第356話、説明は誰に

「ミク殿、ご無事で・・・は無さそうですね。治癒部隊をお呼びしましょう」

「ん? ああ、これか。これは問題ない。自分で治した」

『妹、上手に治したよねー』


 騎士団長・・・メボルは開口一番に、俺の事を心配して来た。

 腕が血だらけだったからな。折れた時に骨が出ていた所も有るし。

 衣服に血が付いていて、俺も一見支部長の事が言えない感じだな。


「そうでしたか、良かった」


 俺の答えを聞いてホッと息を吐くと、彼は真剣な表情を見せて膝を突いた。


「此度の御助力、心より感謝致します。ミク殿のお力添えのおかげで、死者を抑える事が出来ました。ありがとうございます」

『どういたしまして! もっと感謝して良いよ!』


 そして今回の礼を口にするが、そんな風に感謝される事ではない。

 大体が結局の所、今回解決に至ったのは俺の力じゃないしな。

 いつの間にか一体に戻っている小人と、山奥に居る牛のやった事だ。


 だが牛の件を軽々しく話す訳にもいかない。牛がそれを望んでいない。

 先ずは領主に何が起きたのかを話して、それからだな。


 しかし今更の話だが、何かが違えば俺もあの女と同じ結末を辿っただろうな。

 領主と良い関係を築けているから問題無いが、辺境で暴れていたら俺がああなっていた。

 それでも、もし俺の我を通すしかない状況になれば、相手が牛でも戦う選択をするが。


「俺は俺の我が儘を通しただけだ。礼を言われる筋合いは無い」

「・・・感謝を」

『むふー』


 なのでとりあえず礼だけ拒否したが、メボルは気にせずさらに深く頭を下げた。

 コイツの事だ、俺が謙遜しているとか、殊勝な事考えているんじゃないか?

 俺がそんな優しい考えを持つ訳無いだろうに。クソ真面目め。


 精霊は胸を張っているが、実際今回はこいつが解決した事なので放置だ。

 いや、根本の解決は牛の一撃なので、コイツの成果でもない様な?


「悪いが流石に疲れた。領主館まで送って貰えるか」

『妹の為に高級車を宜しくね!』

「すぐに足を用意致します。少々お待ち下さい」


 このままでは意味が無いと思い、とりあえずメボルを立たせる事にした。

 その言葉は功を奏し、メボルは急いで何処かへ走って行く。


 いやまあ、疲れているのは本当だけどな。

 疲労感が凄くて眠気まで感じる。脅威が消えたせいか緊張感が保てない。

 不味い、自覚したら尚更眠くなって来た。


「流石に貴女も、アレの相手は骨が折れたみたいね」

「文字通り一回折れたぞ。右腕がぐちゃぐちゃになった」

『兄はそれ見てプンプンだったよ! 妹が死んじゃうかと思った!』


 ああ、普段戦闘してるだけじゃ怒らないくせに、今回怒ったのはそれが理由か。

 そういえば負傷らしい負傷は他でもした事が有るが、こんなに無理をしたのは初めてか。

 判断基準が良く解らんと思ったが・・・つまりコイツは、俺が負けると感じた訳だ。


 あの状態で反論がしにくい判断ではあるが、虐められたという判断はやはり嫌だな。


「みたいね・・・今回の一件で貴女を見る目がちょっと変わったわ」

「ほう、具体的にはどう変わった」

「ただ力が強いだけだと思ってたけど、心の方も強いのね」

「はっ、ただ我が儘なだけだ。別に強い訳じゃ無い」

『妹は頑固だからねー。兄は心配です』


 おそらく心が折れずに戦い続けた、という事を言っているのだろう。

 だが別に、あれは俺が我が儘を通していただけだ。強い弱いは関係ない。

 むしろ自分のやりたい事を好き勝手にやっている、と考えれば弱いとすら言える。


「そ、じゃあそういう事にしておくわ」

「・・・訳知り顔がムカつくな」

「ちょっと、フラフラの癖に脛蹴らないでよ!」

「ちっ、はずしたか」

『素早い!』


 疲労と眠気で足元がふらつきながら蹴るも、躱されて空振りする。

 そのせいで余計にふらつき、よろよろと後退してしまった。

 ちっ、躱すんじゃない。空振りが一番疲れるんだぞ。

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