第348話、呪いに関しての疑問

『ふっかふかー!』


 牛の件を話した後、領主が黙り込んでしまったので特に会話無く部屋へ案内された。

 そこで領主とは別れたが、使用人はまだ傍に立っている。

 ベッドに突撃した精霊に気が付き、ニコニコとその様子を見つめている。


「ミク様、御用の際はこちらのベルを鳴らして頂ければ、傍に居る者がすぐご用件を伺いに参ります。勿論お声がけ頂ければ、その場合でもすぐに」

「解った」


 俺が頷き返したのを確認してから、使用人は扉へと移動する。

 そして扉の前で振り返ると、深々と腰を折った。


「では、ごゆっくりお過ごし下さい。失礼致します」


 頭を上げると音もなく扉を開き、閉じる時もほぼ音を立てずに閉じた。

 扉の管理が行き届いているの要因だろうが、相変らずプロの動きだな。

 あの高級宿の従業員も中々だったが、ここの使用人達も負けていないと思う。


 凡人の俺ではどれだけ気を付けても出来なさそうだ。

 メラネアの時もそうだが、音を立てない歩法とかどうやっているのやら。

 一応俺だって静かに歩く事は出来るが、砂利の上を音無く歩くのはおかしいだろう。


 真似できるとは思えないし、習得出来たメラネアは天才の類だと思う。

 幾ら自意識が無くて命令通りに動いていたとしても、習得できるとは限らんしな。

 自意識が無かったからこそ、過酷な訓練にも耐えられたんだとは思うが。


「しかし、呪いの道具か・・・ふむ?」


 しまったな、今更色々と疑問が湧いて来た。

 話を聞いている時は、とりあえず腹が減っていたしな。

 そもそも話の主軸が別の事だったから、余計に今更気になった感じだ。


「そもそも何故呪われている。どうやって呪う。自然に出来る物なのか、意図的に作った物なのか。作ったとしてどうやってる作るんだ? 色々とあり過ぎて聞き流してしまったが、話し方から察するに珍しい物じゃ無さそうだし、その辺りも知っていそうだが・・・」


 精霊付きを見た事が無いと言ってい居た領主が、呪いの道具は知っていると言った。

 それに他国も持っている可能性が高いと。ならそこまで珍しい物じゃない。

 勿論一般人の手に渡る様なものでは無いのだろうが、少なくとも精霊よりは珍しくない。


 ならもう少し踏み込んで聞けば、呪いに関してある程度聞ける気がする。

 とはいえ先程牛の件を話してしまった事で、それ所じゃ無さそうだが。


「まあ、明日で良いか」


 どうせ泊まるんだしな。態々今から向かわずとも、明日の朝で良いだろう。

 話を聞くに、威力と攻撃範囲の広い攻撃、とさえ思っておけば良さそうだしな。

 例えどれぐらいの威力があるかなど聞いた所で、防げなければ死ぬだけだ。


「・・・防御か・・・流石に結界術の使い方の教えを乞うか?」


 暖かくなるまで色んな魔獣と戦ったが、ついぞ結界系を使う魔獣に会えなかった。

 俺の魔力量で張った結界なら、かなりの強度が期待出来ると思う。

 そうなれば循環での防御以上に攻撃を防げるだろうが、使えない以上は机上の空論だ。


 とはいえ教えてくれと頼むとして、何を対価にするべきか。

 ここの兵士になるつもりは無いし、金銭での支払いなど要らないだろうしな。

 それに関しても明日の朝にでも聞いてみるか。


『妹、妹、ふかふかだよ! はははは!』

「・・・お前は本当に、何時も何時も楽しそうで羨ましいな」

『兄は楽しむのが上手いからね! 尊敬して良いよ!』

「・・・嫌味が通じない所だけは尊敬するよ」

『やった! 妹からの尊敬をとうとう勝ち取ったぞー!』


 煩いな。本当に嫌味の類が通じなさ過ぎる。

 ただ今までの事を考えると、わざとやってる気もしてくるんだよな。

 どちらにせようっとおしいのは変わりないが。とりあえず煩いから捨てよう。


『うおおお、兄はやったぞおおおお―――――――』


 精霊を掴んで窓からポイっと捨て、装備を外してベッドにボスっと転がる。

 外からまだ雄たけびが聞こえるが無視だ。どうせ俺以外には聞こえない。


「ああ、確かにこれは良いな・・・」


 シーツは高級品なのか肌触りが良く、ただ手で触っているだけで気持ち良い。

 これだけでも流石は領主館の客室だと思うのに、ベッド自体の寝心地も良い。

 中に何を詰めているんだろうか。ふわふわなのに沈み過ぎない、好い加減だ。


「・・・これは・・・すぐ・・・寝れるな・・・」


 今日は1日訓練していたのも有って、疲労感からか瞼が自然と落ち―――――。


『妹よ! 兄はこの喜びを、もっと伝えた―――――』


 今度は思いきり窓から放り投げた。

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