Task.6「恋人同士を見極めろ」
「
元気そうで安心したわ、ソラ」
「そっちも、元気そうでホッとした。
でも、どうして連絡くれなかったの?」
「
あんたには、取り分け」
「別に、気にしなくて
恥ずかしい所なんて、
「……それもそうね。
「そうだよ。
もっと頼ってよ。
じゃなきゃ、心配させられっ放しじゃない」
「……分かったわよ。
次からは、そうするわ」
「ん。そうして」
「「……」」
おいおい……と、
こんなん、いつ、誰が、誰と、どこで、どのように、何度、
「参ったぜ……。
まさか、あそこまでとは……」
「ああ、
お
「そりゃ、そんだけペンを
てか、妙な
「
一縷の望みを託し、カフェ・
それも、カウンターではなく、テーブル席に。
どうやら、
にしても……
輪をかけて、カップルっぽいではないか。
お
「……ソラ……。
……
物欲し
それを視界に入れた瞬間、自分に向けられている
最初はストーリー、漫画仕立てにする
その光景は、紛う
全王様もオッタマゲである。
「……どうぞ」
ソラとやらは、甘く、丁寧、簡潔に返し。
あろうことが、
「……っ!?」
思わず叫びそうになった口を抑え、息を整える
どちらかというと、
視線を向け、ギョッとした。
漫画だ。
未だに鞄とイチャイチャ中の
その
しかも、同時並行で左手で、負けず劣らずの早さ、上手さでスチルまで描き続けている。
極めつけに本人、気もそぞろで、手元も原稿も
これなら、イラスト一本で食べてけるってのも頷けるわ……。
と、そんな
それはそれとして、一緒に
「……じゃあ……。
ちょっと、借りる……」
かと思えば、今度は
あの
自分から、彼の肩に頭を乗せ、目を閉じた、寝始めたではないか。
それはもう、恋人同士の象徴、俗に言う肩ズンではないか。
「……っ!!」
思わぬ不意打ち、
それでいてペンタブ二刀流は健在、
気絶してるのかどうか怪しいレベルである。
真っ白に燃え尽きつつある
最早、関わり合いになりたくないのは
「それで?」
「
そこのお二方」
「……っ!!
な、
「あれだけ見られていれば、
それより、ちょっと語りませんか?
あ……すみません。申し訳ありませんが、こちらまで来てはくださいませんか?
僕が動いたら、姉さんが起きてしまう」
「ね……姉さん?」
思わぬ呼び方に、疑問を抱く
確か彼女は、姉しか
などと記憶を詮索、
「義弟?
幼馴染?
いや……もしかして、隠し子? 腹違いの弟? 実弟?
想像が……アイデアの湯水が、間欠泉が止まらないぃ……」
「
上から手刀をお見舞い。
今度こそ気絶させ、上書き保存し電源を落としたペンタブ二台を鞄に入れ、放置。
そのまま単身、
「待たせて悪かった。
俺は、
そこの居眠り
「ご丁寧に、ありがとうございます。
姉さんの幼馴染で、タメです。
以後、お見知り置きを」
笑顔と共に手袋を外し、手を差し出すソラ改め
礼儀正しい対応を受け
「思った通り、お優しい方ですね」
「買い被りはよしてくれ。
見ての通り、がらっぱちだ」
「そんな
素朴であるが
それに」
「ん?」
「ただの野蛮人と、姉さんが交友を持つとは到底、思えません」
「お……おう……。
そか……」
やはり、幼馴染というだけある、という
そう自分に命じ
「そっちは、
詳しい
彼女を追い掛けて、数少ない情報を頼りに、こっちまで来たんだとさ」
「そうでしたか。
では、姉さんの恩人という
「かもなぁ。
出会ったのは昨晩で、きちんと話したのは数時間前なんで、そんなに知らんがな」
「その割には
「
大家族の長男坊でな。子供の扱いには慣れてんだ。
「なるほど。
年季が違うと?」
「まぁ、そういうこったな。
ところで、その、
ほらぁ、あれだ……口調とか、さぁ……」
「すみません。
昔からの
お気になさらず」
「お、おう……」
物腰の柔らかさに反した、固い意思。
そんな感想を抱きつつ、話のネタに困り、
「ところで」
「お?」
「姉さんとは、お付き合いを?」
「ぐっ!」
思わぬ攻撃に、身構える
が、
「そういうあんた」
「
「じゃあ、
俺の
で、それは置いといてだ。あんたこそ、
呼び捨てで
とでも言いたげな、
「
「それは……。
好き同士……とは違う、のか?」
「似て非なります。
姉さんは、
荒々しい感情を、
昔から、そうだったんですよ。年は同じなのに、自分の方が先に産まれたからって、大人振るんです。
弟以上の、以外の存在に、彼女にとっての
でも、叶わなかった。勉強でも、運動でも、それ以外の
そんな
まぁお
「
けれど、それでも分かる。男として、彼女に惹かれる者として。
「今日一日中、笑顔で、あなたの話を聞かされました。
それはもう、耳タコってレベルで。
あなたは最初から、姉さんにツッコんでいたらしいですね。
それからも、
羨ましい限りですよ。
こうして休んでいる時以外は、隙の一つも見せてくれないので」
「俺から言わせりゃ、あんたの方が
「他の誰かにとっては、そうかもしれません。
けど……姉さんに限っては、その範疇ではない。
頑張り屋で、無理しぃで、意地っ張りで、口下手で、不器用で。
そんな姉さんのパートナーとして
残念ながら、僕は『動』までは導けなかった。受け止め、受け入れる
これを聞いて、
あなたには、
「……俺には……」
握り拳を作り、左手で右の手首を掴み、
「俺には、それしか
口を開けば、いつだって言い争ってばっか、コントを開かされてばっかだ。
あんたみたいな、静かなパターン……俺のが、憧れるよ」
それでいて
この、得体の知れない、胸を焦がす、突き動かす、高鳴らせる、打ち付ける、初めての感情の正体を。
「だったら。
これから探求し、生み出せば
たった一言。
それで
彼の心の闇を、あっさりと振り払ってしまった。
「コーヒーと同じです。
時間をかけて吟味、焙煎、ブレンド、粉砕、暖め、冷やし、抽出し。
そうして完成した心が、生半可、紛い物である
コースターにカップを置き、正面切って、
「あなたはまだ、姉さん……
当然の反応です。僕もまた、今は
けど……申し訳ないが、僕はまだ、彼女を
彼女にとって運命の、最高の相手が見付かる、見極めるまでは」
「あんた……」
それまでフワフワした、ナヨッとした印象を受けた好青年が、ここに来て
二人には悪いが、これは男同士、男だけの聖戦、決闘だ。
「
これから僕は、全速力で、一直線で、彼女との差を縮めます。
あなたにも、それを願います。……いいえ。
あなたにも、そうなって頂きます。
彼女の力に、
案の
と、
とんでもない強者、
だが、そんなライバルの登場を、
お
「……宣戦布告。
そう受け取って
蛍都」
先手必勝と言わんばかりに
「是非、そうしてください。
《《
「へっ……上等」
今度は
こうして二人は、先程とはまるで異なる趣旨の、握手を交わした。
「ん……んっ……」
ふと、
起こしてしまったか……と一瞬、思ったが、どうやら
要は、
ホッ……としたのも束の間、はたと二人は
もし今、この状況、状態で、どちらかの名前でも口にしようものなら……それは、
互いに目を合わせ、
静寂に包まれる中、やがて、そこから放たれたのは。
「あ、つ……」
無言で拳を突き上げ、静かに涙を流し、口パクで叫ぶ
一方の
「何してるの?
二人して」
男達が子供っぽい心理戦を繰り広げる中、
「
ちょっと、こちらに」
続いて不意に、
言われた通りにした
「お、おい?」
「今回は
ところで
彼女の、幼馴染です」
「幼馴染……て、
「ええ。
あなたの好奇心、創作意欲を刺激する
立ち話も
「乗った」
と、いとも
その原因である
「慣れてんなぁ……」
そう取りつつも、やや面食らう
そんな彼のスマホに、タイムリーにメッセージが入る。
「PS
寝起きの彼女は甘え上戸になります
送り狼にならない
あと、スタッフに頼み、今回はサービス扱いにして
「ねぇよ……。
てか、いつの間にID知ったんだよ……」
底知れない手際の良さにツッコんでいると、唐突に
「……あっつ……」
と、コートのボタンを外す。
どうやら先程のは、
「……」
これは……不戦勝、以下なのではなかろうか……。
いや……でも、ここで素直に伝えた
「あれぇ?
あははっ。
ソラが
などと悶々としていたら、普段のイメージが
これは最早、『甘え上戸』というより、『甘えん坊』の間違いなのではなかろうか……。と、
「違ぇよ、本物だ。
それより、そろそろ帰んぞ?」
「はーい」
呂律も頭も回らないながらも、素直に従う
安心しつつも、これは進展も
そんな引率の先生に、
「……おんぶ」
と、
「いや……
「……おんぶ」
「
「……おんぶ」
「俺よか、あんたの方が、色々とダメージが……」
どうにか説得を試みるも、今の
終いには、愚図りそうになる。
両腕を胸の前に構え、目を潤ませ、鼻をヒクヒク言わせ始める。
どうやら、
最後の悪足掻きに、
「……今回だけな」
「わーい♪」
心から喜んでいるらしく、
ガテン系の
「しっかり捕まってろよ。
このまま、一気に帰っぞ」
「マシン・アツッシー、
「せめて、もうちょい
「ニエタクシー、
「あんた
だったら、後で承知しないかんな?」
そんなこんなありつつも、ニエタクシーは言われるままに店を出、
その道中、
※
「ぜぇ……ぜぇ……」
数分後。
当然である。
しかも案の
肉体的にも精神的にも、コンディションは最悪である。
せめて足に包帯巻いて、満足に歩けない的な雰囲気を演出しておくべきだっただろうか……。
などと
「……ねぇ、
普段には及ばないまでも、高校生レベルの受け答えは可能になった
そんな彼女に、
「……
気が紛れる面白い話でもしてくれんのか?」
そんな彼の首に、
しまった。
てか今、呼吸まで怪しくなったら、
そんな
「……ごめん」
と、
構えていた
「……
「昨日から、
「んなもん、初対面の時点から、変わらずだろ?」
「そうじゃなくって……。
それ以上に、以外に。あんたに、塩対応してた……。
その声は、いつになく優しかった。
「……そういうの、
あんたは、そういう
いつも、どんな時でも。
それが、あんたのスタイル、スタンダードだ。
俺が鼻持ちならない、困らされて、振り回されてばっかの。それ以上に憧れる、強くて
だから」
「こんな
あんたはなぁ、
ドシッと、ビシッと、ピシッと! いつだって、そうやって、偉そうに構えててくれや。
じゃねぇと、そのぉ、
迷惑、とまでは言わねぇし、断じて思っちゃあいねぇがなぁ……いつにも増して、戸惑っちまうんだよ」
それを受け、
「あんたって……真性のMよね」
「知っか。
だとすりゃあ、あんたは筋金入りのドSだろうが」
「スマート、スペシャル、スタイリッシュ。
果たして、どれの
「サタン
気付けば、すっかり日常会話に戻っている二人。
こうしている間に、二人とも、羞恥心なんて吹き飛んでしまった。
考えてみれば、当たり前だった。自分達は常日頃、体裁の悪い喧嘩ばかりしているのだから。
別に、今に始まった
「なぁ、
今朝までは無理だった。今だからこそ、言えるけどよぉ。
あんた、
そりゃあそうだ。俺だって正直、恥ずかしいわ」
「……正解よ。
その
「おう。
速攻で仲良くなったわ」
「……人の
あんただって充分、コミュ強じゃない」
「どうだろうなぁ。
類友ってだけじゃね?
あんたの周りに、善人しか
「当然よ。
「しゃしゃんな」
「いつだって、
あんたは、こういう
「だぁぁぁぁぁ!
「『綺麗』だなんて、
てか、
だったら、二言なんて情けない
「狭義的にも性別的にも、
てか、顎撫でんな! ビクッとするわ!」
「『ゾクゾクする』の間違いでしょ?
素直になりなさいよ」
「あんたがな!?
てか、その、あれだ……押し付けんなぁ!?」
「当ててんのよ。
てか、男だったら、これ
「その
こんな感じで、
かと思えば、今度は
「……ねぇ。
やっぱり、言わせて
……ごめんなさい。
しかし、
「断っておくけれど。
これは、無駄打ちでも、安売りでもない。
有意義で、必要な
予想的中。
やはり、
「……そか。
んじゃあ、こっちも、ありがたく受け取っとくわ」
「……ええ。
ところで、
そろそろ、降ろしても良くないかしら?
「そっちを先に言えやぁ!?」
「……こういう時は、男性を立てるべきなのでは、と……」
「気遣われずとも、
色んな意味で!」
自分は、自分達は、シリアス向きではないのだと。
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