第4話 消える舞奈(消えない)
5時限目終了のチャイムが鳴った。
教師が去り、クラスメートたちはトイレに行くなり、喋るなり始める。
俺はと言えば、身体を確かめるようにゆっくりと席を立つ。
「いてててて……」
血はすぐに止まって顔が腫れたりするようなこともなかったが、そこかしこが地味に痛い。
杉山のやつ、意外と鍛えてやがる。
こっちの身体がひ弱だとはいえ、ただ力任せに殴る蹴るしただけじゃ、こうはならないはず。
なにか格闘技でもやってるのか……?
俺がおそらく渋い顔で考えを巡らせていると、申し訳なさそうな顔をした舞奈がやってきた。
「ごめんね、ゆーくん。痛い?」
そりゃ痛いが……。
「俺の心配より自分の心配しろよ」
キョトンとした顔をする舞奈。
「でもゆーくん、血が出てるし」
「でも」ということは、多少自覚はあるのか?
自分よりも血が出ている俺のほうがダメージがデカい、と。
俺は盛大に、ハアァァァァ……、とため息をつき、
「俺はおまえの無鉄砲というか、無軌道というか、暴走した正義感のほうが心配なんだよ。人のために自分が危険をおかすなんてバカみたいだ。あんなこともうやめろよ。少なくともやりかたを考えろ」
もしかしたら舞奈の特殊能力“正義の暴走”とかなんとかいう技で、別のカタカナ名を付けたほうがいいやつだなんてことはなかろうか。
あ、ちょっと面白くなってきた。
「目の前で傷ついてる人を放っておけないよ。それに、ゆーくんだって私が危ないとこ、かばってくれたじゃない」
「それは……」
正直あんまりよく考えての行動ではなかった。
実際、舞奈は助けたが、村田は助けていない。
この二人になんの差があるかと言えば、どれだけ親しい間柄かということだけだ。
無意識のところで、俺はこの二人になんらかの線引きをしていることは間違いない。
争いから遠ざかりたいならば、どちらも助けないのが筋の通った行動だと思う。
「でも」
舞奈は少しうつむいて表情を隠して話を続ける。
「守ってくれて、うれしかったよ」
顔を赤らめているのが隠せていない。
俺もつられて赤くなりそうになったので、「ああ、まあ、うん……」とかなんとか、返事を濁してしまった。
転生して争いのない世界に戻ってこれたはずなのに、やはり危険をゼロにはできない。
俺はそのことについて、改めて考えさせられた。
そして放課後。
たまたま居合わせた担任に汚れていた床掃除を依頼され、なんで俺がと思いつつ仕事を終える。
なんとはなしに杉山たちがまた変なことをしていないかと周囲を確認してしまうが、杉山はおろか舞奈もいない。
まあ、先に帰ったんだろうと思ったところ、斑鳩サシャが話しかけてきた。
「ハンカチのこと忘れんなよー」
「1万円のことは忘れさせてもらうけどな」
「じゃあ、5千円で」
「値上げしないところは変に良心的だ」
「えー、アタシは基本いいヤツだよ」
斑鳩は、そこでクスリと笑う。
「いいヤツついでに教えてあげるけど、伊勢さん、杉山たちと一緒に帰ったよ。あいつら帰り道同じ方向だったっけ?」
舞奈が杉山たちと!?
俺は走り出していた。
舞奈が杉山たちと帰ったのは、おそらく杉山たちになにか物申したいとかそんなところだろう。
杉山たちがこれ幸いと、どこか自分たちの根城で“わからせてやろう”とか思ったに違いない。
杉山たちの行き先は予想がついている。
連中がよくたむろしているファストフード店だろう。
たしか杉山だかの父親がオーナーの店で、勝手に貸し切りにして好き勝手やっていた。
あの店は、繁華街からちょっとだけ外れた場所にあり、学校からはそこそこ遠いが、走っていけない距離じゃない。
自転車があればいいんだが、あいにく俺は自転車通学ではない。
俺は無心で走った。
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