第25話、到着
その後はセムラの言った通り、野営の度に襲われる様になった。
更に三日目以降は野営など関係なく、昼間も当然の様に襲って来る様に。
当然ながら危なげなく撃退し、問題無く道行きを進んでいる。
ゲオルドに逆らった男達も、今は大人しく協力しているから問題は無しだ。
そして撃退した魔獣はどうしているかと言えば、全て荷車に積んである。
「ふむ、空の荷車が有ると思ったが、こういう事か」
『魔獣がいっぱーい!』
荷車には護衛達が複数人寝られる程のスペースがあった。
というか、その為なのかと思う程に、荷物の積まれていない荷車が有った。
実際は道中で仕留めた魔獣を詰む為に、態々空にしていたという事だ。
野営の内に襲ってきた魔獣も、全て血抜きはして荷車に積まれている。
中には荷車の中で既に解体され、肉と毛皮と他の素材とに分けられている物も。
商隊の中に解体が得意な者が居るらしく、移動の時間に仕事として引き受けているそうだ。
「せっかく狩ったのに、もったいないから。狩った魔獣は護衛で山分けだけど、運賃として商隊にも1,2割払うのが基本だから協力してくれるよ」
「商隊にも利点があるという訳か」
『大儲けだ!』
どうせ宿場町も無いのだから野営になるし、血抜きの時間などさしたるものでもない。
折角の魔獣を放置するぐらいなら、少しの手間を割いてでも持ち帰る方が得策か。
血の匂いに獣が誘われないかと思ったが、そんな物は関係なく襲われるらしいしな。
因みに俺が倒す魔獣は大体頭が吹き飛んでるので、解体では少々残念な顔をされた。
頭が良い素材になる物や、珍味として売れる魔獣が居たらしい。
とはいえ護衛として仕事を全うした結果なので、文句を言われる様な事は無かったが。
「しかし、これだけ撃退しても襲って来るとはな」
縄張りの概念が有ろうとも、商隊が魔獣を撃退している事は解っているはずだ。
だというのに魔獣達は商隊を襲って来るし、勝てそうにないとみると逃げ始める。
戦う前に危ないという判断が出来ないのは、まだ負けた事の無い群れだったのだろうか。
「人間を狩った経験がある。だからまた狩れると思ってる。もしくは人間を狩った所を見ていた他の群れとか魔獣。人間は容易く狩れる獲物だと思われてる、とかかな」
『人間貧弱ー』
つまりはあの男達の様に、辺境を舐めた連中が襲われて狩られる訳だ。
もしくは辺境を甘く見た護衛どころか、商人が辺境を甘く見て全滅だな。
そういった経験を経た魔獣達は、同じ様な生物を見てまた餌が来たと考える。
道中に壊れた荷車を見かけたが、血が付着しているのは見えた。
つまりあれは荷車を引く獣を犠牲にしたのではなく、全滅だった訳だ。
だが壊れた荷車が余り放置されていないのは、回収している者でも居るのだろうか。
襲われてしまったのだとしても、森の奥に逃げ出す事は流石にあるまいし。
「全滅した商隊の荷車の中身を漁って売る連中も居る。荷車自体も使えそうなら回収して、壊れてる所直して売ったり。価値の無さそうな遺品とか、届けられる相手が居るなら届ける人も」
俺の視線で疑問を理解したのか、セムラは追加でそう告げた。
それで荷車が少なかったのか。なら放置されていたあれも何時か誰かが回収するのだろうか。
余り壊れ過ぎていた場合は、修理した方が金がかかりそうな気もするが。
そもそも壊れた荷車の回収自体手間だと思うが・・・まあその辺り俺には関係ないか。
仕事にしている人間が居て、需要が存在するという事だけ解っていれば良い。
「後は単純に、まだ人間と戦った事が無くて、手を出したって所かな。辺境に向かう商隊も、帰る商隊もそれなりに居るけど、全ての魔獣が遭遇する訳じゃ無いし」
「やはり敗北を経験していない魔獣達、か」
実際この数日の間に、何度か荷車を牽く集団とすれ違った。
だが凄まじく多いという訳ではなく、それなりに多いという程度。
そもそも辺境を行き来する商隊は、基本的に対策を取っているらしい。
自分達のみで大規模な隊を作れないのであれば、複数の商隊で組んでしまえば良いと。
各々で護衛を雇いつつ、皆で協力して行き来する。それで何とかなる訳だ。
となれば小規模で頻繁な行き来は少なくなり、人間に出くわさなかった魔獣も出てるか
普通の獣なら、見た事の無い集団を警戒して襲わない、という行動になるとは思うがな。
「ん?」
戦闘音が森の方から聞こえた気がした。獣の断末魔も同時にだ。
ただ魔獣同士が戦っている感じではない。狩っているのは人間だ。
「・・・森に入って、魔獣を狩っているのか?」
「多分、そう。辺境はそういう仕事が多いし、狩れるだけの技量の持ち主も多い。勿論辺境に辿り着けたからって、自分の実力勘違いして森に入って死ぬのも居る」
「当然だろうな。街道で迎撃するのと、森で相手の縄張りで戦うのとでは勝手が違う」
森の中は獣達の縄張りだ。当然戦い慣れている場というのは力になる。
人間にとっては邪魔でしかない木々も、獣にとっては丁度良い足場だったりな。
さっきも襲ってきた猿が居たが、あれが森の中では中々面倒だっただろう。
「狩りをしている人間が居るなら、もうすぐ辺境の砦街が近い。基本的に彼らは日帰りだから。夜になると視界も悪いし、森の中で戦ってなんて居られない」
「視界か・・・」
そういえば俺は、暗闇でもそこまで問題は無いんだよな。
暗いとは感じるのだが、見えない訳では無いというか。
『僕は夜でも良く見えるよ!』
・・・図らずも理由が解ってしまった気がする。
恐らく夜中でも見えているのは、精霊の力が要因か。
まあ便利なので良いんだが、こいつの力だと思うと何だか嫌だな。
ただ暗いのは暗いと感じるせいか、街中を見た時は違う景色に見えたが。
戦闘だけに使える暗闇の視界、という事になるのだろうか。
・・・俺が方向音痴なだけの可能性も無くは無いが。
「どうも辺境は、俺に過ごしやすい街の様だ」
何にせよ、魔獣を狩る仕事が頻繁に有るという事は、俺には丁度良い街だ。
とはいえ大儲けをする事は出来ないだろう。何せ魔獣で一番高いのは基本魔核だ。
だが俺は魔核こそを必要としていて、一番需要の有るであろう物を売る事が出来ない。
とはいえ初日に出くわした犬の皮は頑丈で、防具にだって使えなくはない。
肉もそこそこ美味いらしいし、魔獣はそもそも美味い事が多いそうだ。
勿論不味いのも居るから、全てが全て美味い訳じゃ無いが。
後は爪や牙もそこそこ売れるらしいから、恐らく生活は出来るはずだ。
「私としては、今後も一緒に仕事したい」
「悪いが、護衛仕事は移動のついでだ。次受ける気は今のところ無い」
「・・・残念」
セムラが本気で残念そうな顔をするが、これは決定事項だ。
護衛を受けたのはただの偶然で、そして利点があったからに過ぎない。
儲かるから今後も護衛仕事を続ける、等という選択肢は俺には無い。
「だがまあ、困った時は言え。世話になった分は返す」
「っ! ありがと、ミク!」
セムラは俺の返答を聞くと、嬉しそうに抱き着いて来た。
実際ゲオルドにも、セムラにも、ついでにヒャールにも何だかんだ世話になった。
彼らが何も知らない俺の事を気にかけ、面倒を見ていた事は気が付いている。
世話になった自覚はあるし、それが不快でなかった自分が居た。
ならば返せる分は返す程度の事は構わないだろう。
少なくとも領主夫人の様に、俺に不快な行動をとった訳ではないのだから。
「あくまで、困った時だぞ」
「勿論。頼りにしてる」
頼りか。ここまでの道中を歩んできて、俺の力なぞ必要無かった様に見えるがな。
「街が見えて来たぞー!」
それは誰が口にした言葉か、その言葉通り大きな壁の様な物が見えて来た。
とても、とても大きなと言うしかない、砦街の外壁が。
魔獣を駆逐する為に建設された街。辺境の街に辿り着いた。
『でっかーい!』
「・・・本当にな」
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