第344話、めんどうくさい
「・・・余り怒っていない様に見えるな。この手の事には腹を立てると思っていたんだが」
「そうだな。もぐもぐ・・・俺を利用した奴に関しては、怒りよりも呆れが強いな。頭が腐ってるんじゃないかそいつ・・・もぐもぐ」
「同意見だ。呆れ果てる」
とりあえず腹が減っているので、食事を続けながら答える。
確かに俺の名を利用した事は腹立たしいが、怒り狂う程でもない。
むしろ呆れる。よくあれだけの騒ぎを起こした相手を利用しようと思うな。
この件で俺が怒り狂った場合、一番最初に潰しに行くのはその外交官になるんだが。
そんな事も考えつかないからこそ、領主は大馬鹿と表現したんだろうが。
「領主殿は・・・もぐもぐ・・・どうやってその情報を・・・?」
「向こうから告白して来たよ。ああ、勿論馬鹿をやらかした本人ではなく、周囲の者達がだが。本人は謹慎を受けている」
「んく・・・それだけの事をして、謹慎程度なのか」
「本音を言えば牢に叩き込みたいんだろうが、そうもいかない人物という事だ」
ああ、そういえばご老人と言っていたな。外交官の貴族でご老人。
その単語だけで面倒な人物像が浮かんでくる。若い連中はやってられんだろう。
出来る事と言えば、謹慎した上で引退させて、家を次に継がせるぐらいか。
友好国や強大な国家とのイザコザではない、というのも大きいか。
元々小競り合いをしていた国相手であるならば、結局上手く行かない事もあるだろう。
敵国相手の交渉を失敗して処刑になるのであれば、誰も外交官などやりたがらんだろうしな。
もしそこまで考えて行動したのであれば、その老人は馬鹿というよりも性質が悪いな。
「王都での出来事がまだ記憶に新しく、正しく貴殿の危険性を認識している者達は、急いで私に連絡を取った。貴殿の耳に入る前に、素早い謝罪をという事でな」
「成程。だがそれならば、領主殿が慌てて謝る様な事でも無いだろう」
むしろ謝るべきは、その連絡を入れて来た連中だろう。
若しくは王都の貴族か、そんな奴を国外に出した国王だ。
何故領主殿が謝る必要がある。ただの巻き添えでは無いか。
「そうもいかん。私とてこの国の人間で、貴族の一人だ。しかも元々の流れを考えれば、貴殿を巻き込んだ最初の人間だ。ある意味で騒動の原因は私に有ると言って良い」
「そうか? そんな事は無いと思うが・・・」
「馬鹿が馬鹿をやらかした最大の理由は、私が貴殿の手綱を確り握っている、と認識しているのが要因だろうからな。本当にやってくれる」
「ああ、成程・・・もぐもぐ」
国を挙げての戦争になった場合、恐らく領主も兵を出すのだろう。
辺境で兵を減らして大丈夫なのかと思うが、それは俺の考える事じゃない。
ともあれその戦力の中に『精霊付き』を組み込める。そう判断した訳だ。
王都襲撃の件が俺一人の暴走ではなく、領主の意趣返しが含まれていたのが大きいな。
おそらく王命の手紙を焼き捨てた程の強気を、変な風に解釈した奴が居た訳だ。
「その辺りは気にするな。王都の件に関しては、領主殿も被害者の様なものだろう。意趣返しに付き合う程度の事で文句を言う気は無い。むしろその後は上手くやってくれたんだろう?」
「それは私の仕事だからな。当然だ」
「ならばやはり、領主殿が謝る事は何も無いだろうよ・・・もぐもぐ」
幾ら俺の事を脅威と見ていたとしても、俺は王都を襲撃したんだ。
その報復として動く者達が居ておかしくない。
だが辺境から雪が消えるまでの間、その手の反応は何一つなかった。
となれば領主殿が上手くやっている、と考えるのが自然だろう。
勿論俺が暴れると被害が怖い、という事も考えてではあるだろうが。
そうして先程から返答が適当な俺に対し、領主が気の抜けた顔を見せた。
「・・・私としては、もっと貴殿が怒る事を想定して、かなり慌てていたんだがな。部下達にもそのつもりで貴殿を迎える様に注意していたしな」
今日は全体的に領主館が重苦しいと思ったのは、それが原因か。
その内容で俺が怒ったとしても、矛先は王都にしか行かないぞ。
正直な気持ちを言えば、怒りすら殆ど湧いていないしな。
「そうだな・・・何というか、俺も俺で最近少しやる事が有ってな。まだ実害が起きていない事に意識を割くのが面倒臭い。まあ、呆れた気分なのも原因だろうが」
俺の名を使い、戦争に俺を巻き込もうとしている。そしてそれは敵国もそう思っている。
なら何か動きが有るのだろうが、現状実害らしい実害は現状無い。
そのせいか怒りが湧くよりも、クソ程どうでも良いという気分が強いな。
件の老人が目の前に居ればぶん殴るが、態々探して殴りに行く労力が面倒臭い。
勿論放置すれば更に面倒になる事は解っているが・・・俺が動く必要を感じないんだよな。
戦争になっても俺は手を貸す気は無いし、直接俺を狙ってきたら殴り返すだけで良い。
勿論そうなった場合、俺を都合よく動かした連中にも被害を受けて貰うが。
結果として俺が敵国を潰して助かった、などという結末など起こさせる気は無い。
むしろ王都に大打撃を与えてからだな。何をするにしてもそれからだ。
「現状は王都に行く用が出来たら、ついでに殴りに行く程度かな・・・もぐもぐ・・・当然実害が有れば動く気は有るし、その場合王都の連中もただで済ませる気は無いが・・・もぐもぐ」
やる事が無かったら即座に行ったかもしれないが、今は自分の事が優先だな。
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