第369話、必要な事

 言われてみると、強かった魔獣は大体大きかった気がする。

 巨大な魔獣に比べれば小さい魔獣も、人間よりははるかに大きかった。

 そういえば、魔核の力だけは強い狸の魔獣が居た。アイツ等は弱かった気がする。


 いやだが同じぐらいの大きさの魔獣でも、強い魔獣はそれなりに居たはずだ。

 かなりてこずった記憶の有る中型ぐらいの魔獣も、魔核の力は同じぐらいだった。

 だが眼の前に巨大な魔獣が居る。半精霊にまで至った巨大な魔獣が。


 ソイツが『小さいからだ』と言うと、その言葉には説得力がある。


「まさか、魔獣は体が大きくならないと、強くなれないのか」

『そうだったの!?』

「あ、いや、えっと、そうじゃなくてね」

「違うのか?」

『違うのー?』


 小さいとは、体の大きさの事じゃなかったという事だろうか。

 ならば牛は何が見えている。一体俺の何が小さい。


「お嬢さんまだ子供だし、増えた力に体が追いついて無いんじゃ、ないかなー、って」

「・・・こど、も」

『なるほどー、妹はまだ赤ちゃんだからね!』


 それは完全に盲点な話だった。俺は自分の事を化け物だと思っていたから。

 普通の生物らしい成長などしないのだろうと、思い込んでいた所がある。

 生まれつきあれだけの力を持っていたんだ。成長による強化など無いだろうと。


 だが牛の言う所は、身体が未熟だから上手く動かせないと言っている訳だ。

 同族の子供が大人に何をやっても勝てない様に、個としての成長をしていないと。


『ん、なに、妹。どったのー?』


 そして牛の鼻先に居る精霊は、今俺の事を『赤ちゃん』と評した。

 つまり精霊にとっては、俺はよちよち歩きの赤ん坊に見えているのか。

 そう考えると、精霊の俺への絡み方に少し納得がいく。


 自立した大人相手では無く、赤ん坊の面倒を見続けて来たのであれば。

 普段の理解不能な言動も、不機嫌な赤子をあやす様なものだったのか?


「・・・成長するまでは、今以上に強くなるのは、難しい、のか」


 まいったな。これは本当にまいった。まさか解決手段が時間しか無いとは。

 もしや最近少し時間が経ってたら体に馴染んだ気がしたのも、成長したが故か。

 そう考えると他の魔獣よりは成長が早いんだろうが、それじゃ遅い。


 あの呪いの力を見てしまった今、精霊を封じる力がある世界だと知っている今は。

 のんびりと成長するまで待っている、等という手段しか無いのは困る。


「・・・強くなる手段は有ると、思うよ」

「っ、なんだ、何をすれば良い。眠いのだろうが端的に教えてくれ」


 牛は段々と、うつらうつらとし始めていた。

 頭は地面い置いたままだが、目が半分閉じかけている。

 それをどうにか堪えて会話を続け、俺の為に無理をしてくれている。


 そんな事は解っている。だがそれでも、この答えだけは欲しい。


「・・・君が、得た力は、間違いなく、君の中にある・・・だから、体の成長を待たずに引き出すには、引き出すのに慣れる、事、かな・・・それに、君は・・・まだ、精霊としての力を使えてない・・・精霊の力を、使えば・・・今でも、もう、すこし・・・」

『・・・うし、寝ちゃった?』

「その様だ」


 贅沢を言うなら、もっと詳しい話を聞きたかった。

 だが今の言葉でも十分だ。牛はしっかりと答えをくれた。

 成程、食べた分の魔核の力は、間違いなく体の中にある訳だ。


 俺が良く解らなくなっただけで、確実に蓄積されていると。

 それを引き出す手段を考え、そして未だに解らない精霊の力か。

 牛よ、感謝する。ゆっくり寝てくれ。


『解ったのは、妹が赤ちゃんだから大変って事だね!』

「・・・」


 間違ってないんだろうが、なんか気に食わない。

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