第359話、誰の手柄か

『ただいま! コロコロ転がって楽しかった!』

「・・・」


 領主館の中へ入ると同時に、精霊が帰って来た

 それを気にせず案内を受け、今日は執務室の方に向かう様だ。

 ただ前回とは状況が違うからか、案内する使用人に緊張感はない。


 そうして執務室に辿り着くと、軽くノックをした後に扉が開かれる。

 客間の時は「入れ」という声を待つ事が多いのに、こっちでは待たないんだな。

 いや、客間の時も待たない時がるから、事前に指示が通っているのか?


「旦那様、ミク様をお連れしました」

「ご苦労。茶を頼む」

「畏まりました」

『お菓子もお願いね!』


 使用人は軽く腰を折って退場し、領主は執務机から立ち上がる。


「ミク殿、座ってくれ」

「ああ」

『すーわるー』


 そのまま執務室にあるソファーに移動し、俺にもそこへ座る様に促す領主。

 素直に従って彼の正面に座り、精霊はぴょんと飛び乗ってポンポン跳ねる。座れよ。


「先ず・・・その腕は、大丈夫なのか?」

「ん? ああ、問題無いぞ。報告は受けてないのか?」

『治ってるから大丈夫だよー?』

「貴殿が無事だという事は聞いていたが、負傷に関しては聞いていなかった。それは返り血という事か」

「いや、俺の血だ。打ち負けてな。手も腕も変な方向に曲がっていた」

『兄はプンプンでした!』


 俺の返答を聞いた領主は、ごくりとつばを呑む様子を見せる。


「貴殿が、打ち負けたのか」

「ああ。アレは中々脅威だな。状況が違えば今頃死んでいたかもしれんな」

『ほらー、やっぱり兄が来てよかったじゃ-ん?』


 一々煩い。そんな事は解っている。お前が来たから解決した事は。

 それでもアレは俺の喧嘩だ。俺が売った喧嘩だ。そこは譲らん。


「・・・やはり、あの手の道具は危険だな」

「全くだ」


 あんな物が世界中にゴロゴロあると思うと、脅威以外の何物でもない。

 勿論そんなに数は多くないだろうが、既に二つ確認されている。

 あの杖と、この国が封印している道具。となれば3,4つ目が無いとは言えないだろう。


 むしろ複数所持している国が有っておかしくない。アレは切り札になりえる。

 問題点を上げるとすれば、使い手が潰されるという点ではあるが。


「報告では、杖は跡形もなく砕かれたとあるが、事実か?」

「事実だ。完全に砕いた。恐らく核だったのであろう一番大きな石も完全に砕かれ、嫌な感覚のする力も霧散した。少なくとも、今回の道具に関しては、二度目は無い」

「そうか・・・」


 アレだけの存在感とでも言えば良いか、力を放っていた道具から何も感じなくなった。

 恐らくは『死んだ』のだろうと思う。呪いの道具とは良く言ったものだ。

 あれは『生きている』道具だ。道具自体が意思を持って動いているに近い。


 勿論人間の様な思考は無いかもしれないが、精霊や牛の行動に対処をしようとした。

 間違いなく杖自身が、使い手の思考など無視して行動を起こした結果だ。


「・・・貴殿には、また助けられてしまったな。今回の件は・・・いや、今回の件もだな。貴殿にはどれだけ感謝しても足りん恩が出来た」

「俺は俺のやりたい事をやっただけだ。感謝される様な事はしていない。それに今回あの杖を破壊したのは俺じゃないしな」

「なに? では一体誰が・・・」

「牛だよ。アイツが手を出して来た。どうやら最後の一発は見過ごせなかったらしいな。いや、その前の時点で怒っていたのかもしれないが、あの最後の一発が放たれていたら、砦がどうなっていたか解らん。だが杖は墓守の怒りに触れて、墓荒らしらしい最後を迎えた訳だ」

「―――――っ」


 俺の言葉を聞いた領主は、目を見開いた後で山をの方へ顔を向ける。

 そしてわなわなと震えたかと思うと、突然席を立って床に膝を突いた。

 山の方へ祈りをささげる様に。感謝をここからでも伝える様に。


 まあ伝わってはいないと思うがな。あの牛も細かい事は解ってないみたいだったし。

 今回はあの呪いの杖の力が大き過ぎて、目標にするのが簡単だったのだろう。

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