第352話、自分にできる事

 杖から放たれ上空に渦巻く魔力。視認できる魔力の塊は、質量に変換されている。

 同じ事を出来れば拮抗できるかもしれないが、こちらも結界と同じで真似ができない。

 やはり道具を媒体にした魔術というものは、人間が使える様になっていないらしい。


「ちっ」


 咄嗟に使い慣れた吹雪の魔術を発動し、魔術というより魔力をぶつけるつもりで放つ。


「へえ、面白い事をするわね。目くらましかぁ。凄いわね。何処に居るのか解らないわ」


 吹雪の魔術の要である、認識阻害はしっかりと効いているらしい。

 だが肝心の攻撃に関しては、どうにも効果が無さそうだ。

 女は雪玉を避ける素振りすらなく、上空に渦巻く魔力もぶれる様子が無い。


「ならば、これでどうだ」

「あら?」


 目くらましに吹雪かせている分を、全て攻撃に変換させる。

 雪玉一発に魔力を籠め、巨大な雪玉を形成してぶん投げた。

 すると魔力の渦に少しブレが生じ、だが霧散はさせられなかった。


「あはははははは! アンタ本当に化け物ね! うっそでしょ、これを少しでも欠けさせるなんてさぁ! こんな魔力、人間がどうにか出来る物じゃないわよ!? あははははは!!」


 女は俺を吹き飛ばすと口にしたのを忘れたかの様に、その結果を大笑いし始めた。

 勿論自分に絶対的な優位が有るからだろう。所詮ぶれただけ。破壊出来ていない。

 それに雪玉と並行して女に熱波の魔術も放ったが、どうにも通じている気配が無い。


「そりゃそんな化け物じみた力を持ってたら、我が儘に振舞うわよねぇ! だって他人の言う事を聞く意味が無いもの! 何でこんな力を持って、人の言う事聞かなきゃいけないのよ! そうでしょう!? アンタの事大っ嫌いだけど、それだけは良く解るわ!」

「そうか、良かったな」


 さて、風の魔術は使った所で、恐らく何の意味も無いだろう。

 あれは攻撃に適していない。破壊力は欠片も無い。

 やれるとすれば突風で体勢を崩すか、吹き飛ばして壁にぶつけるか。


 どちらも通用はしないだろう。雪も熱も効いていないんだからな。

 他にも使える魔術は有るには有るが、今の3つに比べて練度が低い。

 物理的な攻撃が通るなら有効だが、どうにも通る気がしない。


 そもそも全力の身体強化の打撃を防がれている。

 あれは俺の中で最大火力の攻撃だ。

 それを防がれたという時点で、通用する攻撃が無い。


 何とかなると思って出て来たが、これはかなり不味いな。

 ここが俺の死に場所になるかもしれないな。全くつまらん死に方だ。

 訳の分からん女に、訳の分からん道具を持って殺されるなど。


「まあ、最後まで足掻いてからだな」


 魔力循環に流す魔力を上げる。上げる。上げる。上げる。

 凄まじい速さで魔力が漏れて行くが、気にせずガンガン上げて行く。

 俺に器用な事など出来ない。所詮俺に出来る事など限られている。


 この体の才能に頼って、不器用にぶん殴る。ただそれだけだ。


「ぐ・・・ぎ・・・!」

「・・・は? な、なによそれ、ふざけんじゃないわよ! ただでさえ馬鹿げてる魔力量なのに、何でそんな魔力使って死なないのよ! 命を犠牲にしなきゃ届いて良いはずないでしょ! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁ!! クソガキィ!!」


 脱力感と疲労感と痛みが同時に襲って来る。訳の分からない感覚だ。

 女が何かを叫んでいるが、それも気にせずまだまだ魔力を上げて行く。


 俺の命綱はこれだ。これが一番俺が頼りにできる技術だ。

 ただただ膨大な魔力を身に纏い、愚直に踏み込んでぶん殴る。

 今の時点で力が足りないなら、もっともっとも注ぎ込めば良い。


 魔力ならある。腐る程にある。大量に魔核を食べ続けた成果が積んである。

 俺に足りないのは技術だ。余っているのは膨大な魔力だ。

 なら消耗をガン無視して出力を限界まで上げてやれ。


「ぎ――――――」


 口から呻きを漏らしながら踏み込む。俺に迫って来る魔力に向かって。

 真正面から、全力で、思いっきり、ぶん殴る!

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