第351話、呪いの杖
高く、高く跳躍し、そこから風魔術を使って加速する。
家屋の上を飛び越えて移動し、騒動の中心であろう所へと。
そうして見えて来たのは逃げ惑う人々と、破壊された幾つもの家屋の残骸。
・・・千切れた手足が落ちているのを確認できた。確実に死人が出ているな。
「あははははははは! もう誰も私を止められない! あははははははははは!!」
そして土ぼこりが舞う中で高笑いをする女の姿が在った。
女の手には杖がある。幾つもの石が埋め込まれた禍々しい気配の杖。
恐らくはあの杖が『呪いの道具』なのだろう。石がビカビカ光って随分と派手な杖だ。
遠くからでは解らなかったが、近づくとあの杖の持つ力を強く感じる。
まるで杖自体が生きている様な、魔獣が戦う為に魔力を纏っている感じだな。
あの石は魔核だろうか。大小様々な石が付いていて、一番上に殊更大きな石がある。
それがドクンと鼓動をする様に、一定のリズムで波の様に力を放っていた。
「――――――」
アレが敵だ。アイツがこの騒動を引き起こした原因なのは間違いない。
そう判断したらそのまま降下して、杖の一番大きい石を狙ってぶん殴る。
不意打ちが卑怯など言わせるつもりは無い。気が付かないのが悪い。
「ぐっ」
「―――――あっは!」
だが杖に触れる寸前、魔力の膜の様な物に腕が弾かれた。
そこで女は俺の存在に気が付き、心底嬉しそうな笑みを見せる。
「来た、来た来た来た来た来た! 来たわね! 待ってたわよクソガキぃ!」
「・・・あん?」
狂気を孕んだ笑みを見せる女は、杖を俺に向けてそんな事を言い出した。
俺を待っていた? 俺に恨みの有る人間なのか? 誰だこいつ?
よくよく顔を見ても誰か解らない。女の顔は火傷痕の様に崩れている。
こんな火傷顔の女など記憶にない。女の顔を焼いた覚えも無い。
「アンタの気持ち、今なら少し解るわよ! 気持ち良いわよね、力を持っているのは! 気持ち良いわよね、自分のやりたい事を通すのは! 気に食わない奴をぶち殺すのはさぁ!」
「・・・街の連中に恨みでも有ったのか」
気に食わない奴を殺す。その言葉を聞いて街を見渡す。
この女は間違いなく住宅街を狙った。
ならばそこに住む住人に、辺境の住人に恨みでも有ったのか。
恨みからの行動であれば、この女の行為も解らくは無い。
「街の? 無いわよ? 別にどうでも良いじゃない、ゴミの命なんて。力の無い連中が死ぬのは仕方がない事でしょ。でも死ねば私の糧になるんだから、有意義な死に方よね」
「そうか」
短く答えて踏み込む、今度は魔力循環をかけた全力の身体強化で。
すると俺の行動に応える様に、杖が更に魔力を纏って防御する様子を見せた。
だが今度は杖を無視して使い手を狙い、その頭を吹き飛ばす為に拳を振り抜く。
「あっは。ばーか」
「ちっ!」
だが女の手前で衝撃音が鳴り、手応えはあったが見えない何かを殴った感じだ。
いや、魔力の流れは見えている。これはアレだ。結界の類だ。
王都で見たのと同じ道具による類の結界で、だが強度が比べ物にならない。
「杖が壊せないなら私を殺せば良いと思った訳? ばっかじゃないの? 魔力を感じ取る事も出来ないのかしら? 杖の放つ魔力が私を覆ってるんだから、通じる訳ないじゃない!!」
「ぐっ」
しかもやはり魔力だけではなく、気持ちが悪いと感じる力も混ざっている。
更には押し切って弾き飛ばす事も出来ず、俺が後ろに飛ばされた。
腕が少し痺れる。久々だな、普通に殴って倒せない相手は。
「これを手に入れてから試してみたかったのよ。アンタにこれをぶつけたら、どんな顔をするかって思ってさあ。我が儘なクソガキが、恐怖で命乞いをする所を見たいわねぇ!」
「はっ、出来るものならやってみろ」
「あはははははははは! 馬鹿じゃないの! 出来るから言ってるんじゃない! アンタ今何が起きたのかも解らない馬鹿な訳!? アンタの拳は私に届かないのよ!」
女は楽しそうに馬鹿笑いをして、その度に気持ちの悪い力が女の体に強く纏わりつく。
気のせいか崩れていた顔が更に崩れている様な・・・気のせいじゃないなアレは。
成程呪いとはよく言ったものだ。アレがあの杖を使うリスクと言う訳だ。
多分顔だけが崩れている訳じゃ無いだろう。手足も同じ事になってるんじゃないか。
もしかすると頭の方もそうなのかもしれない。あの狂気の加減は呪いで脳がいかれたか。
なら持久戦をすれば、自滅狙いで勝てそうだが・・・。
「あっは、それじゃとりあえず・・・少し吹き飛べよ、クソガキ」
「ちっ」
女が杖を掲げると、魔力の渦が形を成していく。
コイツの攻撃は明らかに範囲攻撃だ。
なら持久戦をするより、短期決戦で倒した方が楽だな。
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