第357話、初めての騎乗
「あっはっは、流石の貴女も疲労には勝てないみたいね。ほらほら、こっちよこっちー」
「こいつ・・・よし、お前がその気なら本気で蹴ってやろう」
『妹頑張れー!』
魔力循環を使い強化して間合いを詰める。
「ちょっ、魔力を纏うのは反則でしょ! それじゃ折れる所か吹き飛んじゃう! って言うか貴女あれだけふざけた量の魔力使って、まだ魔力そんなに残ってるの!?」
「無いとは言ってない」
『兄はまだ余裕!』
循環を使うと流石に疲労感を覚えるが、そのまま維持してじりじり距離を詰める。
支部長も同じ様に魔力を纏ったが、その量はかなり弱弱しい。
おそらくこいつも大分無理をしているんだろう。魔力は殆ど空なんだろうな。
「ごめんごめんごめん! ちょっとまって、本気で待って、それで蹴られたら片足になる!」
「お前が挑発したんだから、仕方ないよな」
『いけいけー!』
「ちょっと安心して調子に乗っちゃったのぐらい許してよぉ!」
「ミク殿、お待たせ致しました・・・その、何をされているのでしょうか」
支部長との間合いをじりじり詰めていると、困惑した表情の騎士が現れた。
メボルじゃない。獣に騎乗した女騎士だ。随分と早いな。
「何でもない。ちょっと支部長の足を砕こうと思っただけだ」
「それのどこが何でもないの!? 一大事よ!? 本当に止めてよ!?」
「・・・仲が良いですね」
この女騎士と精霊の目は腐っているのだろうか。これのどこが仲良く見えるのか。
それにしても迎えに来たにしては、車の類が無い様だが・・・。
「それで、何の用だ?」
「ミク殿が領主館へ送迎を要望されているとの事で、私に命が下りました」
「・・・ああ、二人乗りで、という事か」
「はい。お嫌でしたら車の用意を致しますが・・・少しお時間がかかるかと」
「いや、余計な事を言った。送ってくれ」
「畏まりました。ではこちらにどうぞ」
女騎士の言葉に従って近づくと、彼女は俺を抱えて獣に乗せた。
完全に子供を相手にした対応だな。まあ小さいから気を遣ったんだろうが。
支部長はそんな俺の子ども扱いを見て、プルプルと震えて笑っている。
女騎士はそれに気が付いていないのか、すっと獣に跨り俺の後ろに座った。
「では、支部長殿、失礼します」
「っ・・・え、ええ。もう問題無いとは思うけど・・・気を付けてね」
「勿論です。そちらも、お気をつけて」
女騎士に話しかけられた支部長は、笑いを何とか抑えて真面目な顔で返した。
何の事かと一瞬思ったが、良く考えれば当然の話だ。
あの呪いの杖。あんな物をそう簡単に手に入れられる訳がない。
ならば渡した者が居る可能性が有り、そいつは街に潜んでいるかもしれない。
騒動が落ち着いたと安堵したタイミングで再度仕掛ける、という事もあり得るだろう。
何よりこの辺境の街で、組合支部長の存在はそれなりに大きい様だしな。
『まってまって、兄も乗るー!』
精霊はその間に獣の足をよじ登っていた。お前さっき物凄く高く飛んでただろうが。
「ではミク殿、行きます」
「ああ」
女騎士が足で合図をすると、四足の獣が街道を駆け出す。
初めて速く走る獣に乗ったが、思ったより揺れないな。
大体こういう獣の類は、乗っていると尻が痛くなるものだが。
おそらく胴体部分がほぼ上下してないからだろう。大分乗り易い。
これはこの獣が上手いのか、それとも扱っている女騎士が上手いのか。
どちらにせよ、思ったより快適に戻れそうだ。
『うおおおおお! ゆれるー! だが兄は負けない! 負けないぞー! どんなに暴れたって振り落とされてやらないからなー! あはははははははは!』
そしてよじ登っている途中で走り出したから、足にしがみついている精霊が煩い。
完全に楽しんでるなコイツ。とりあえず途中で蹴って落としておいた。
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