第364話、着替え
「まあ何にせよ、これを食べたら行って来る・・・もぐもぐ」
「そうか、ならばこれ以上食事の邪魔をしても何だし、私は仕事に向かうとするよ」
『おしごとがんばってねー・・・もぐもぐ』
領主は本当に俺の様子を見に来ただけだったらしく、大した話もなく去って行った。
恐らくではあるが、一日経っても有益な情報が無かったんだろう。
俺や、俺が駆けつける前の戦闘の様子ぐらいか。正確に解っているのは。
「もぐもぐ・・・そういえば、血まみれのまま寝たんだったな。忘れていた」
『もぐもぐ、破れてるけど、捨てるのー?』
「いや、これ自体は良い物だしな・・・とりあえず洗ってから修繕だな」
今着ている服は防寒具のコートの中に着る類の服だ。
段々暖かくなって来たからなのか、最近はこの格好でも寒くない。
流石に外は無理だが、室内ならこの格好でも十分な良い服だ。
ただ今は右腕だけ寒い、という事に今更ながら気が付いた。
あと血まみれで汚いし、固まってしまって肌触りも悪い。
洗いたいな。これ食べ終わったら一回洗うか。
そんな俺達の会話を聞いた使用人は、すっと俺の横に移動した。
「ミク様、宜しければお着替えをこちらでご用意致しましょうか。洗濯もこちらでしておきますので、ミク様の御用が終わり次第回収に来て頂ければお渡し出来ますよ」
「・・・用意して貰えるなら、気にせず受け取るが」
「承知致しました。ではご用意致しますね」
着替えの類はもって来ていないので、一旦宿に戻らなければいけない。
なら着替えを受け取る方が、食事を終えてそのまま山に向かえる。
そう思い素直に頷くと、その後の動きも早かった。
直ぐに指示を出したのか、数人の気配が遠ざかっていく。
至れり尽くせりだな。まあ良いか。もう気にしないでおこう。
とりあえず今は腹を満たすのが先だ。食う端から腹が減って来る。
消耗をした分を取り返そうと、体がエネルギーを欲しているように感じるな。
その要求のままに食べ続け、何時も以上の量を食った辺りで少し落ち着いて来た。
「ふぅ・・・かなり食ったな」
『まんぷくー』
ふぅと息を吐いて皿を見ると、何時もの倍以上食っている様に思う。
いや、途中で下げた皿が有ったので、もっと食っているか。
精霊は何時も通りだった気がするが、何故か腹が膨らんで仰向けで寝ている。
どうなってんだお前の体。ついさっきまで普通の体形だっただろうが。
ただ突っ込むと楽し気に返して来るのが想像できたので、すっと視線を逸らす。
『あはははははははっ! この体系だと転がり易-い!』
逸らした視界に転がって入って来るな。
「ではミク様、こちらに。お着替えをご用意しております」
「・・・わかった」
『あ、まってまってー! これ曲がるの難しいべふっ・・・跳ね返ったー? 成程跳ね返ったら思った通りにぶえっ・・・あれ? おかしいな、兄は妹を追いかけたいのに!』
テーブルから落ち、壁にあたって跳ね返りながらゴロゴロ転がる精霊。
それを冷たい目で見てから放置し、使用人について行く。
キャっという声とガシャンという音が聞こえた気がしたがきっと気のせいだ。
「お気になさらず、精霊様の悪戯では、致し方ないかと」
「いや、察しが良すぎるだろう、お前」
「ミク様の表情や雰囲気から大体は解りますよ?」
「えぇ・・・」
絶対嘘だ。それはお前だけの特殊能力だ。
当然ですみたいな顔してるけど、普通無理だからな。
突っ込むのは面倒になって来たので、黙ってついて行くが。
そうしてすぐそばの部屋に通され、幾つかの衣服を手渡された。
普通のインナーは良いとして、何でドレスがあるんだ。
着ないぞ。どうですかって勧めても着ないぞ。ドレスで雪山に行ける訳無いだろ。
街中は雪も止んで暖かくなり始めた気配があるが、山の方はまだ吹雪いてるからな。
取りあえず無難な服を選び、悪くない着心地なのを確かめて脱いだ服を渡す。
残念そうな顔をする使用人が数人居たが無視だ無視。
『兄も妹はドレスが可愛いと思います! そしたら兄も可愛くなるよ!』
煩い、お前はお前で何がしたいんだ。羽を付けるな。増やすな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます