Task.8「格好良い彼女を止めるには」
「待てって!
店を出て数分後。
「……
あんたまで不在になって、どうするのよ。
どういう
「もう謝罪は済ませて来た。
それより……あんたに、聞きたい
年甲斐も
しかし、
「あんただろ?
一万円の不足、埋め合わせしたの。
そっちこそ、どういう
「っ!」
予想外の質問だったらしい。
が、
「……
「
とっくにネタは上がってんだ。
他のスタッフにもバレてる。
さぁ……大人しく、白状して
退路が断たれたのを悟り、
「……どうもこうも
この方が、円滑に回る。ただ、それだけよ」
あぁ……まただ。また、この疎外感。
目で、腕で、体全体で、主張されてる。
お前には関係ない、引っ込んでろって。
「あんたの身を削ってまで、回されたくねんだよ」
「でも、現にそうなったわ。
お
お客様にも迷惑がかからない。
相変わらず、屁理屈を武器にする
対する
不意に、
まるで、こんな
「
いつも……いつも、いつも!
「決まってるわ。
感情なんて、仕事には
情に流されても、
本心を偽る、守る
「
直情的になっても、
悪い
「だからって!
「そこで隙を見せた結果、遅かれ早かれ、業務中まで公私混同するのがオチよ。
そもそも
休憩ってのは、
そんな
そもそも」
ギロッと、
「あんただって、同じじゃない。
あんた個人の意見は、どこに
「……っ!!」
図星だった。
確かに
効率重視を意識した結果、それらしい
そこに来て、
「別に、悪い
ただ……イング形で
ぐうの音も出ない
今の自分には、彼女を止める資格など、
論破され、
そんな彼の前で、
「手間取らせたわね。
だから、お願い、
早く、帰って。
これ以上……あんたを、嫌わせないで」
「あ……」
離れて行く。
手に届く距離に
自分が、不甲斐ないばっかりに。
諦念に押し潰され、覆い隠され、崩れ落ちそうになる
違う。
こんなんじゃ、あの人には届かない。
通じない、叶わない、てんで足りない。
それ以前に、俺が……。
俺が、彼女に言いたいのは……!
「
あんたはっ!!」
離れる一方だった
そんな彼女の背中に向け、
プライドも、大義名分も、世間体も、
「そうだよ、間違ってんよ!
仮にもあんたを止めに、注意しに来た立場である
あんたが今、
でも、
そう。今、
スマートでいて不器用。頭が
クールでストイック。純粋で仲間思い。守銭奴の
そんな大人の姿に、どうして心を打たれずに、憧れずにいられよう。
どうして、恋い焦がれずにいられよう。
「あんた、俺を
タメなのに偉そうに説教垂れる俺を、
田舎者の
だから理論武装して、自分の正しさを、強さを証明し、叩き付けたいだけなんだろ!?
だったら、そうしろよ! こちとら、望む所だ!
俺は正攻法、正々堂々とした真剣勝負以外、断固拒否、不認可だ!
こんなチート紛いなやり口でのポイント稼ぎなんざ、してんじゃねぇ!
頼むからよ! もっと普通に、戦ってくれよ!
じゃなきゃ、男として、先輩として、大人として、元師匠として、タメとして、戦友として、競争相手として、ライバルとしての、俺の立場が
感極まった
しかし、
「……
それまで
彼女は、
「
みっともないったらありゃしないわね。
そもそも、女性に対して『
大体、
「〜っ!!
す、好きで泣いてんじゃねぇ!!」
「あら?
「思い上がんなっ! んなんじゃ断じてねぇ!
誰の
「あんたでしょ。
離した
「……
あんたも一緒に来なさい。
部外者の身で
「部外者は
つか、どこに?」
「百聞は一見に
黙って付いて来さえすれば
とっとと行くわよ」
「けっ。偉っそーに。
分ぁったよ。行きゃぁ
こんな調子で、足を進めつつも、いつも通り喧嘩を始める二人。
その雰囲気は、ピリピリした
※
「すみません。遅くなりました。
ちょっと、予期せぬトラブルがあって」
「いえいえ。
ご連絡、ご足労頂き、感謝致します」
「こちらこそ。
して、
「滞り
「黒だった。という
「ええ。お
こちらにどうぞ。ご案内致します」
「畏まりました。
ありがとうございます」
「……」
目の前で実にスムーズに繰り広げられる警察官と同僚のやり取りに、
ところで、今更ながら
こんな性格、口調でありながら、ご厄介になる
「
行くわよ」
「お?
お、おう」
やがて二人は、取調室に辿り着いた。
そこには、何人かの警察官、そして明らかに未成年と
その現場を見ても、
「
この坊や達が、
「は?」
「だ、か、ら。
痴漢に万引き、器物損害に盗難、悪戯電話にラベル張り替え、セクハラ電話にトイレ
そして
証拠なら、もう上がってるわ。
で、警察の方々にご協力頂いて、洗いざらい自供させた所」
「……は?」
対する
「あんた達、いつぞやアダルトコーナーに
で、それの腹いせ、資金稼ぎが目的で、寄ってたかって、あんな
こっちは、あんた達を確実に一網打尽にする
バレるかバレないかの
あんた達を追い詰めた探偵くんも大層、嘆いていたわ。『
可哀想な坊や達。ゲームしたいんだったら、これからは
まぁ……坊や達はもう、社会的にも精神的にも、そんなくっだらない
田舎って、不便よねぇ。ちょっとでも悪評が生まれれば、SNSなんて目じゃないレベルで、
これから社会復帰するのは大変だろうけど、自業自得よね。何十年もかけて甘んじて、受けなさい。
もし
「……」
田舎の中古本屋なんぞに、収まるレベルじゃない。
その認識は、間違っていなかった。彼女と自分は、生まれて来た場所も、育って来た環境も、働いて来た世界も違う。
何もかもが、自分とは異質、別次元なのだと。
同じ
少年達は、謝罪する気力も、泣いて縋る
※
「あーん。
お帰りなさい、
無事に戻ってきてくれてママ、
計画遂行の
もう二度と放さないからねぇ」
そんな
……いや。鼻歌混じりに札束ビンタをしている辺り、戻し切れてはいない
というか。
「おい……それ、弁償金……」
「違うわ。謝礼の方よ。
そっちはきちんと、取られたり台無しにされた分の費用に回すわよ」
「だと、
「ところでこれ、高値で売れないかしら?
そうね……三十路の口付け金とか、どう?」
「君の名○みたいな
てか、手放さないったろーが!」
「……倍になって帰って来るのなら、願ったり叶ったりじゃない?」
「踏み留まれよ!
じゃなくって!」
いつも通り入れなさそうだったので、
「あんた……いつから気付いてたってか、仕込んでた?」
「ん?
最初からに決まってるでしょ?
目深帽なんか被ってれば、『犯人は自分だ』って自己主張してる
「じゃあ、
ひー、ふー、みー……と数え直しつつ、されど歩みを止めない
彼女は、札束を丁寧に札束(チェーン付きな辺りお手製らしい)に入れポケットに忍ばせ、
余談だが、よもや彼女は、お金を引き下ろす度に、このルーティーンを行っているのだろうか。
「別に、変なこっちゃないわよ。
「本当は?」
「えー、だって、だってぇ。
久しく味わってなかった、一攫千金欲を、一時的にでも消化したくってぇ。
内、安月給なのが難点よねぇ。まぁその分、
「どっちも、んなこったろーと思ったわ!
あんた、どんだけお金にご執心なんだよっ!? 周囲の迷惑も考えろっ!!」
「連中があそこまで豆腐メンタルで陰湿だなんて、計算外だったのよ。
まさか、他のイレギュラーも、坊や
てっきり、別の犯罪者とばかり思ってたもの。
あと、
「あー、そうかよっ! 良心の
てか、そんなんだったら、銀行なりATMなりで一気に落としゃあ
「
愛しい我が子を狙う不埒な輩が何匹、蔓延ってる
ATMも同様よ。
「……一応、確認だけど。
そいつ、性別は?」
「女よ? 中身に相応して外見まで浅ましい、フリュ○みたいな芋虫女。
しかも、面白い
エリ○
あの時は、快感だったわぁ。あの盗人の、色んな羞恥心と絶望で満ちた声を聞いた瞬間、溢れそうになった唾液を抑えながら従業員を呼ぶのに、苦労したわぁ」
「……」
こいつにとっての敵は、男だけには留まらないのか。
そう、
そして、改めて
是が非でも、全財産を賭してでも。こいつだけは、
「しっかし、残念だったわぁ。
結局、今日、行方不明になった諭吉ちゃんは、坊や達とは無関係だったとはね……」
「ん?
あー、忘れてた。
それなら、
実にあっさり、容易く、とんでもない
瞬間、彼は思った。後にも先にも、
いや……ともすれば、自分だけかもしれない、と。
「……どこに?」
「ドロワーの下。
だから、あんたを呼び止めに向かったってのに。
あんたもあんただよ。普段、慎重派なんだから、こういう時も、もうちと冷静に、状況なり周辺なりチェックしろよ。
泥臭いのぁ
いつもの
が、ふと
「はっ……
え? じゃあ、
この
認めない……断じて、認めない……。こんなの、
グッバイ軍配とか、冗談じゃないわ……。
「す、
漢字、違うぞ?
あと、色々と弱そうだぞ?」
「そもそも、
裏を取らなきゃ
そうよ……。全部、あんたの
「や、
ほ、ほらぁ、あれだろ? 諭吉の
そういう紛らわしい言い方は、控えてくれないとぉ。ただでさえ俺、人相悪いんだし、さぁ……。
てか、あれだ。だったら最初から、近くの探偵とかに済ませとけば
「少しは頭使え……こんな田舎に優秀な、信頼の置ける密偵なんて、
仮に
あんた、脳味噌ノーマルなの……?」
「普段ならそれで満足するんだが、今の流れからして中々に不当だなぁ……。
高望みはしないから、せめてSR《エスレア》
依然として横でブツブツと呪詛を唱える
どうしろってんだよ……てか、どうすりゃ
そうして二人は、露骨に怪しい
※
井出、戸松、端山。
井戸端トリオと呼ばれる、【
そんな三人に誘われ、休憩中にも
「あ、あの……。
身に覚えが
一方、井戸端トリオは無言で、
詮無いので、
「……お金」
「え?
え、ええ……。
「そうじゃないわ」
「どこに
どうやら、怒っている
胸を撫で下ろした
「……ドロワーの下、と」
「はぁ……」
「やっぱりねぇ……」
「そんな
あの
「不憫……。
報われないにも
「そりゃ、『
あの子、あんまりにも自分を、
「しかも、無自覚で、
「
要領を得ないやり取り。
「あれね?
ゴミ箱から発掘したの」
「……は?」
ようとしたら、先にネタバラシされた。
「しかも、レジ下だけじゃないわ。
加工台や買取台の下、バックヤードやパソコンルーム、店中の
無論、後処理に困らない
「あの子ったら、本当に信じられないわ。
「しかも、指の感覚だけで探り当てるだなんて。
慣れたものよねぇ、
「それにしても、まさかパソコンルームだったとはねぇ。
両替のチェックをしている時に落としたのかしらねぇ」
「
これ以上、
勝手に話し始め、勝手に落とす井戸端トリオ。
お
「……
このまま放っておいても脱線するだけだと察し、自分から真意を問う
そんな彼女に、奥様方は
「あなたに、教えたかったからよ。
無駄じゃないお喋りだって、
「
無駄口を叩くなとか、口答えするなとか、そういうの言われ続けてたのよね?
それこそ、田舎から出ていない私達には、想像も及ばない
「……大変ではありましたね」
事実なので、臆面も
そんな小生意気な
「安心なさい。
内は、このご時世に
「だから、無理強いはしないけど、なるべく休憩は一緒に過ごして
丁度あなたが、家族と一緒に食事を取るのと、同じ
「私達も、あなたの
あなたの好きな物、好きな
あなたと、もっと仲良くなりたいのよ」
「そうそう。
気心が知れていた方が、コミュニケーションも取り
「別に、スマホをポチポチしながらでも一向に構わないわ。
今時、それくらい普通だし、その程度で目くじら立てる
「ここには、
あの子、ほぼ毎日、非番の日だって、差し入れてくれるのよ。
まぁ私達も、お駄賃なりでお返ししてるけどね」
「
「早く素敵な貰い手が現れると
「ほら。
やっぱり、あれよ。
私達が、あの子のお見合い相手を探しましょう」
「でも前、断られたじゃない」
「今度は水面下で、バレない
「じゃあドラマ部分は私に任せて
きっちりシナリオを作り上げてみせるわ」
「
井出さん、昼ドラ好きなんだもの。
「戸松さんだって、イヤミス好きじゃない」
「……」
案の
いつの間にか、すっかり井戸端会議にシフトしてあるトリオ。
しかし、
「……聞かせてください」
スマホを片手に、
「あいつの弱味を握るのに、打って付けです」
それを受け、奥様方の話は更にヒートアップ。
この日から、
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