第355話、死闘終わって
牛の魔術・・・魔術? 何か違う様な気がするな。
取りあえず牛が作り出した土は、魔力も石も容易く握り砕いた。
パラパラと割れた破片が落ちて行くと、衝撃波の様に何かの力が広がる。
眼には見えなかったが、あの気持ち悪い感覚を覚えた。
ただ俺達を攻撃する為というよりも、霧散した衝撃をという感じだ。
その証拠とでも言うべきか、牛の作り出したのであろう物も消えている。
『まったくもー、兄が居ない所であんなのと戦っちゃ危ないでしょー』
「煩い。そんなもの俺の勝手だ」
『じゃあ兄が居るのも勝手だもんねー』
「・・・ちっ」
反論が思い浮かばなかった。それはその通りだろうからな。
そもそも俺も騎士共の間に割り込んだ様なものだ。
勝手に暴れて、勝手に喧嘩を吹っかけて、勝手に助けられた。
「なら礼は言わんぞ」
『いいよー。兄がやりたかっただけだもん!』
にこーっと満面の笑みで告げるそれは、間違いなく本心なのだろう。
兄として妹の為に、妹が苦戦しているから前に出て来た。
コイツは本気でそれだけしか考えていないんだろうな。
「あー・・・どうやら片付いたと思って良いのかしら?」
「ん? その声は支部長か・・・大丈夫か、お前」
『ズタボロだね!』
近づいてくる人の気配は感じていたが、声をかけられて初めて視線を向ける。
するとそこには体中血まみれの支部長が立っていて、疲れた表情を向けていた。
衣服はズタボロで、当然服にも血が大量についている。
「怪我は治したわ。この見た目は・・・まあ、洗う暇も着替える暇もなったから」
「大分頑張ったようだな」
『おつかれー!』
「返り血も多いわよ。近くで吹き飛んだ奴の血とかね・・・まあ最後の方は私もかなりズタボロだったから、死を覚悟したけど・・・ギリギリで貴女が来てくれたから助かったわ」
「俺は別に、お前を助けたつもりは無いがな」
「それでも助かったのは事実よ。うちの職員も大半は助けらたわ。ありがとう」
『どういたしまして! むふー!』
大半は。つまり、助けられなかった者が居るという事か。
それはそうだろうな。俺ですらあんなザマになったんだ。
俺に勝てない連中しか居ない組合では、抵抗にすらならないだろう。
全滅していないのは、単純にあの女が遊んでいたという所か。
大きい攻撃は2回だったが、その間も何度か小さな力の流れは感じたしな。
つまりその間、俺が来るまでに間コイツは必死であれと戦っていた訳だ。
「自分の命の方が大事、とか言い出しそうなのにな、お前」
「当たり前じゃないの。自分の命が一番大事よ。だから必死に耐えてたの。戦ったつもりなんて欠片も無いわよ。あんなの相手に真面に戦うなんて、真面な人間が出来る訳無いもの」
『兄は精霊だから!』
「・・・そうか」
本気で言っているのか。いや、本気なんだろうな。
耐えるという選択肢を取る時点で、他を優先している事に気が付いていない。
本気で自分の事しか考えていなければ、他者など捨てて逃げ出してしまえば良い。
こういう所なんだろうな。こいつが支部長として、職員に慕われるのは。
「・・・そういえば、騎士や衛兵が乱入してこなかったな」
「衛兵は2発目で結構な数が吹き飛ばされてると思うわよ。騎士達は貴女が戦っている事に気が付いて、住民の避難誘導をしているわ。生き残った衛兵も一緒にね。戦いが終わったのは観測しているでしょうから、今頃は事態が収束した事を伝えて回ってるんじゃないかしら」
『なんかあっちでいっぱい動いてたよ?』
成程、避難誘導か。道理で周囲に誰も居ないと思った。
まあ俺とアイツの戦闘は、かなり短時間だったがな。
なので避難というよりも、近づけない誘導といった所か。
避難する暇などほぼ無かっただろうし・・・おそらく避難できずに死んでいる。
「ほら、話をしていれば、騎士団長殿よ」
言われて視線を向けると、甲冑姿で走って来る男が目に入った。
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