第366話、移動がてらの訓練

 取り合えず門に向かうと、周囲からやけに声をかけられた。

 ありがとうだの何だのと感謝の言葉を投げられ、それを気にせず歩いて行く。


『いやー、どうもどうも、どうもどうも』


 何故か精霊がご機嫌に答えているが、当然それは誰にも見えていない。

 そうすると当然だが、中には「何だよあの態度」と言い出す奴も居る。

 まあそうなるだろうな、と思っていたらそいつが囲まれて殴られた。


 流石に驚いて視線を向けると、気にしないでくれという感じで手を振られる。

 悪態を吐いた男はどこかに連れていかれた。


「・・・まあ、良いか、別に」

『妹がみんなに好かれて兄は嬉しい!』


 好かれたと言うか何というか。ちょっと過激な気がするんだが。

 とはいえ俺に害がある訳でも無し、気にせず門まで向かう。

 すると何時もの門兵が俺を見つけ、笑顔で手を振って来た。


「おお、嬢ちゃん、怪我したって聞いたんだけど、大丈夫か?」

「この通り、問題無い」

『もう元気だよ。いっぱい寝たからねー』


 まさか二日寝るとは思わなかったがな。しかもそれでも少し疲れが残ってる。

 いやこれ、もしかして寝すぎて疲れたのか。可能性は有るな。


「そうか、良かった。いやー、こっからでもあのトンデモは見えてたからさぁ。嬢ちゃんが戦ったって聞いて心配してたんだよ。しかも怪我したって聞いてたら尚更だ」

「・・・一つ聞きたいんだが、その話、どこまで広がってるんだ?」

「ん? もう街中広がってるぜ。昨日の内に」

「・・・そうか」

『妹が一晩で人気ものになっちゃった。兄も負けないぞー!』


 俺が一日ぐっすり寝ている間に、もう手遅れな状況になってるみたいだな。

 いや、別に構わない。メラネアの時と一緒だ。

 周囲がどう思っていようと、俺の態度は変わらない。どうせ評判もその内元に戻る。


 だから踊るな。どうせ誰も見えてないのに羽を付けてアピールするな。


「とりあえず山に向かうつもりなんだが、行って良いか」

「そりゃ構わないが・・・疲れとか残って無いのか? 大丈夫か?」

「無理そうならすぐに帰って来る」

『お土産は期待しないでね』

「そうか・・・なら良いんだけどさ。ああ、何時も通り上から行ってくれて構ないよ」

「解った。じゃあな」


 循環をかけて強化し、軽く飛んで砦の外壁へと昇る。

 すると砦の上に居た兵士達が全員敬礼し、とんで行く俺を見送った。

 下の奴は普段通りだと思ったのに、コイツ等もこの調子か。


 まあ魔物の見張りで居るから、大声を出さないだけマシと思うか。


「それじゃ、いく、か!」

『いっくぞー!』


 循環させている魔力の量をどんどん上げて行く。

 当然制御できずに魔力が漏れ始め、それでも気にせず上げて行く。

 強い脱力感と疲労感を感じるが、それも無視していると痛みも感じ始めた。


 あの時と同じだな。そうして安定しない循環を使い続け、そのまま走る。


「うお!?」

『おーっ、吹き飛ぶー』


 思った以上の力が出てしまい、跳躍しすぎて木々の上の着地をミスって落ちた。

 しかもリカバリをしようとしたら、足場にしようとした木が爆散。

 そして当然その勢いで足を伸ばしたとなれば、体は吹き飛んでいく。


 ワタワタしながら体を動かし、地面に着地するもそれもまた失敗。

 軽く足を突いたつもりが、思い切り地面を踏み抜く形になった。

 当然衝撃で雪が舞い上がり、上の方から嫌な音が聞こえる。


「久々の雪崩だな・・・」

『あはははは! たーのしー!』

「俺は何も楽しくない・・・」


 ちっ、体が上手く動かん。やはり限界以上に強化してるとこうなるか。

 しかも脱力感のせいで余計に力加減が解らん。ああくそ、本当に不器用だな!

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