第27話、報告方法

「護衛の皆様型のおかげで、無事被害なく辿り着く事が出来ました。我ら一同、つつがなく仕事を遂行して下さった皆様に感謝致します。ありがとうございました」

「「「「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」」」」


 商隊頭が頭を下げて告げると、他の者達も皆揃って頭を下げた。

 仕事なのだから隊を守るのは当然だと、そんな態度を彼らは見せない。

 護衛が居なければ自分達はたどり着けなかったと、感謝の意を強く示している。


「こちらも、協力的で助かった。いい仕事をさせて貰ったと思っている」


 そんな彼らに対し、ゲオルドはそう返した。いい仕事が出来たのはお互いの努力だと。

 護衛だけが張り切った所で、守られる側が適当では守り難い。

 逆に守られる側がどれだけ気張った所で、護衛達が無能であればどうにもならない。


 お互いがお互いに自分の役目を理解して、そうして出来上がった結果なのだと。


「そう言って下さると嬉しいですね。本当に、今回は安心感のある旅路でした」

「そうだな、今回は何時も以上に安定してたと思うよ」


 そういう二人はチラッと俺の方を向き、お互いに苦笑を向け合っていた。

 ・・・おそらく自惚れではなく、俺が居たから楽だったという事だろうな。


「ちっ・・・!」


 そこで舌打ちが耳に入り、視線を向けると案の定という相手だった。

 和やかに話すゲオルドに対し気に食わないと、噛みつかんばかりの視線を向けている。

 あれだけ露骨ならゲオルドも気が付いているだろうに、反応するそぶりは見せない。


「では、名残惜しくはありますが、この辺りで失礼致します」

「ああ、また機会が有れば」

「ええ、機会が有れば」


 その会話を最後に、商隊頭は踵を返し、部下達に指示を出し仕事を始める。

 ゲオルドも同じ様にこちらに振り向き、護衛達の下へ歩いて来る。

 因みに精霊は飽きたのか、さっきから俺の胸元で寝ている。


「皆お疲れさん・・・って俺が言うのも少しおかしな話だが、無事誰一人も欠けずに終われて良かった。また一緒に仕事をする機会もあるかもしれないが、その時は宜しく頼むよ。それじゃあまあ、解散って事で良いかな。後はそれぞれの判断でって事で」


 纏め役殿は、若干雑に話を纏め、護衛達は苦笑しながらその場から離れていく。

 また一緒の時は宜しくなと、それぞれに声を掛け合いながら。

 ただゲオルドに絡んでいた男は、去って行かずにむしろ近づいて来た。


「おい、今回は無様を晒したが、次はこうはいかねえ。俺を馬鹿にしたつもりだろうが、何時かほえ面かかせてやる。見てろよ、スカし野郎が」

「馬鹿にしたつもりは無かったんだが・・・互い生き残れてよかった、じゃ駄目か?」

「そういうスカした態度が気に食わねえんだよ! 余裕ぶりやがって・・・!」

「余裕なんかなかったぞ? けど周囲を見てないと死ぬからな」

「ぐっ・・・!」


 恐らくこの男にすれば、今のゲオルドの言葉も嫌味に聞こえているのだろう。

 ゲオルド自身は「余裕などないが、余裕を持たなければ焦って死ぬ」と言っただけだろう。

 だが男は、余裕の無いその態度で街を出れば、今度は死ぬだけだぞと言われたと思っている。


 むしろ文句が有るなら今相手になってやろうか、とまで言われたと思っていそうだ。

 だが旅路でゲオルドの実力は見て来たからか、怒りに任せて暴れる様子は無い。

 コイツ自分は強く無いという態度を見せながら、割と普通に強かったからな。


 少なくとも辺境の魔獣であっても、道中で出た魔獣程度なら問題無い程度には強い。

 辺境に入って一番最初に出て来た魔獣も倒せなかった男とは、雲泥と言って良い差がある。


「クソが・・・行くぞ、お前ら」


 そして男はそれ以上何も言えなかったのか、安易な悪態をついて去って行った。

 あれだけ醜態を晒しておきながら、仲間連中も同じ態度なのは中々凄いな。

 仲間に慕われる能力と、本人の認識能力は別という所か。


「やれやれ・・・生きて辿り着けたんだから、それで良いじゃねえか。なあ?」

「そうだな。だがその理屈が通じん相手という事だろう。夜道には気を付けておけ」

「えぇ・・・流石にそこまでやらないと思うけどなぁ」


 どうかな。それは希望的観測過ぎると思うが。

 あの手のタイプは、恥をかかされた事をずっと恨むタイプだ。

 それが逆恨みだろうと何だろうと関係無い。


 ならば最終的に、一番安易な手段に出る可能性も大きいだろう。闇討ちとかな。


「所でミクさん、ミクさんは何か僕達に用でも?」

「ミク、何でも言って。聞ける内容なら聞く」


 ゲオルドとの会話がひと段落した所で、ヒャールとセムラがそんな事を言い出した。

 俺が移動の気配を見せない事で、何か話したい事が有ると思われたのだろう。

 用と言えば、まあ用はある。セムラがそこまで構える程の内容ではないが。


「・・・この後、どうしたら良いんだ?」

「「「へ?」」」


 俺の告げた内容に、三人とも少し呆けた顔を見せた。

 気持ちは解らなくもないが仕方ないだろう。


「俺はこれが初仕事だ。色々と解らない事が多い」


 何も説明されずに解散されては、この後どうすれば良いのか解らん。


「あー・・・そうなのか。あんまり強すぎて落ち着いてるから、仕事は慣れてるもんかと」

「てっきり護衛依頼が初なだけで、色々やっていたのかと思ってたよね」

「ミクの初めて・・・初めてか・・・」

「「それ以上は止めろ」」


 セムラはどうしてこう、仕事してる時以外は残念なのだろうか。

 仕事中は指示を預けるに値する人間なんだがな。


「つーか、組合証を発行した所で説明受けなかったのか?」

「あの街で支部長が雑に作って渡して来たから良く解らん」

「えぇ、それ駄目だと思うんだけど・・・」


 今更な話ではあるが、依頼の受け方や、報酬の受け取り方などは全く理解してなかった。

 支部長は俺が街中で仕事をすると考えて、その辺りの説明を省いたのかもしれないな。

 受付で仕事を受ければ、その辺りの話も後でするだろうと。


 だがそれならそれで、護衛依頼を受けた時にちゃんと説明して欲しい物だ。


「んじゃまあ、組合に移動がてら説明してやるよ」

「助かる」


 そうして受けた説明は、聞いて見ればなんて事は無い話だった。

 このカードに受けた依頼の情報が入っていて、その情報をこの組合の受付に渡す。

 その時点では護衛依頼を受けた者が街に来た、という情報が組合に蓄積されるだけ。


 後日、早ければ当日に商隊が報酬支払の手続きをして、そこで依頼完了という事になる。

 そこで初めて依頼料が引き出す事が出来、依頼実績も残るという事らしい。

 依頼料を引き出さねばどうなるのかと言えば、組合証に金額が蓄積されるそうだ。


 組合は銀行の役目も持っていて、組合証がキャッシュカード代わりにもなっている訳だな。

 機械文明は低いというのに、相変らず魔法が有る世界では、一部技術がおかしい。


「だから組合証は絶対に無くさない様にな。万が一悪用されたら大変だぜ? まあ滅多にないだろうし、ミクの組合証を悪用するのは不可能に近いだろうけど」

「そうなのか?」

「悪用対策に持ち主の情報も結構入ってるからな。ミクの容姿というか、特徴もきっりち入ってるはずだ。その見た目で実力ある人間なんかそう居ないだろ?」

「成程」


 俺の見た目は明らかに少女であり、この見た目で魔獣討伐の実績がある。

 となれば俺の組合証を悪用する、というのは中々に難しいだろう。


「さて、ついたぞ。ここが辺境の・・・ニャラグラッドグリハ支部だ」

「・・・ニャラ・・・何だって?」

「この街の名前だよ。辺境って名前な訳ないだろ?」

「ああ、それはそうか」


 そう言えば辺境辺境とばかり聞いていて、街の名前は全然聞いてなかったな。

 まあ既に何と言う名前なのか解っていないが。

 いや、組合の看板に名前が書いて有るな。ならそのうち覚えるだろう。多分。


「ミク、入ろう」

「ああ」


 ぼーっとしている俺の背をセムラが押し――――――当然ながら注目を浴びた。

 依頼を受ける為の受付ではなく、組合員が報告の為に並ぶ列に並んだ事で。

 だがセムラとヒャールが俺に構うせいか、その視線はそのうち切れた。


 ・・・これは完全に、保護者について来た子供と思われているな。

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