第345話、呪いの道具

「実害か・・・その点に関しても、既に出る可能性が有りそうでな」

「もぐもぐ・・・そうなのか? 外交官が帰って来たのは最近なんだろう?」


 話を聞くに、外交官が帰って来たのは最近の話で、急いで連絡を入れた感じがする。

 となれば敵国も情報収集が先だろうし、そこまで素早い動きは無いと思うんだが。

 むしろ調べもせず動く様な真似は、たとえ俺が居なくても自滅行動じゃないか?


「言わんとする事は解るつもりだが、諜報員は常に送って来ているはずだ。貴殿の存在の真偽という点で言えば、既にあちらも掴んでいると考えるのが自然だろう」

「敵国になる相手の情報を調べない、何て事がある訳は無いか」

「勿論、それはこちらも同じ事ではあるがな」


 お互いに何時でも戦争相手になる可能性の有る存在。

 となればお互いに諜報員を送り、怪しげな動きが無いかは調べているか。

 まあ今回は怪しげな動き所か、阿呆が余計な事をしたせいで無茶苦茶になっているが。


「俺の情報を掴んでいて、実害を被るか・・・真面に戦争して俺が参加するのを防ぐ為に、何かしらの工作を仕掛けて来る、といった所か?」

「その可能性は高いと思っている」

「だが俺に喧嘩を売って来るなら、先程言った通り買うだけだぞ」


 面倒なので今は動く気が無いだけで、明確に喧嘩を売られた場合は別だ。

 その時は殴り飛ばしに行くし、容赦も一切する気は無い。

 兵士など無視して王都まで乗り込んで、国王の首を取りに行くのもアリだな。


「連中が直接手を出して来るなら良いが、そうではない可能性が有る」

「もぐもぐ・・・たとえば何が・・・もぐもぐ」

「この国で一番大きい暗殺組織は潰れたが、別の組織に暗殺を依頼。もしくは忠誠心の高い自国の兵の身分を偽らせて暗殺。あとは金に困っている人間に金を握らせて襲わせるとかな」

「・・・ああ、大本まで辿れない様にするやり口をしてくると」

「そうだな」


 今言葉にはしなかったが、言外に『貴殿が殺した貴族と同じでな』と含まれていたな。

 とはいえ兵士を送り込んできた場合は、流石に辿り着けると思うんだが。


「あとは・・・なりふり構っていない場合は、呪われた道具を使ったりだな」

「呪われた道具?」

「知らないか? 強大な力を持つ代わりに、使う者に命の危険を齎す類の道具が存在するんだ」

「へえ、そんな物が有るのか・・・もぐもぐ」

「あちらさんが持っているかどうかは解らんが・・・まあ有ると思っておいた方が良いな」


 魔道具の存在は知っていたが、まさかそんな物があるとは。

 強大な力がどれぐらいなのか気になるな。

 今の俺に匹敵する力を出せるなら、それはかなりの脅威だが。


「この国には無いのか、その道具とやらは」

「ある。随分強力なものだという記録が残っている」

「へえ、有るのか。ならなぜあの国王は使わなかったのか・・・それこそ俺に抗った騎士達に持たせれば、俺と戦う程度は出来ただろうに」

「そもそも使える人間が限られている。素質が無ければ命を吸われて死ぬだけだと、そういう記録がある。それにもし暴走した時の被害は、使い手の命を奪うだけで済まない。軽々に使う様な道具じゃないんだよ」


 周囲にも被害が行くのか。それは使い勝手が悪いな。

 もし使いたい人間が居たとしても、許可を出すのは難しいだろう。

 使い手が死ぬだけ、なら話は別だっただろうが。


 そんな問題の有る物となると、普段から持ち出せる場所には置かない。

 更にもし使うとすれば、あそこで国王が逃げ出した後辺りだろうな。

 とはいえ俺は国王を狙う気が無かったので、そんな未来は起きなかった訳だが。


 しかしそんな物が有るとなると・・・やはりまだまだ強くなる必要が有るな。


「なので使う時は本当にもう後が無い時だろうな・・・普通なら」

「普通じゃない可能性が有ると?」

「ご老人方の確執だからな。しかも向こうは喧嘩を売られた側だ。ぶち切れた結果どんな無茶をやるか想像もつかない。出来れば辺境に被害が無いと良いんだが・・・」


 俺を直接狙って来る、つまりは辺境で暴れる可能性が有る。

 しかも領主殿の言った通り、呪いの道具を用いて。

 その場合、相手は周囲の被害など考えないだろうな。


 彼としては頭を抱える話が過ぎるな。やはり彼も被害者では?


「それにこれは貴殿だけでなく、メラネア殿にも向く可能性が有る。とはいえ辺境を旅だった彼女よりも、動かない貴殿の方が戦争に参加する可能性が高い、と見られているだろうが」

「辺境に属している人間と見られる方が、排除優先度が高い訳だ・・・もぐもぐ」


 全く、面倒臭い話だな。もし既に動いているなら、一番危険なのはブッズでは。

 アイツは本当に運の悪い男だな。まさかこんな事で巻き添え食らっているとは思うまい。

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