Task.10「恋してないVS恋しない」
紆余曲折を経て、晴れて付き合う
が、カップルになったらなったで、また新たな困難が生じるのが現状だったりする。
「
どうかしました?」
「……?
「いえ……入れ間違えてますけど?」
「あ」
ゲーム用の袋に、DVDを入れようとしていたのだ。
一方で、
「……
「さては……彼氏絡みかしらぁ?」
「若いって
「ち、違っ……」
「あら
否定しようとするも、自分が招いた状況である
そんな中、噂の彼氏、
「悪ぃ、
「
「別に、奪い取ったりなんざしやしないわよ」
「そうじゃくって。
な?
「……あ」
そこに来て
彼女は、会釈だけ済ませると、そそくさと退散した。
「用……って、
「ははーん……」
「そういう
「
「そうねぇ。
今時の子には、ちょっと難しいかもしれないわねー」
「??
「気にすんな。
それより。各自、仕事。
はい、解散」
パン、パンと手を叩き、持ち場に戻る
「……
これで」
※
「最近、てんで見なくなったわねぇ。
当店名物、ムツキ夫婦の痴話喧嘩」
翌日。井戸端トリオ、
やにわの
というか。
「……
その名前」
「
二人の名前から取ったのよ」
「
そもそも、
異議、訂正を申し立てます」
「……こういう場合は、『まだ』の一言を付けるのが習わし、ってのは置いといて。
本題はそこじゃないわよ、
「あなた
「すみません。もう一つ忘れていました。
それと『結ばれた』という発言は、あらぬフィジカルな誤解を生むので、ご遠慮願います」
「一つじゃないわ。
そして、そこじゃないわ」
「てか、
あなた、意図的に話題を逸らそうとしてるわよね?
喧嘩云々について、触れられまいと」
「……」
この人達は、どうして妙な所で鋭いのだろうか。
普段は、ここぞとばかりに脱線してるのに。
「でも、確かにそうですよね。
最近、
「……
別に、他の異性から、明らかに優先順位が上の状態で名前呼び聴かされる程度で、妬いたりしないわ。
「あ、あはは……」
その割には、中々に攻撃的なんですが……。
優先順位についても、きちんと取り上げてるし……。
と思ったが全員、伏せておいた。
「……じゃあ、
最近、
大人、それも正真正銘の恋人相手といえど、一歩も引かない現役女子大生。
その強かな姿に、「こっわ……」と内心、竦み上がる井戸端トリオ。
この状況に男性が不運にも居合わせよう物なら、
イヤミス好きの戸松、トレンディドラマが主食の井出すらも、ドン引きする
いや……そもそも、ああいう類はフィクションだから受け入れられるのであって、現実に見せ付けられても、大半の人は困り果てるだけなのかもしれない。
「……そこからして、疑問なのよ。
静かなのの、どこが悪いってのよ」
「別に、悪いとは言ってません。
二人には合ってないとか、部外者の身で偉そうな
てか、あれはあれで、エモいと思います」
「感想なんか要らないわ。
「だからっ……!
もっと、ちゃんと! しっかり、
そう言ってるんですっ!!」
「まぁまぁまぁ……」
「それ
「そうよ。
いつの間にか席を立ち前のめりになっていた二人は、冷静さを取り戻し、大人しく座る。
その姿を見て、井戸端トリオが心から安堵した。
のも、束の間。
「……
「今夜、私の部屋で
「ええ。
一人暮らし中のあなたの実家なら、
「……くれぐれも、逃げないでくださいね。
まぁ、見す見す
「誰が。
こちとら
「まだ、名字呼びなんですね。
ここまで、あからさまに吹っ掛けられて。
それとも、
別に、そこまで離れてませんよね?
私だって、その気になれば、いつだって、
今から逆転サヨナラも、行けますよね?」
「そう言って、言い聞かせて、その気にならず、出会って二ヶ月足らずのぽっと
「私が
「誰も言ってないわよ、そんな
被害妄想は、ただただ痛いわよ?」
「誰がさせてるんですかっ!
そもそも年下に、こんなみっともない
「
年下に見られたいのか、大人っぽく見られたいのか、どっちつかずよ」
「両方を求めて、
「わー。そろそろ、時間だわー」
「
「失礼しまーす」
まだ十分前だというのに、休憩室を去る井戸端トリオ。
残された二人も、きちんと休憩時間は遵守し、仕事はきちんと終わらせるのだった。
※
女性同士の熾烈な戦いが繰り広げられていた頃。
「おめでとう。
「……聞いたのか?」
「分かりますよ。
その顔を見れば、ね。
それより、もっと飲んでください。今日は、
「んじゃ、
グラスを当て乾杯し、優雅な一時に身を置く二人。
しかし、このまま流されてはなるまいと、
「要件を言えよ。
それも、いつもより早く店を閉め、普段なら提供しないアルコールを用意してまで」
「まさか。
今夜は、あなたを祝いたかった。あくまでも、ただそれだけですよ」
「……
お前だって、好きだったんだろ」
「『だった』じゃありませんよ。
今でも、変わらず好きです」
「ほれ、見ろ。
だったら……」
言いかけて、
彼の複雑そう、微妙な顔色を、拝まされて。
「……
「……悪ぃ。
無粋な
分ぁったよ。今日は、しんみりした話は
男同士、サシ飲みと洒落こもうぜ」
「ええ。
悔しいですが、今の僕は、それで本望です」
拍子抜けする程に短く、あっさりした会話。
男のライバル同士の和解てのは、案外こんなもんなのかもしれねぇなぁ……と。
「……やっと見付けた」
そこで、新たなる来客。
閉店の立て札が
それが
別に、酩酊していたからではない。
スーツが普段着だった彼女が始めて、スカート姿で、自分達の前に現れたからである。
「
申し訳ありませんが、今は……」
「
あんたに、話が
普段より
「悪ぃな、
また来るわ」
※
海を一望できる、公園。
「……起きてたのよ、私。
あの時」
あの時。
自分と
振り向き、手摺に捕まりつつ、
「
あんたも
自分は今、介入すべきではないと。
「私さ。
ノーマルだから、そういう意味ではないけどさ。
でも……最高の親友だって、
いつも
そう、自負してた。誇りに思ってた。
でもさ……」
壊さんばかりに手摺を強く掴み、
「……友達なんてさ。結局、そこ止まりなんだよ。
デートは行くけど、キスはしない。
子供と一緒に、暮らしたりは
家族には……恋人以上には、なれないんだよ」
ただ、聞き手に専念する。
「別に私だって、
けど、だからといって、それだけで満足、納得、
だから私は、夢に逃げた。
向こうの世界だったら、私は自由に、
侮っていた。
見誤っていた。
考えてみれば、
彼女は、
「
今のあんたは、最高にダサくて、最悪に間違ってるって
聞きに徹するのも無理そうな売り言葉。
それでも、
その方が、最速で正解に辿り着けるからだ。
「あんたさぁ。まだ思ってるんでしょ?
彼女は、自分とは違う。
彼女は、自分とは別世界、別次元の人間だった。
……ううん、違う。
同僚、タメに続いて、恋人同士という、新たな対等を手に入れた
「『静』と『動』、だっけ?
確かに、
けどね……今のあんたは、そのどちらでもないよ。
宙ぶらりんですらない」
泣きそうな目で
その姿が、酷く辛そうに映った。
「創作者として、アドバイスするよ。
『受動的』と『受け』ってのは、似て非なるんだよ。
今のあんたは、受け入れてるんでも、受け止めてるんでもない。
ただ、流されているだけ。
その
対等な関係? そりゃそうでしょ。
互いに荒立てず、波風立てずに、フラット維持に努めてるんだから。
丁度、今、私にしているみたいにね。
だから……私が、目を覚まさせてやる」
言葉を結ぶと、
いきなり精神攻撃を受け、今度は物理まで
それでも
如何に
「ほらね。
世界なんて、これ
だってのに、今のあんたは何?
勝手に偶像作って枠に嵌めて飾って、崇拝して賛美して美化して、遠ざけて離れて、物理的には近くに
今のあんたさ……駄作だよ。
創作意欲さえ刺激されない。
心の振り子が微塵も反応しない」
パッ、パッと手を払い、
「もう一つ、
あんたに告白した時。
あんたに甘えてる時。
あんたに助けられてる時。
一度でも、
「ここまで言われて、
それでも
間違っても、私が心から欲した、憧れた
まっ……あんた
とやかく意見する筋合いも気力も
あんた
その言葉を最後に、立ち去る
一人残された
やっと言葉を、飾らない本音を綴る。
「……分かってんだよ。
全部、全部……分かってんだよ」
※
「好きなんです。
失敗しても、いつだって優しく注意してくれる、あの人が」
ピンクを貴重としたガーリーな部屋。
そこで、縫い包みを抱きながら、
「まぁ……でしょうね」
「知ってたんですか?」
「じゃなきゃ、あんな大見得切って喧嘩売られないし、ここに招かれだってしないわよ」
「ですよね……」
苦笑し、やや縮こまる
「……
生意気な、無遠慮な発言をして」
「……
あなたの言う通り、
「じゃあ、お互い
それで、次なんですけど」
縫い包みを戻し、顔を引き締め正座して、
「私、内定が決まったんです。
来年からは、違う職場に行きます。
私には……もう、時間が
だから、その間に、
あなたに、安心させて
ただ……それだけなんです」
包み隠さず、本音を暴露する
「……
あなたの想いを、伝えなくて」
「これでも私、結構アピってたんですよ?
そもそも、名字被りしてるんでもないのに名前で呼んでる辺り、あざといってか、
「……全面的にその通りだけど、自分で言うかしら?」
「とまぁ、そんなこんなアプローチしてても、何も変わらなかったんです。
て
それを自分が肯定するのは愚行だし、かといって否定する
そんな
「
年齢差なんて体裁の悪さを越えさせられなかった、私の落ち度です。
後悔だらけだったけど……彼を好きになった
これからも、ずっと」
「……強いのね。
あなたは」
「当たり前です。
そうじゃなきゃ、生きて行けませんから。
ただ……差し手がましい、未練がましいのは承知で。
最後に、
「『お願い』?」
「一つ。
これから私の
「……『
コクッと頷き、従う。
「二つ。
「……確約は
少し迷った
「そして、三つ目。
これが
……これからも、彼を想い続けて、
「
我慢して、我慢して、我慢して。
それでも塞ぎ切れず、防ぎ切れず。
堪え切れずに、
「……私が、次に進めるまでで、構いません。
それでも……声と手が届く場所には、
戦わずして負けた自分に、そんな綺麗事は言えない。
片想いだった自分は、恋にまでは達していない。
言った所で失礼に値するだけだし、それを口にしたら、自分は
笑い
恋愛経験こそ薄い
今は、どんな言葉を届けても、きっと無粋でしかない。
ならば、自分がすべきは、ただ一つ。
彼女の体も、泣き顔も、心も、受け止め、抱き締め、背負うだけ。
「……すみません。
グシャグシャになっちゃいましたよね」
一頻り泣き叫んだ
どうやら、一旦は落ち着いたらしい。
「……別に。
これ
彼女は、名誉の負傷とでも言いた
その姿を見て、
「……飲みましょうか!
「調子が戻って来たわね。
「ちょっとぉ!
私の専売特許まで、奪わないでくださいよぉ!」
あはは、と心から笑う
その姿を見て、
同時に、思った。このままでは、いけないと。
「
ねぇ、ねぇねぇ、どうだったんですかぁ?」
「いきなり攻めるわねぇ……。
まぁ……普通よ」
「きゃー♪
照れちゃってー♪
じゃあ、じゃあ! 正直、上手かったんですか?
それとも、逆? それはそれでオツですけど♪」
「サンプルセレクションバイアスって、知ってるかしら?
要は、聞く相手を間違えてるわ。
「じゃあ、次の質問!
どこまで行ったんですか?」
「プライバシー保護精神に則り、黙秘を貫かせて
それより、
夜は長いんだから」
「はーい♪
じゃあ、このまま、寝ずに恋バナしちゃいましょー♪
「……あなた、仮にも恋敵を相手に、
あと、
こんな調子で、
翌日。
※
かくして、図らずも同じタイミングで、互いに関係を見つめ直す
二人の思いが結実するターニングポイント……メインイベントは、迫りつつあった。
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