第347話、一番の問題は
領主の謝罪と説明が終わり、その後は食事をする事に集中した。
途中些細な世間話程度は有ったが、本当に大した事無い話だ。
のんびりと食事を終えて、
「ふう、美味かった」
『おいしかったー』
空になった食器の前で、満足な息を吐いてから茶を啜る。
今回の食事は何と言うか、不思議な食べ物が幾つかあったな。
もしやアレも俺の御機嫌取りの一つだったのでは。
そうなのであれば、大成功と言わざるを得ないな。
かなり満足だ。まあ別に機嫌を伺う必要も無かったのだが。
精霊も珍しい物が嬉しかったのか、満足気に茶をすすっている。
「満足して貰えた様で何よりだよ。しかし相変らず、凄い食いっぷりだな。ミク殿の小さな体のどこに入るのやら」
「それは俺にも解らん」
『僕と妹の体は底なし沼だぞー!』
うん? 言いたい事は解らんでも無いが、満腹感は有るから底無しでは無いだろう。
いやまあ、コイツは底なしなのかもしれないが。体積を考えたら俺より食ってるしな。
『食後のお菓子は無いのかなぁ』
まだ食う気が有るみたいだしな。俺はもう要らない。
食えるかと聞かれたら、食う事は出来るとは思うけどな。
だが満腹なのに無理に食いたくはない。
「では、俺は帰らせて貰うとしよう」
「もう夜遅いし、こちらとしては泊まって貰っても構わないが?」
「あー・・・そうだな」
『泊まってくー?』
俺が宿に帰るのは、宿の食事の為というのが大きい。
だが今日は既に食事を終え、そして宿に帰っても誰も居ない。
誰も居ないか。無意識に思い浮かべたが、メラネアを事を気にしていたか。
だが今はもう、そのメラネアも居ない。なら別に、無理に宿に変える必要は無いか。
どうせ部屋に案内された後は、部屋の中では一人になるんだ。
王都からの帰り道で泊まった高級宿と変わらない。下手したらここの方が上だな。
「無理に断る理由も無いな。泊まらせて貰おう」
『おー、ベッドがどの程度か兄が見極めてやる!』
一体どのポジションで何者なんだお前は。後どうせどんな物でも寝るだろ。
幾らかまくらの中とはいえ、あの雪の中を平気で寝転がれる奴だろうが。
「そうか、では案内しよう」
「領主殿自らか? 随分な歓迎だな」
『兄はお菓子で歓迎を示してくれると嬉しいです!』
「何、今回の話とは別に、少し聞きたい事が有るのでついでにな」
席を立った領主が食堂の出入り口に移動し、俺も席を立って彼について行く。
当然周囲には使用人も居る・・・というか、一番前には何時もの使用人が居る。
精霊の位置を何となく把握しているのか、ちゃんと視線を向けてニコリと笑っている。
最早精霊が見えているか魔術師なのでは、と思う程に正確になって来ているな。
「聞きたい事が有るなら、先程聞けばよかっただろうに」
「貴殿の食事を邪魔して迄聞く事でも無いし、すぐに終わる話だからな」
「ふむ、何が聞きたいんだ?」
『なになにー? 兄は焼き菓子が好きだよ。でもケーキも好きです。甘いのもしょっぱいのも好きだよ。苦いのは苦手ー』
誰もそんな事聞いてないし興味も無・・・いや、使用人は有りそうだな。
でもこれ、結局菓子なら何でも良いって言ってるよな。意味が無さ過ぎる。
「彼は・・・どうだ?」
「ああ・・・」
成程、牛の事か。あれから一度も報告していないから気になっていたか。
しかしそれなら別に、食事中でも構わんと思うがな。
それだけ今回は俺に気を使っていたという事か。苦労人だな領主殿よ。
しかも俺が怒る想定をしておきながら、周囲に護衛を置いていない。
これは俺に敵対する気は無い、という意思表示でもあるんだろう。
だがそうだとしても、化け物相手に実行できる度胸が好ましい。
どれだけ頭で解っていても、人間は恐怖に中々勝てないものだ。
本当に強いな、彼は。そして割を食う人間だな。
「相変わらずだ。気持ちよさそうに過ごしている」
「・・・そうか」
だが牛の件で報告出来る事は少ない。相変わらず寝たままだからな。
俺としては起きてくれると助かるんだが、そうもいかないだろう。
「・・・ん?」
「どうした、ミク殿」
『どしたの? お腹痛くなった?』
「いや、今気が付いたんだが・・・呪いの道具とやらで起きる被害は、どの程度なんだ?」
「物によって性能が違うだろうからな、確実にこうだとは言えないな。ただ俺が見た事の有る物に限るなら・・・砦の外壁を吹き飛ばす事も簡単だろうな」
「使う所を見た事が有るのか?」
先程の領主の説明だと、見た事が無いのかと思っていたが。
いや、この国に保管されている物は知らない、という事だったか。
「ああ、ただし強大な一撃と引き換えに、道具も使い手も、何なら使い手の仲間の一団も全て吹き飛んだがな。敵に被害は無しで損害は味方だけ、という笑える結果だ。それを実際に見た者もそれなりに居るから、どれだけ威力の高い道具だとしても、下手に使おうとは思わんのさ」
「・・・その眼で見た事が有るのであれば、確かに下手に使えんな」
『残念な道具だねー』
確かに残念だ。だがそれは、逆を言えば損害を考えなければ使えるという事だ。
呪いの道具を持った人間が、街中に忍び込んで暴走とかな。
そうして外壁が吹き飛べば・・・。
「もしそんな事が辺境で起きたら、アイツが切れそうだな」
「・・・そうなる、のか?」
俺の呟きの意味を理解するのに一瞬時間がかかった領主は、足を止めて驚きの顔を見せた。
俺はあり得る事だと思うがな。改修は兎も角、単純な敵対の破壊は怒りそうな気がする。
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