第21話、本番
予定通り二日後に商隊は出発し、その際に護衛が何人か入れ替わっていた。
ゲオルドの言っていた通り、この街までの護衛が居たのだろう。
別の街へ移動ついでに護衛を受ける、というのは少なくないそうだ。
逆に護衛依頼を主に受ける、という組合員もそれなりに多いそうだが。
拘束時間が多く、危険も確かに有るが、寝泊まりが雇い主持ちなので金が溜まるらしい。
確かに宿も食事も払わずに済み、更に依頼料を貰えると考えるとなれば良い仕事か。
ただしその代わり、当然だが万が一が起きた時の対処が出来ねば、一気に信用を落とす。
これもゲオルドから聞いた話だが、碌に実力も無いのに護衛を受けたがる人間も居るらしい。
「素直に頭下げて商隊の移動に混ぜて貰えば良いのにな。そうなると金を払わなきゃならねえから嫌なんだろうが・・・ツケを自分の命で払う事が想像できねえ馬鹿が時々居るんだ」
客として混ぜて貰うなら、運賃を払って守って貰う事が出来る。
だが護衛として雇われるなら、魔獣を倒して雇い主を守らなきゃいけない。
その魔獣が倒せる強さなら問題はない。だが倒せない魔獣なら。
護衛依頼の美味しい所だけを見たツケは、自分の命で賄われるという訳だ。
「おい、まとめ役は居るのか?」
新しい護衛達は、元からいた護衛達にそんな事を訪ねた。
すると周囲の視線が俺・・・ではなく、俺の横に居る男へ向く。
つまりゲオルドだ。この男がまとめ役と周囲に認識されている訳だ。
「お前が護衛のまとめ役か」
「そのつもりは無かったが、どうもそうらしい」
新しい護衛は明らかにゲオルドを軽んじた様子で、鼻で笑いながら確認をして来た。
ただ笑われた本人はと言えば、特に気にした風も無く肩を竦めてい応える。
舐められない様にといった態度だったが、ゲオルドにとってはそれが滑稽だったのだろう。
この時点で格が決まった様な物だが、新しい護衛はそれが気に食わなかったらしい。
「俺達は俺達の判断で動く。良いか」
リーダー格らしき男がそんな事を言い出し、ゲオルドは苦笑を見せる。
「配置の相談ぐらいはして欲しいんだがな。行く先は辺境だから絶対に魔獣が出るし」
「はっ、良いぜ。先頭でも殿でも、どこでも構いやしねえよ」
「じゃあ抜けた連中と入れ替わりで頼むとするか」
「任せときな。魔獣が出て来たら俺がぶっ殺してやるから安心しな」
「そりゃ心強い」
ゲオルドは男に反論するのも面倒なのか、流し気味に配置を決めた。
ただし抜けた連中と交代と言いながら、その場所は少し違う位置だったが。
配置は中央気味で、抜けた連中はもうちょっと後ろだったはずだ。
とはいえその事を誰も指摘はせず、何事も無く全員配置につく。
俺は最初に決めた先頭から変わらないらしい。
ただ最近は、何故かセムラの膝の上になっているが。
「いざという時動けんだろうが」
「任せて。察知能力の高さだけは自信がある。気が付けばミクが倒す」
「・・・合理的だな」
「褒められた」
若干皮肉を込めていたつもりだが、セムラは満足そうに笑った。
何かコイツ、精霊達に若干似てるな。とても自由な態度だ。
その精霊達はと言えば、俺の膝の上に乗って鼻歌を歌っている。
聞いた事の無い歌だが、精霊達に伝わる歌なのだろうか。
気のせいか気分が高揚して来るんだが、変な効果とかないよな?
「ゲオルドが追加の連中の配置を変更したのは、何か理由があるのか?」
移動中は相変わらず暇なので、少し気になった事を訊ねた。
「あの手の連中は連携を取らないから。先頭に置けば後ろに伝えずに突撃して、殿に置けば前に伝えず突撃する可能性がある。勿論異変が有れば皆そのうち気が付くけど、連絡が遅れたら被害が出かねない。前や後ろは、そういう対処がちゃんと出来る人間が望ましい」
商隊の荷車は数が多く、大分縦に伸びている。
そうなると当然だが、前や後ろの状況が解り難い。
後ろが襲われても気が付かなかったり、前が襲われても気が付けない。
そんな事態が起こる可能性が有り、そうなると正確な情報伝達は必要になるだろう。
倒すにしても、逃げるにしても、状況が解らないのが一番危険だからな。
勿論兎に角逃げろ、って状況もあるとは思うが。
とはいえ御者もうんうんと頷いているので、セムラの言う事が正しいのは間違いない。
「なら何事も問題は無しか」
「問題はある」
「ふむ、例えば?」
「連中は自分の腕に自信がある。だから魔獣が出て来たら突撃していく」
「それに何か問題があるのか?」
逃げるなら兎も角、倒しに行くなら良いと思うんだが。
「私達は護衛。主目的は守る事。全員が突撃したら、最悪その間に穴を襲われる」
「・・・中央に配置した連中が、全員中央に残らない可能性が有るという事か」
「そう。だから周囲がフォローする予定。ゲオルドが皆に頼んでる。商隊頭にも報告済」
成程、まとめ役として見られる訳だ。そんな所まで気にしているとはな。
ついでに言えば、俺の後ろに陣取っているのも、俺が突撃しすぎた時のフォローの為か。
どうやらこの点に関しては、俺に敵意を見せていた男も従っているらしい。
俺の事は気に食わないが、ゲオルドの事は認めているという事か。
逆を言えば、俺を軽んじる連中にさえ、あの男達は軽んじられているという事だが。
「苦労症だな、あの男は」
俺なら他者の事など面倒で考えていられない。
昔なら兎も角、今は自分が一番大事だ。
「ん、お人よし。大好き」
随分とストレートな言葉だ。ゲオルドの面倒見の良さを考えれば解らなくもないが。
「これでもうちょっと、ヒャールとくっついてくれたら、もっと好き」
「・・・」
ぐっと拳を握って告げるセムラは、何を考えているのか良く解らない。
いや、欲望に忠実なだけなんだろうが・・・ゲオルドにどういう感情を向けているんだ?
そんなこんなで少々問題もあったが、それ以外の問題は特になく商隊は進む。
次に辿り着いた大きな街ではまた自由時間になり、数日を訓練に費やした。
とはいえ今回はゲオルド達の体を起こす為、という意味合いが強かったが。
「ここからが本番だからな。護衛で来たのに鈍ってて動けませんでした、じゃ笑えない」
「僕も気持ちを入れ替えないと」
「ん、気を引き締める」
三人ともそんな事を言っていた。つまり、そろそろ辺境に入るという事だ。
今居る大きな街を境に、一切の宿場町が存在しない。
常に魔獣の警戒が必要な場所に足を踏み入れ、その中で野営もしなければならない。
この街の周辺は、多少被害が有る程度で済んでいるらしい。
本格的な辺境地域に入る前の、中継地点的な意味合いで作られた街だそうだ。
その為被害が抑えられる地点でかつ、それでも安全とは言えない位置に在るらしい。
この街に来る途中で魔獣に遭わなかったのは幸運だ、と言われる程度には。
それでも、あくまで中継地点だ。ここから先は魔獣に遭うのが当然の地域。
そんな危険地域に近い街だが、これが面白い事に栄えている。
恐らくではあるが魔獣需要の関連だろう。魔核は色々と使える様だからな。
本格的な場所は辺境だが、辺境で取れた魔核や素材を経由する場所が栄えないはずがないか。
「戦力として期待してるぜ、ミク」
「任された。戦闘という一点に関してなら、俺は役に立つだろう」
護衛としては微妙かもしれないが、魔獣を倒す事だけなら俺は優秀なはずだ。
まあ、結局一回しか戦っていないから、多分という注釈が付くが。
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