Task.12「今夜は、とことん止まらない」
近くに建っていた、VIP御用達の超一流ホテル。
予約が半年後までは埋まってると噂の、敷居も高さも桁違いなホテル。
間違っても、自分みたいな凡人、田舎者には一生、縁遠いどころか縁が無さそうなホテル。
そんな場所に今、
知り合いの伝手により、誰にも迷惑をかけずに、アポ無しでチェックインを難無く済ましてしまった、
この元バリキャリ、どこまでも怖い
一方の
「お、おい……。
この期に及んで察しの悪い
業を煮やした
「あんたって……
まぁ……
ここに来て、やっと
そういう事なのだと。
「ちょ、待っ……」
「待てない」
自身も上着を脱ぎ、Yシャツ一枚になる
次いで
彼女を本気にさせるスイッチである、眼鏡を。
「……
「だから……違うってんでしょ。
何度言ったら分かるのよ、
脱ぎ散らかした衣服の上にスマートグラスを着地させる
そのまま彼女は、両目を猟奇的、蠱惑的に輝かせる。
「あんたの
全部、あんたの
あんたは恐れ知らずにも今日、この
もう、キスだけなんて到底、無理。
……あんたが。
じゃないと心が、渇きが埋まらない……」
「
手始めに、舌を入れるキスをお見舞いする
それはまるで、ライターから蝋燭に火を灯す
「ぷはぁっ」
唇を離し、息継ぎをする二人。
欲望というプールから出た二人は再び、今度は大海原に旅立とうとする。
「なつ、き……」
自分の体にのしかかっていた
今度は、
「……いつに
「……誰の
「……知らない。
どうでも
「だったら直接、叩き、刻み込んでやる」
なすがまま、されるがままだった
俗に言う、ハグチューである。
大人っぽさと子供っぽさがせめぎ合う
そして、
「……ねぇ」
蒸気した声で、
言葉すら不要、邪魔に思えてならず、
それでも、
飾り立ての
「……
……
……
……
「
想像した
夢にさえ見なかった。
あの
自称『完璧』の
ドSを屈服させるのが醍醐味とか言ってた、
「
どうしようもなく、あんたを必要としてる。
コンマ一秒でも早く、
その
あんたの心を余さず知覚、残しておけるだけの、体と器官さえ備わっていれば、他に
そもそも、今の心境を言語化など、不可能。冒涜にさえ思えた。
それ
「……
お願いよ、
他には、
……優しくなんて、しないで」
遠慮。
後ろめたさ。
ジレンマ。
世間体。
コンプレックス。
そういった
目の前の美女を手中に収めたという、支配欲。
自分の
それでいて、最低限の経緯を払えるだけの、青天井の好意。
一匹の
同様に
そして二人は……
世界は繋がり、二人だけの物となった。
色と時間を失ったモノクロな空間で、想い人だけが
「……あつ、し……」
「
互いに生まれたままの姿となり、見惚れるのも忘れて、愛し合う二人。
なれば、
そう。
今夜は、とことん止まらない。
※
「ん……」
心地良い倦怠感に包まれながら、
「……あ、れ……?」
目を開けた瞬間、そこに
先に起きていたらしい。
「っ
起き上がると同時に、全身を駆け巡る痛み。
どうやら相当、無理をさせてしまったらしい。
「……ん?」
ふと視線を下げると、その先に
そして、その横に置いてあるのは……。
「っ!?」
数時間前の快楽がフラッシュバックしてしまい、
かくれんぼ中の悪戯っ子の
「おわぁっ!?」
想定外の事態に、
同じく一糸纏わぬ
「……
「おはよう、
「
てか、聞けよ。ほんで、いつから見てたんだよ?」
「それは結構」
「だから、聞け……」
ベッドから降り伸びをした
加えるならば、ドケチな彼女がホテルを利用するなんて(今日みたいな特例はノーカン)驚天動地でしかない。
「……
「いーや……。
やっぱ、あんたはあんただな、って……」
それより、『坊やだからよ』って、ちょっと言ってみてくれ。
肘置きで頬杖してると、
「……意図が分からないわ。
『……坊やだからよ』。
これで満足?」
不愉快、不可解そうにしていながらも、きちんと礼儀正しく、即座に、忠実に、少し恥ずかしそうに、リクエストに応える
お
全然、敷居高くねぇよ。別世界でも
そもそも、
単なるポーズとでも言いたいのかよ。
そんな
「ところで、
一つ、確認しておきたいのだけれど」
「お、おう。
「
そう言えば、初めて出会った夜に、『レベルビリオン』とか
はたと、
彼女が指し示す、その意味に。
「おい……。
まさか……」
「そうね。
「……」
途方も無い額と、
「という
グラスをテーブルに置き、ベッドに戻り、彼の胸に手を当てながら、
「
新しい仕事を、する
元々、あそこに入ったのだって、あんたへの対抗心、恩義に報いる
本気か、なんて言わない。
俺達を裏切るのかよ、などと泣き付き抱き付いたりもしない。
自分のやりたい
丁度、フリーターを卒業し、別の業種に就こうとしている
何人たりとも、咎められる
「っても、
元々、今の職場では一年契約って形式だったもの」
「半年後、か?」
「ええ。
ちょっと
恐らく、理由を明かす
彼女の考えを察知し、
「……で?」
「俺に、一緒に来いと?」
それすらも、
「……
でも……それでも、
気持ちも、距離も……もう、離れたくない……」
この三ヶ月。アニメやドラマの一クール分。
退屈、鬱屈、窮屈なまでに。
その事実が
ならば
彼女とて、自分と同じ人間なのに。
彼女は、自分と似た者同士の、不器用者なのに。
配慮の至らなさに、
「
それまでの間に人員も確保するし、ガレットも引き続き貸して
社会人として、従業員として、退職者として、それ
だから」
それ以上言うな、とでも言いた
「……行くよ、俺。
あんたと一緒に」
淀みも未練も
「……
「言い出したのは、あんただろ?」
「そうだけれど……」
「……ずっと思ってた。
俺は、長男坊だから。
弟達、妹達がどんな仕事に就こうと、どんだけ俺より稼ごうと、その
俺だけは、年少組をいつでも助けられる、守れる
でもさ……」
天井のシャンデリアを見上げ、
「裏目に出て、
俺がネックになった
本人は、頑として認めないけどな。実際問題、それ以外の何物でもないんだよ。
あいつが結婚に消極的だったのは、この年で彼女も
「とどの
自信が
がらっぱちだし、容量も要領も悪いし、取り柄なんて
その
家族の
小心者なんだよ、俺。
でも、だからこそ……変わりたい。
いや……ぼちぼち、本気で変わらなきゃいけねんだ」
恋人繋ぎをしつつ、
「……やるよ。
一念発起、心機一転した。
俺は、俺を、あんたを超える。
あんたと肩並べて、新しい場所で驀進する。 ミスマッチだなんて舐めた口、もう誰にも、取り分け俺にも、
その目には、交際に発展するまでの、ライバル心、対抗心が灯っていた。
「……まさか、また勝負する羽目になろうとはね」
「
久し振りに、燃えて来たぜ」
「あら?
余計な茶々入れんな」
「じゃあ、ワインでも入れようかしら」
「うわー、
互いに心から笑う二人。
そうだ、これだ。
これが、これこそが、自分達の理想を突き詰めたスタイルだ。
そう、互いに確信した。
「で?
転職先の目星は、もう付いてんのか?」
「ええ。
っても、まだ話を進めてるだけの段階だけれど」
「凄ぇな。
いつ就活してたんだよ」
「
散歩してた
「んな、ペットみたいな感じで……」
「現にそうなんだもの。
本人曰く、『イケメン探ししてたら有りつけたー』との
「意味不明過ぎるのに
「
でも、目処は立ちつつある。
それに、今度こそ、
今までの鬱憤も込み込みで、馬車馬、ゴーバスターエー○、檀黎斗○並みに、顎で使い倒してあげるわ……。
腕が鳴るわね……」
「まぁ、そこら辺は一任するとしてだ」
ただならぬ負のオーラに身の毛がよだち、
「俺の仕事は
俺は、何をすれば
「三つ
一つは、スカウトね。
「カミュもか!?
そいつぁ
「あくまでも、仕事とスケジュールが合致してるからよ。
で、バランスからして、あと四人、六人はスタッフを募って
「八人から十人だけ?
少数精鋭だなぁ」
「選りすぐりなら、
次に、二つ目。
あんたには、主に料理をお願いしたい。
チェーン拡大する
「それなら、俺にも
思っていた以上に自分向きの仕事に、
それにしても。
「……ところで、どういう業種なんだ?
仕事内容が
「簡単に言うと、カラオケよ」
ベッド脇に置いていたスマートグラスをかけ操作し、
そんな機能もあったのかと気を取られつつも、目の前に出されたパワーポイントを確認する。
「『オタ×カラ』?」
「オタク向けの、お宝みたいなカラオケで、オタカラよ」
「へぇ……」
「業務内容は、
従来と異なり、アニメや特撮、ネット系音楽に特化した物。
一般的なカラオケには収録されていない隠れた名曲を網羅するのは勿論、本編映像を用いたPVを多数、用意する予定よ。
カラオケ以外に、持ち込み要らずで飛行機やサブスク感覚で動画、映画、メイキングなどの限定特典、ゲーム、アフレコ、なりきり遊びも楽しみ放題のプレミアムプランも
配信より一足先に歌える
それと、タブレットの代わりに、こっちでもガレットで
当然、アニメや特撮に馴染みの無い
無論、公式から許可が降りた上で、合法的にね」
「なるほど。
確かに、上手く行けばバズりそうだなぁ。
しかし、
「
あの子、何もせずとも仕事をする天才だもの。
それ以外に、
「出たよ……」
口癖染みてきた
反面、想像を凌駕する進捗具合に、気圧される。
「で、どう?
乗り気になった?
ワクワクしない?」
「
こりゃ
張り合いが
「良かったわ。
で、最後に三つ目。これが、最重要なのだけれど」
「……
屈辱だけど、骨抜きだわ。
それが今の、これからの
「
どれだけ。
ここまで来るのに、どれだけ大変だっただろう。
最初は互いに、特別でも
ボケて、ツッコんで、喧嘩して、仕事して、家族ぐるみで付き合って、一緒に食事して、同居して、擦れ違って、遠ざかって、遠回りして、寄り道して。
歪み合って、反発し合って、ぶつかり合って。
そんな毎日を過ごしていたら、いつしか惹かれ合っていた。
いや……ともすれば、
真実は、分からない。
辿って来た足跡が最適解、最短だったかも知らない。
けど、それでも
自分達は今、幸せ全開だと。
「……他の仕事はともかく、この大役だけは、重大任務だけは、誰にも譲る気は
でも、これは単なる、
拒否権、選択権は
でも、もし……もし、引き受けてくれるなら。
それ相応のサービスは保証するわ。
「……誓う。
俺の
ほんで、安心しろ。俺は図太ぇし、しぶてぇ」
「……そうだったわね」
思わぬ返しに
「交渉、契約成立ね。
それじゃあ、細かい話は、また追々にしましょう」
眼鏡を外し、トロンとした表情になる
次の瞬間、ガクッと、
「お、おいっ!?
大丈夫か!?
なつ」
彼女が、いつぞやカフェ・
そう言えば先程、少量とはいえ、ワインを含んでいたよーな……。
「おい……。
まさ、か……?」
その、まさかである。
ベッドのスプリングが唸りを上げ、
と同時に、
「な、
「なぁにぃ?
明らかに呂律の回っていない
やはり……そういう
「
下戸にも
「だーれーが、カエルよぉ?
そよ、
あんたにー魔法をかけられて、こんなんなっちゃいましたぁ」
不必要に体を揺らし、理性と知性の
かと思えば、ガウンを脱ぎ、
生の感触を食らい、
ただでさえ体の節々が痛いのに、これ以上は
そもそも、もうスキンが
「
「お、おう?」
「……愛してる……」
「……あんさぁ……。
……あんた、さぁ……。
そりゃあ
雰囲気も情緒も余韻もへったくれも、あったもんじゃない。
「あははっ。
タジタジなダーリン、『タジダリ』だぁ……」
「もう好きにしてくれよぉ……」
「好きになってます。
でも、好きにしまぁす」
「……ご自由に……」
こうして開始される、第二ラウンド。
しかし、先程と打って変わり、今度は
想いを確かめ合っても。
将来を誓い合っても。
ボロボロになるまで愛し合っても、やはり。
今夜は、とことん、終わらない。
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