Task.3「擬態の新人への個別ガイダンス」
かと思えば、
「……?」
不思議がりつつも、ドアを開けようと試みる
しかし、ノブが動かない。反対側から、
「違うわ。
貸して」
「お?
おう……」
露骨に億劫がりながら、名乗り出た
瞬間、
「ナッちゅぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁんぅっ!!
マイ・スウィート・シスタァァァァァッ!!」
飛び込んで来た姉の顔面を、持ち上げたキャリー・ケースで、
「へぶっ!?」
そのまま、黙らせる
「さぁ、
どうぞ、上がってぇ」
「お……押忍……」
どうやら日常茶飯事らしい。
この家に厄介になる以上、早く慣れねぇと……。そう、
「そう言えば、父さんは?」
「今日も仕事ちゃんですってぇ。
まぁ、残業代ちゃんはきちんと出るらしいけどぉ。
「別に良いわよ。
そんな事で
それに、
「えぇっ!?
ナッちゃん、またどっか行っちゃうのぉっ!?」
首にキャリー・ケースを巻いたまま、キッチンに駆け込む
いや、取れよ。と
「言ったでしょ?
『あんたが
「えー?
ちゃんと、ガッポリ
「そうね。FXとパチンコ、宝くじでね。
どう考えても
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!
オルタ、出たぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を浴びつつ、
あんなのが月収◯◯○万だなどと、誰が信じようか。
それも持ち前の、愛が
しかも、それだけの莫大な予算を、ほぼほぼオタ活に費やしているなど。
「な、なぁ……
「見ての通り、でまかせ、気任せ、運任せよ。
あの子、とんでもない強運の持ち主なの。
ガチャろうものなら、無償石だけで、十連一回ぽっきりで、推しUR
それはもう、サ
その気なら、あんたも懐柔してみれば? 上手くプレゼンして興味持たせられたら、物欲センサーに引っかからず、あんたの推しも一発で当ててくれるかもしれないわよ。
関心具合によっては、凸れるかどうかは別問題だけど。あの子、グッテ○並みに気紛れだから。
」
「
「こっちが聞きたいわ……」
本当にそう思っているのだろう。
痛くなったのか、
「まぁまぁ。そう、怒らないであげてぇ。
「だったら、父さんも、そろそろ退社すれば良いのに。
「あの人、堅実ちゃんだから。
『少しでも将来、困らない
誰かちゃんと一緒ねぇ」
「ちょっと何を言ってるんだか分からないわね」
「で、で!?
ナッちゃん、
いつの間にか戻って来た
「伊達さん」
とだけ、呟いた。
最初は「?」という顔をした
「セレブッ!?」の一言と共に、ガクッと気絶した。
「別に、大した事無いわ。
ベリー・イージー過ぎて」
「えと……つまりは、
「一億です……」
「あら、まぁ。
相変わらず、仕事ちゃん出来るわねぇ。
我が娘ちゃんながら、恐れ入るわ」
「そうは言いつつも、まるで動じてねぇ!?」
「問題無い
定期的に連絡は入れてたし、お盆や正月には帰って来てたじゃない」
「そうね。
『仕事、変えた』
『一ヶ月で営業成績トップになった』
『気を
『仕事、変えた』。
そんな、業務連絡ちゃんだけね」
「うっ……」
そう。
普段は出来る女を
そんな彼女に
「変わらないわねぇ。
そういう所」
「……
「
「……知ってる」
バック・ハグをする母により首に巻かれた両手に優しく触れながら、
「ねぇ、ねぇ!
ツヅは、ツヅはー!?」
「
もう少し、頑張りましょうね?」
「えぇっ、
どちゃ
「そう思うなら、もう少し、お金を大事に使いなさいよ。
どのゲームでも、
「な、何で、それをぉっ!?」
「あんたがフレ申して来たからでしょうが。勝手に。
あれ確実に、敵作ってるわよ。
あんたも、きちんと
同じ推しのレベマだけでメインとサポートにセットしてデッキ組んだりして、見せびらかすから」
「え~。
逆ハーの
「
「チビじゃないもんっ!
合法ロリな童顔巨乳だもんっ!」
「身長と性格が子供なのは変わらないでしょが」
「……ねぇ。
お願いちゃんだからあなたちゃん達、もう少しママにも分かる
「今度から俺、フォローします……」
非オタらしく、やや疎外感を覚えていた母。
その背中に、仕事を追加された
「ママもやろっ♪
「あんただけよ。
そんな、メーカーからすれば迷惑千万以外の何物でもない離れ
あと母さん、
ソースは、あたし」
「そうそう。
ツヅへのジェラスィーで、ナッちゃんも
って、えぇぇぇぇぇっ!?
「
あんたが、人の
昔からそうよ。マーク試験や選択問題なら確実に適当で当てるし、筆記試験でもテスト前の数分で山を当てて赤点を
「え……えと……。
ナッちゃんが家を出たのって、もしかして……」
「ヘラヘラしつつ、最速で
言わせんじゃないわよぉっ!!」
「失礼な!
せめて筋肉付けろぉっ!!」
「
「ちょっ……!? お腹は、駄目っ!!
らめぇぇぇぇぇっ!!」
「あ、あはは……。
相変わらず、
「……」
苦笑いしている母の隣で、
俺はこんな、
※
「ふーん。
大変そうだね」
「ザ・他人事みてぇに言わねぇでくれ、
自宅から改めて持って来た荷物の運搬を終え、簡単に部屋を整理し終えたタイミングで、
あの三人に巻き込まれた
なお、
余談だが、隣の部屋では現在、
「それより、
気持ちはわかるけど、ちゃんと皆に説明すべきだったんじゃないかなぁ?
私はともかく年少組は、一緒にご飯するー、
「そ、それは
オーケー
てか、だったら
「目の前でやったら、本人達が気にするからだよ。
「なぁ、
頼むから、お前まで俺を困らせないでくれねぇか……?」
「
「だからぁ……。
悪かったって……」
「で?
これから、ご飯?」
どうやら
「そうだなぁ。
まぁ、そろそろ取り掛からねぇと、
「確かに。
で、
「分ぁってるよ。
っても、向こうも中々の
けど、まぁ……それだけが、お役御免になる
「あんまり遅くなったら、もう
ただでさえ私も、もう少しで
「……ちゃんと把握してる。
だから、
やっとこさ、結婚まで漕ぎ着けそうなんだからな。
こっちの
「今、家に
「お前実は結構ってか未だに根に持ってんだろ、そうなんだろ?」
前言撤回。やはり、まだ不服らしい。
「てかさぁ、
「
「だってさぁ。
同僚とはいえ、家族同伴とはいえ、同い年の美女と一つ屋根の下でしょ?
「
そもそも、向こうは俺の
「それはそうだろうけどさぁ」
「……少しは迷ったり、考えたり、否定したりしてくれても
「大丈夫。
私は、私だけは、
「フォローになってねぇ……」
「相手が
素直に
「お前、くっ付けたいのか引き離したいのか、どっちなの?
磁石理論、
どうやら、面倒な地雷を踏んでしまったらしい。
どう解体したもんか……と
それは昨日、フレンド登録したばかりの物……つまりは、
「……は?」
「……
「なぁ、
もし俺から身を引いたとしても、向こうから迫って来た場合……どうすれば
「
「夢じゃないんだって……寝惚けてないんだって……。
頼むから、話を聞いてくれよぉ……」
「あー……」と呻きながら思案に困り、だらんと手を垂らす
彼が持つスマホには、依然としてチカチカと、彼の頭と心を惑わせる、
「お疲れ。
今、バッファある?
ちょっと、付き合って
※
木の意匠により
オープンしたてとは思えない、まるでタイムスリップでもしたかの
真空管アンプから奏でられる、音量的にも雰囲気的にも会話の妨げにならない、ジャズ。
駅に併設してあり
クリームソーダやホットケーキなど、意図的なメニュー。
普段さほど嗜まない自分でも一口で分かる
これが所謂、純喫茶って
そう、
同時に思った。
そして、自分のみならず、ここに足を踏み入れた者は問答無用で、流されるまま、さほど不満は持たないまま、古風な食事をしそうだというのに。そんな中、ただ一人だけ、ひたすらクルトンを食している彼女は、どれだけ肝が座っているのだろうと。
「……
あんたも、食べたいの?」
「ちゃうわ。
そもそも、
メニューに書いてなかっただろ……」
「ここのオーナー、私の知り合いなの。
「裏メニューって
で?」
「
「あんたにしか頼めないからよ」
「な、何を?」
「……」
かと思えば、恥ずかしそうに肩を竦めた。
「……
少しは、頭を使いなさい。気を利かせなさい。
こんな
「〜っ!!」
あ、あれ?
これ、アレじゃね? 完全に、個別ルートじゃね!?
早くない!? あーでも、効率重視した結果とかなら、納得だわ!
などと沸き立ち、一人で舞い上がる
しかし、ここは男らしく、ドッシリ構えなくては。そう自身に言い聞かせ、
「つまり……どういう
そして、
「スタッフを一通り紹介して
あんた以外とは、まだ
「で〜すーよぉね……」
予想通りではあるものの、とんだ肩透かしを食らい、
一方の
「そもそもさぁ……。
それ、
気を取り直した
「当たり前でしょ。
出勤初日前に同僚のデータを
「……社畜の常識、の間違いじゃねーの?
どっちかってーと……」
「え?」
どうやら、本気だったらしい。
「ま、まぁ、でも、
ただ、その、あれだ。そういうのは、一緒に仕事してりゃ自ずと身に付いて行くからよぉ」
「そ、そうね。分かったわ。
となれば次のミッションは、
「んぐぅっ」
いとも容易く放たれたトンデモ発言に、
あ、危ねー……もう少しで、吹き出しちまう所だった……翔太○や輪島のおっちゃ○やベルトさ○じゃねーんだからよぉ……。
などとツッコミつつ、
「えと……
今、なんてった?」
「……?
マニュアルなら一通りマスターした。
「あんたは今まで、どんだけ劣悪な環境に身を置き続けて来たってんだよ……。
そもそも、
「
「な、
だよなぁ……
「一時間あれば余裕だったわ」
「あんた
またしても、底知れぬスペック差を痛感させられる
この場の空気に飲まれていなければ今頃、もっと派手に騒いで啖呵を切っていただろうに。
「あんた……物凄い逸材だったんだなぁ」
「当たり前でしょ。
これでも都会で、最前線で戦ってたのよ?
「そんな
まぁでも、あれだ。この調子なら、間違い
そんだけ有能なら、笑顔の一つや二つ、パッと
「……え?」
「……え」
それにより、
「……
その、『え』は?」
「
「正反対だとは思うよ。
でも、あれだ。あんた、銀行員だったんだろ?」
「『ネット銀行』。つまり、顔は使ってなかった。
他の仕事でも、今まで一度も、ね」
「つまり……」
「……ちょっと? 大分?
「……あんた、客商売舐めてる?
「そんな
下に見てなんて無いわ。お金と一緒に、敬意と謝意も払ってるもの」
「その割には昨日、俺に対して最初からタメ口全開だったよな?」
「不測の事態で引き起こされるイレギュラーには、誰だって陥るし、決して抗えないわよね」
「あんた
あと、遠い
ぼんやりとした瞳で窓の外を眺める
急に触られた
「だったら、立証してやろうじゃない。
その代わり、もし成功したら、あんたに証人になって
「
しっ、しっ、と
我慢の限界だったらしく、
その結果……
「……」
「……そんなに
「……リライ○のドラマに一般公募枠が
「それ
まぁ……要するに、明らかに
「……弱ったわね。
まさか、こんな落とし穴が
「接客業界なら挨拶、アイコンタクト、お辞儀に並んで、初歩中の初歩なんだがな……」
「初歩、多くない……?」
「今まで、それ以上の仕事、偉業を成し遂げといて、何を今更……」
「違うのよ……こんな
ここに来るまでは、
「『やり過ごす』って言ってる時点でアウトじゃねぇか……。
てか、全体的にドライな都会だったからこそ、奇跡的に
あんた、あれだろ? 基礎より応用ばかり重視する、器用貧乏タイプだろ?
ビィ○とか、エクシリ○のエリー○とかと同一種だろ?」
「……
そこまで言うなら、あんたは相応、相当の、さぞかし素敵な、見てる側まで釣られる
「笑顔って言えよ」
「
とっとと披露、お披露目してみせなさいよ」
意趣返しでもするかの
伏し目になっていた彼女が顔を上げた先には、強面を忘れる
最早、勝敗は歴然。火を見るより明らかだった。
「……」
「……そこまで?」
「嘘よ……こんなの、嘘に決まってるわ……。
この
「悪かったなぁ。
これでも俺、あの店で店長に次いで勤続年数の長い、ナンバー2だから。
正社員一歩手前のフリーターだから」
「良く、潰れたりしなかったわね……。
あの店、ヤクザの巣窟、総本山だったりする……?
ダイナ○みたいな……」
「あんた、いっそ清々しいまでに、とことん失礼だな。
逆に感心するわ」
歯に衣着せぬ
「で……実際問題、どうするんだよ?
もし、
「……
「またそうやって、話を反らそうとして」
「そうじゃないわ」
割とシリアスな物言いに、
そのまま体裁を整え、
「……
「
内容から察するに店長、つまり
ただ、今の姿を見られるのは、ちょっと……」
「あー……」
逼迫した状況に追いやられたのを悟り、
確かに、プライドの高い彼女じゃなくても、こんな所を知り合いに見られるのは、さぞ
これまでの流れから察するに、きっと
ここは、
「外の空気でも吸ってなって。
会計ぁ済ませとく」
「お願い……」
貸し借りは主義じゃないと断言していた
それ
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