、逃げてってやってたから・・・気が付いたら結構強くなってた感じで、良く解らないかなぁ」

「そうか・・・」

『そっかー』


 この牛ならば何か答えを持っているか、と思ったんだがな。

 まあ仕方ない。俺も必ず答えが手に入るとは思っていなかったしな。


「あー・・・でも、もしかしたら」

「っ、なんだ、何か心当たりが有るのか」

『何々ー、教えてあげてー』

「あ、でも、違うかもしれないけど」

「何でも良い。何か答えになる事が有るなら教えてくれ」

「うーん・・・その、もしかしたら、小さいからじゃ、ないかなぁ、って」

「・・・は?」

『確かに妹は小さい!』


 いや確かに俺は小さいが、精霊には言われたくない。

 手のひらサイズだろうがお前は。というか、小さいって。

 牛の事だから冗談じゃないと思うが・・・まさか大きくないと許容量が小さいのか?

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