第343話、謝罪の理由
「・・・突然謝罪をされても、何の事か解らんぞ、領主殿」
『妹は怒ってないみたいだから、大丈夫だよー?』
「っ、そ、そうだな、すまない。貴殿に早く謝罪をせねばと焦ってしまっていた」
謝罪。謝罪を早くか。つまり俺に不利益を与えたという事か。
しかもあの勢いでという事は、余程の内容なのだろうな。
だが今までの事を考えれば、領主が意図的に俺に害を与えるとは思えない。
いや、やむを得ず俺を利用する事になり、その謝罪という可能性もあるか。
そうでなければ事故の類だろう。彼の意図しない事故では。
「とりあえず、訓練終わりで腹が減っているんだ。先に食事を貰って良いか。話は食いながらでも出来るだろう?」
「あ、ああ、そうだな。すまない。座ってくれ」
『わーい! 何かいっぱいある!』
領主の言葉で使用人が動き、一番食事が多く置かれている位置の椅子を引く。
俺が素直にそこに座ると、領主はその正面に座った。
テーブルの形と席の並びを見るに、多分本来領主が座る場所じゃない気がするな。
まあ良いか。とりあえず腹が減った。言った通り食いながら話を聞くとしよう。
「もぐもぐ・・・それで、一体何が有った・・・もぐもぐ・・・」
『はぐはぐ・・・なにこれ? なんか、なに? 新触感・・・』
精霊が何かゼリーの様な物を食べて、意識が飛んで行った様な顔をしている。
ぽけーっとした顔だ。気になって俺も一口食べると、思ってたのと違った。
こう、何と言えば良いのか、ぶにぶにしてると言うか、何だこれ。
柔らかい様な固い様な、簡単に嚙み切れるけど脆くはなくて・・・確かに新触感だ。
等と目の前の食事を気にしていると、領主は大きな溜息を吐いてから口を開いた。
「結論から先に告げよう。貴殿の名を利用した馬鹿のせいで、貴殿が他国から狙われる可能性が有る。いや、可能性では無いな。確実に貴殿を狙いに来ている」
「もぐもぐ・・・は?」
俺の名を利用した馬鹿? 言い方的に領主がやった訳では無いらしい。
だが俺の名を使った所で、何故他国から俺が狙われる事になる。
「外交官・・・は、解るか?」
「国外の者と交渉の類をする者だろう。後は他国の情報を収集して国内に持ち帰ったりか」
「ああ、その認識で良い。とある国に外交官として行った者が大馬鹿をやらかした」
外交官が馬鹿を? それで何故俺が・・・ああ。
「・・・まさか、うちの国には精霊付きが居るからと、他国に強気で喧嘩でも売ったか」
「細かくは違うが、大体はその通りだ」
領主は重苦しい声音で応えると、また大きな溜息を吐いて頭を抱えた。
成程。俺を脅しの材料として使った訳か。精霊付きの脅威は良く知られているらしいしな。
強気外交をしたい人間にとっては、自国に精霊付きが居るのは十分なカードだろう。
問題はそのカードを切った所で、俺が国のために働く気など無い、という事だが。
「それでその国が怒って敵対した、と」
「いや、敵対関係という点では、元から仲は良くない。何度も小競り合いをしている国だ。なので元々はそろそろ面倒な小競り合いは止めないか、という目的に外交を続けていたんだがな」
「・・・それがどうして喧嘩を売る事になる」
「・・・ご老人というのはな、若い頃の確執を忘れられんらしい。お互いにな」
疲れた様子で告げる内容に、何となく話が読めて来た。
それなりに歳のいった外交官は、それまでも何度となく衝突があったのだろう。
いや、下手をするとそのご老人は、本来外交官ですらなかったのかもしれないな。
精霊付きという切り札を手に入れた事で、気分良く叩き潰す為に無理やり同行したか。
まあ真実は知った事では無いが、何にせよ俺の存在を利用して喧嘩を売りに行った訳だ。
恐らくは、それで自分達が勝つと、そう信じて。
「結果は戦争にはならずとも、決定的に近いレベルでの決裂。どうにか出来ないか頑張っている者も居るそうだが、中々難しいだろうな」
「まあ、元々仲が悪かった所に止めを刺した様に聞こえるし、そうだろうな」
むしろ小競り合いをしているような国相手に、脅しをかけて何故丸く収まると思った。
いや、違うか。もしやこれは、ああ、そうか、そういう事か。
脅しをかけてそこで折れれば良し。折れなければ俺を巻き込んで叩き潰すつもりか。
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