Task.11「場違いだらけのプロポーズ」
鳴り響く鐘の音。
白を基調とした豪華な装飾。
パイプオルガンが奏でる神聖なメロディ。
ステンドグラスから差し込む光。
これから行われる、結婚式の
「お」
中で待っていると、不意に後ろのドアが開く。
やって来たのは、純白のウェディングドレスを纏う、本日の主賓。
「……来てたんだ。
早いね、兄さん」
今日ここで式を挙げる
「
……悪かったな、
「
私が、勝手に先延ばしにしてただけだから。
まぁ……
「……やっぱ、俺の
「そんな
それより」
そのまま一通り目を通すと、
「
「普段はダメダメで悪かったなぁ」
見るからに不機嫌な
お色直しが必要なければ今頃、グリグリ攻撃でもしていた
「ところで、
もう付き合い始めて三ヶ月だし、出会ってからは半年だけど?」
「
「じゃあいつまでもフラフラしてないで、早く
じゃないと
……もう、
が、それを言ったら突かれるだけなので、
「
今日のゲスト、
司会者だって、
「すみません
「だったら、もっとしっかりしてよ。
まだまだ、私が見てあげてないとなぁ」
今日も今日とて、兄の心配ばかりする長女。
これでは、立つ瀬も切りも
よって、
「……じゃあせめて、二次会まで待ってくれよ。
それが、
逃げも隠れもしない、決意表明。
「バッチリ決めてよ、
「まぁ……尽力するわ。
っても当然、ノー原稿だがな」
「当たり前じゃん。
作られた、用意された言葉なんて、響かないでしょ?
大衆の心を打つには、衝動から出た
「お前どうしたのキャラおかしくない?」
※
「それでは次に、ご来賓の方々を代表し、
それでは、
てか、堅苦しいから、
「……おう」
三男坊に促され、壇上に上がろうとする
その前に、隣に座っていた
「……曲がってた。
しっかりしなさいよ、
「……あんがとよ」
別に、
かといって、緩んでいた
単に、緊張を解すべく、
「……アツ
「か、
まさかの
お
「
気を取り直し、舞台に上がり、原稿を開く
そのままマイクの高さ、角度を調節し、スピーチを開始。
しようとしたが、
発生源は、新婦……
「失礼しました。
一つ、お詫びを申し上げようと思いまして」
「お、おい?」
「
新郎、
来場者が次々に困惑する会場。
そんな中、
「先程、兄の原稿を先読みさせて頂きました。
それはそれは、見るに耐えない、お聞き苦しい内容でした。
正直、三文小説以下。小学生の読書感想文みたいでした。
そもそも、兄の顔を
あの強面の、筋肉のどこに、文才などという高尚、文化的なセンスを感じさせる要素がございましょう。
兄から覚えられる物が一つでもあるとすれば、それは硝煙の香り
バスガイド
誰もが渇いた笑みを浮かべつつある状況で、
「
あの文章じゃあ、私の琴線に触れないの。
そもそも、格式張ったやり方なんて、
いつも通り、派手に、荒々しく、フリースタイルで行こうよ。
私が今、最も望んでいる言葉を、きちんと届けてよ。
二次会までなんて、待ってられない。
今、この場で、さっさとサクッと、ぶちかましてみせてよ。
飛び交う文句なんて、花嫁権限で、私が片っ端からねじ伏せるから」
どこまでも
ここまで言われ黙ってられる
「……
そこまで
抑えていた野性味を解き放ち、手始めに原稿をビリビリにし、ポケットに入れる
会場に充満していた、膨大な不安感。
やがてそれらは、
それは決して負のオーラではなく、
皆が、
「
お前、俺が長男だってのを忘れ
めでたい日にケチ付けやがるってぇ、くだらねぇ
「
「へーへー、悪ぅござんした。
でもまぁ、これからは俺も気を付けるんで、お前もちったぁ静かにしやがれってんだ。
いつまでも俺がおんぶにだっこしてちゃ、相手方も不憫極まりねぇだろうが」
のっけから兄妹喧嘩が展開され、笑い声が聞こえ始める場内。
続いて
「それから、センポウさん。
複雑な兄貴心を、理解してくれ。
……ごめん、嘘だ。単に、妹に先越された都合上、あんたに八つ当たりしてた。
義兄が手を合わせ、おちゃらけて手を合わせると、センポウさんは手をブンブン横に振った。
まさか、ここで明かされるとは思っていなかったらしい。
その
それが、単なる前座だとは、露知らず。
「とまぁ、余興は置いといて、だ。
そろそろ良いよなぁ?
「やっちゃえ、
「誰が矢沢永○だ。
それはさておき、おいっ! そこの、俺の彼女!
そう! あんただよ、
「……は?」
「『は?』じゃねぇよ!
耳ぃかっぽじって、よぉっく、
自分に飛び火するとは思っておらず、素っ頓狂な顔を披露する
が、
「……受けて立つわ。
で?
「俺と結婚しろっ!!」
P=
相手の集中力を維持しつつ、分かり
その、慣れ親しんだ文法で、
了承済み(それどころか促している)とはいえ、
こんな荒唐無稽、型破りな振る舞い、本来であればタブーでしかない。
だが、幸か不幸か、
要は、お祭り大好き一族であり。
「はっはっ!
「やっぱり、内は、こくでなくっちゃねぇ!」
「おい、嬢ちゃん、
「未来の旦那がお待ちだよ!
さぁ、行った、行ったぁ!」
「ちょ、ちょっと……!?」
盛り上げようと囃子立て、指笛などが響き渡るチャペル。
結婚式会場は最早、
ラップバトル、対バンの
「白状するよ。
自分なんか及びも付かない、お呼びじゃない
「それは……」
「けどよぉ」
「この前、派手に叩きのめされちまってよ。
そこで、やっと分かったんだ。
仕事の
そんなん突き付けられて、おいそれ、おめおめ、易易と
あんたは俺にとって、どうでも
だから……俺は、決意した。
男として、彼氏として。一世一代の、覚悟を決めた」
それを
「生きて来た世界が違ってても、生まれて来た世界は同じだろ!?
それに、これから生きていく世界を同じにすればいい!
俺達は、こうして、確かに出会えたんだから!」
……届け。
「あんたが育って来た世界!
あんたが生きて来た世界!
あんたが住んで来た世界!
俺がずっと勝手に憎み、拒み、作り続けて来た世界!
あんたと俺を隔てる
俺の腕で! 俺自身の意思で! 俺の言葉で!
残ってるのは、あんたと俺が産まれて来た! あんたと俺が出逢い、そして
……伝われ!
「つーか、あれだ!
ここだけの話、あんたと付き合える、渡り合える、ど突き合える人間なんざ、世界広しといえど、
意識高ぇのに敷居低ぇ!
器用なのに不器用で、話も気分も飛び飛び!
性格と経歴の
ちゃんと
URなのは認めるが、宝の持ち腐れしてばっかで、腐ってばっか、舐め腐ってばっかいやがって!
あんたを俺が、正しく機能させる! あんたの美点も、利点も、弱点も、難点も、盲点も、俺が
」
……
「だから、頼む! これから先も、俺と一緒に生きてくれ!
俺と一緒に、幸せな世界を、家庭を、未来を作ってくれ!
俺には、もう、あんたしか
あんたにもきっと、もう俺しか
俺達が、俺達にとって!最高で最強で最良で最大で最善で最要で最適で最純で最上で
だから、
俺と……
まるで生徒会の立会演説会の
そんな、どこまでも青く、こっ
これを受けて、「……はい」の一言で済ませられる
「んっ……!」
怪文書のお返しと言わんばかりに、情熱的、それでいて純情な、
交際二ヶ月目にして、
最初こそ面食らっていたが、
再び、熱い口付けを交わす。
これにより、場内は大歓声に沸き立つ。
二人の
「よっ、
「噛ましてくれるわねぇ、お二人さん」
「ねぇ
ねぇ、ねぇ!
とりま、おめっとさーん!」
「ナっちゃんを独占するとか、この果報者めー!
「素敵なスピーチちゃんだったわよぉ、
これからも、
「ボクがぶん殴った
うぉぉぉぉぉ、両手両足の指が止まらないぃぃぃぃぃ」
「今度こそ安泰だね。
次は、二人で遊びに来てね。最高級に饗すよ」
気付けば、聞き覚えの
見遣ると、
どうやら、
「
「
「ちょ、ま、
少し、休ませっ……!?」
続いて始まる第二ラウンド。
二人を止める者は、一人としてしていない。
こうして、主賓二人を置いてけぼりにして、
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