第342話、不可解な呼び出し
「ねえ、放置は酷くない? せめて治療ぐらいしてくれても良いと思うんだけど」
「煩いな。誰かに治して貰ったならそれで良いだろう」
「良くないわよ! 折れてたわよあれ!」
「それは無い。加減した」
「絶対折れてた! 立てなかったもの!」
「お前の根性が無いだけじゃないか?」
「折れてるのに根性で立ったら酷い事になるでしょう!?」
訓練を終えて宿に帰ろうと思ったら、その途中でまた支部長に捕まった。
適当に答えつつ帰ろうとしていると、少々出入口の方が騒がしい。
一体どうしたのかと目を向けると、組合に騎士が入って来た。
しかもあれは、騎士団長殿じゃないか。今日も胃痛を抱えてそうな顔だ。
「ちょっと、今度は何したの」
「何もしていない。俺は知らんぞ」
「でも貴女の事見てるわよ」
「・・・みたいだな」
支部長の言う通り、騎士は俺に目を向けると『見つけた』と言いたげな様子を見せる。
そして鎧を鳴らしながら俺のを場に来ると、目線を合わせる様に膝を突いた。
「お久しぶりです、ミク殿」
「確かに久しぶりだな」
何だかんだと領主館に良く行ってた頃も、彼と顔を合わせる事はほぼ無かった。
苦労している話は何度も聞いてはいたがな。胃薬が手放せないとも。
今回もそんな雰囲気を纏っているが、さて一体何の用やら。
本気で身に覚えが無いぞ。最近は山と街の往復しかしていない。
襲って来た奴をボコった件も、既に衛兵とは話が付いている。
アレ以外に騒ぎを起こした覚えが無いし、用が有るならあの時に呼ぶだろう。
「我が主がミク殿に至急お伝えしい事が有るとの事です。どうかご同行頂けませんか」
「領主殿がそう言った、と思って良いのか?」
「はい。どうか、どうかお願い致します」
領主は俺の性格を良く知っている。いや、解っていると言って良い。
緊急の用が有るから来いと言われても、面倒だと断る事もある人間だと。
むしろ至急なら貴様が来いと言う事を・・・あの領主が解っていないはずが無い。
なら呼び出した理由がある。早く来て欲しいと告げる理由があるはずだ。
「内容は?」
「・・・申し訳ありません。ここで話せる事では無いのです」
やはりそうか。外で話して誰かに聞かれるのは不味い、という類の話っぽいな。
予想できる範囲なら、件の暗殺の件で喧嘩売って来た貴族の親族関連か?
だとしてもその程度であれば、時間の有る時で良いと言いそうなものだが。
「解った。何だかんだと領主殿には世話になっている。今回は行こう」
「ありがとうございます」
騎士団長はホッとした顔を見せ、胃の当たりを抑えていた腕を放して立ち上がる。
鎧を着こんでいるから意味は無いと思うが、気分の問題だろう。
そしてそういう態度を見せるという事は・・・まあ、間違いなく問題だろうな。
「ただ俺はこの後宿で夕食とるつもりだった。何の用かは知らんが、食事くらいは用意してくれるんだろうな」
「勿論です。こちらの都合でお呼び出しをしたのですから。車を用意しております。こちらへ」
騎士の誘導に従って外に出ると、組合の出入り口から少しずれた位置に車があった。
扉が開かれたので中に入り、という所で組合からワラワラと精霊が湧いて来る。
『妹まってー!』『置いてかないでー!』『兄はここだよー!』『うおおおおん!』
殴り合いというか、叩き合いというか、鍛錬に集中してる様だから置いて来たのに。
だが騎士達には精霊が見えてないので、無情にも車の扉は閉じられた。
小窓に張り付く様がとても情けない。と思っていたら透過してきやがった。
『ふー、おどろいたぁ』『いつの間に妹は瞬間移動を覚えたの?』『気が付いたら消えてたからびっくりしたよね』『でも追いつけて良かった!』
俺は何も良くない。そう思いながら車に揺られ、精霊の話を聞き流す。
領主館に着くと何時も通り使用人に案内されるが、どうも全体的に空気が重い。
誰も彼も緊張している。というか、張りつめている? 一体何が有ったのか。
疑問に思いつつ使用人に付いて行くと、客間ではなく食堂に通された。
そしてそこには既に領主が構えており―――――。
「ミク殿、誠に申し訳ない!!」
――――突然膝を突いて謝罪をした。
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