Task.2「家族とは何か」
仕事を終え、店の外に出た
伸びをしていると、新しくメッセージ・アプリに登録された相手からの入電。
……さては、タイミング見計らってやがったなと、思わず吹き出し、帰路に就きながら通話する。
「おう。お疲れさん。
目的地には着いたかい?」
「お疲れ様。
ええ。お陰様で、辿り着いたわ。
ところで、その件に関して気になる
「いきなりだなぁ。
ほんで? どういったご意見で?」
「
食事とサービスが、タダの割には完璧だった
「喫茶店員の
「二つ目。
お風呂でまで手厚く
「
年頃だからなぁ。あんたみたいな出来る女に憧れてるんだろうぜ。
「三つ目。
子供だからって手加減した、割と自信あるゲームで、返り討ちにあった
「
全員を相手してくれたみたいで、ありがとな」
「身内自慢は結構」
一通り聞き終えたタイミングで、
どうやら、大家族である
「で?
どういう
「そりゃあ、あんたが色々と迂闊だからだろ?」
「戯れないで。
そうじゃなくって。どうして行き先を伏せていたの?」
「一つ目。
ただでさえ借りを作らない主義な上に、異性の間柄でもあるが
「当たり前でしょ。
初めから知ってたら、確実に来なかったわ。
で、二つ目は?」
「
「その心は?」
「一日に三回、たった三十分ぽっちの休憩が惜しかったから。
スマホ弄ったり飯食べてるんならともかく、悩んだり立ち話してるのは、時間が勿体無い」
「……今、初めて、心の底から、あんたに同意した」
「そいつぁ結構な
フフッと、向こうから小さな笑い声が届いた。
どうやら、未だに示しつつあった難色も、やっと消えたらしい。
「安心しろ。誓って、手なんざ出しゃぁしねぇ。
不安、不満だってんなら、指一本触れねぇし、それでも足りねんなら、手錠までなら我慢する。
俺ぁただ、あんたを一晩、守りてぇだけだからな」
「そこまで求めないし、それはそれでどうなのよ」
「嫁入り前に預かってんだ。
それ
「あんたって、
「褒め言葉として受け取っとくわ。
それより、そろそろ休んだらどうだ?
まぁ、お世辞にもスイートたぁ言えねぇんで、あんたに釣り合ってるかどうかぁ知らんがな」
「どうやら、仕事よりも前に、
「今のは皮肉だよ。
んなもん休憩中に、木っ端微塵に崩れ去ったわ」
「あら、そう?
では是非、今の率直な、忌憚ない印象をお教え頂きたいわね。
必要とあらば、拳で語り合うのも辞さないわ」
「……もっと平和的に解決しようぜ? 頼むから」
「腕に覚えが
「
そういうんじゃなくってよぉ……。
男が女に手ぇ上げるのは不味ぃだろ。手を差し伸べるならともかく」
「あら。見かけと言動に寄らず、紳士なのね」
こんな調子で、
傍から見れば、その
こうしてダラダラ、グダグダと
※
「んじゃ、
「ええ。
おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
就寝前の挨拶を済ませ、電話を切り。
そのまま
「ふぅ……」
気付けば
業務絡み以外で誰か、それも異性と長話に耽るなんて、いつ
まぁ自分は、男勝りの性格や、中性的な外見の
「と……」
などと思っていたら、自分の体に、
要は、大自然に呼ばれたのである。
仕方無いので、
「……ん?」
用足しを済ませ戻っていると、
確か、
「……どうかした?
あなたも、お手洗いかしら?」
目線を合わせ
「……し……」
「うん?」
良く聞き取れず、困惑する
そのまま持て余しいると、
……囁きたい、という
「……これで
指示通り、
ずっと気になっていた、けれど誰も意図的に触れなかった真実を、ここに来て
※
「たーだいまぁっと」
寝静まった我が家に帰還する
そのまま、家族と来客を起こさぬ
「おわぁっ!?
……て」
大声を出し、驚いた拍子に尻餅をつく。
が、冷静になって目を凝らすと、そこに
自室に
「……
てか、眼鏡はどした?」
「外した。
本気の時には、付けない
そもそも、度は入っていない、あくまでもデータ管理用の端末、ただのスマートグラスよ」
「どこの二代目海の勇者だ……。
性格が災いして、宝の持ち腐れしてばっかみてぇだが……」
「そんな
憎まれ口を叩くも、
訝しんでいると、
「お、おい……?」
対する
「……
ただ、彼の名前を呼んだだけ。
が、その少ない情報で、
「……
それとも、
「後者よ。
「気にすると思ってさ。
それを俺に指摘されたら、あんた決まって、『プライドが許さない』とか言うだろ?
だったら、
「
あんたの言う通りよ。確かに、
「だろ? だから俺ぁ」
「……許せる
初対面なのに。まだ同僚ですらないのに。
欠陥だらけ、迷惑かけてばかりだと自覚してるのに、言えなくて。
そんな
許せる
「……」
やっぱり、と
この元バリキャリさんは、単なる高飛車寄り女ではない。
二つの意味で、
「あんた……
「いや……。
俺、あんたの
「……意味が分からないわ。
それより、教えて
「別に、それ
てか、俺だって意図的に伏せて、
「そうは行かないわ。
言った
「んな
「それじゃあ、
「その
おまえに、上からなのか下からなのか、分からねぇなぁ……」
「強いて言うなら、両方ね。
で? 答えを、お聞かせ願おうかしら」
手を離した代わりに顔を近付け、詰め寄る
どうやら、一歩も譲る気は
となれば今、ここで要求する
して……自分は一体、どんな対価を、彼女に支払って
それも、公序良俗、親しき中にも礼儀ありの精神に則り、彼女が納得するだけの得が自分にも
それを、深夜テンション、
これは、相当の無理難題ではなかろうか。
「じゃあよぉ……あんたの
という、当たり障りが
「それが……あんたの、オーダー?
あんたが今、
……そんな
「そんな
悪かったな、みみっちくて。
でもなぁ……それ
言っとくけど、だからって、雑にあしらって
「分かってるわよ。
でも、まぁ……依頼主がそう出るなら。お望み通り、お答えするまでよ」
ああだこうだと
そのまま彼女は、ベテラン感さえ漂わせるスムーズさで、
それはもう、「あれ? 俺いつ、この人と結婚したっけ?」と一瞬、
「名前:
年齢:30
恋人:無し
職業:無し
出身地:宮城県
好物:クルトン
趣味:貯金、節約、ヒトカラ
子供の頃の夢:億万長者
身長:180前後
スリーサイズ」
「もう
大分ヤバい所に触れそうになったので、急いで待ったをかける。
なんてーか……リテラシーどうなってんだ? とツッコむ
「……男って、そこら辺が特に気になるんじゃないの?」
「そうだけどもっ!
そんなん教えられちゃ、これからの接し方とか振る舞い方とか、色々と困んだろがっ!
第一、仕事中に、スタッフに対してそこまで考える
公私混同極まれり!」
「逆効果、って
なるほど……勉強になるわね」
「……」
あんたが物を知らなさ過ぎるだけじゃねぇか……と言いたくなるのを、
一旦、気持ちを落ち着かせ、クールを装う。
「なんてーか、もっとこう……
今までどんな業種だったか、とか。
今でこそ笑い
そんな感じの、程良い距離感とダメージと懐かしさの奴」
「それなら、ピッタリなのが
「おっ。
どんなだ?」
「つい先日の話なのだけれど」
「……あんた、俺の話、
ってのは置いといて、続きは?」
「
鮮度はさておき、どうやら内容自体は適合してるらしい。
そう察して、
「これまで
誰も作った
ただ、時代を先取りし
仕方無いから、その場で退社して、起業しようと誓ったのよ。それだけの勝算、称賛されると見込めるだけの価値が、そのゲームには
「……おぉ……」
期待以上にワクワクする壮大な展開に、
……ただ
「残念ながら、計画が頓挫してしまったわ。
当時の会社に一人、取り分け可愛がってた子が
で、日の目を見る
気付けば、里帰りしてたって
「そいつぁ、その……惜しかったな」
「ええ。実に無念だったわ」
「で?
そのソシャゲってのは、どんなだったんだ?」
「あー……β版なら、
これよ」
エクシリア2のローエ○並のスピードで弄った
それを目の当りにした
「……ナニ? コレ……」
「
『チョッキング』。読んで字の
今は、重課金が主流でしょ? でも
だから、逆に打って出たのよ。このゲームは、ユーザーの過金額ではなく貯金額によってキャラのレベルが上がり、アイテムが
どう? 想像するだけで、ワクワクして来ないかしら?」
「あ、ああ、まぁ……そう、だな?」
リアクションに困り、差し支えない程度に返答する
しかし、彼女が
「で? 貯金額ってのは、どれ
どんだけ貯めれば、最初のボスは倒せるんだ?
やっぱ、妥当な所で千円くらいか?」
「
そんなんじゃ、モチベが続かないじゃない。
負けに負けて、一万よ」
「へ、へー。
じゃあ、次のボスは?」
「十万」
「……その次は?」
「百万」
「……じゃあ、十万のボス倒した
「そんなの、考えてないわ。
詰まらないジョーク、
「……」
どうやら、大多数の現代人にとっては、二体目のボスを突破する
これでは、誰も賛同しないのも
その美貌、財力、親しみ
そんな、残念美人ならぬ、断念美人だと。
「……にしても、
おまけに、目の前に
そう言えば、言っていた。
一億という、田舎の
目の前で呑気に寝ている、所々で
「てか、
あんた、ご飯は?」
「……もう
食欲も気力も失せた」
「そんなに疲れていたの?」
「まぁなぁ……」
どちらかというと、仕事よりも今の方が何倍も、ドッと疲れたのだが、
そんな彼の横で、
「どう?
見合った話は
「あ、ああ……」
「なら良かった。
じゃあ、そろそろお
二回目だけれど、おやすみ、
「おやすみ。
その言葉を最後に、
※
「ほら、
どんどんお食べ! 若いんだから!」
「あ、ありがとうございます……」
「
「え、ええ……」
「ナツ
「頂くわ……」
「
「あ、後でね? 後で、遊びましょう?
ね?」
「
「
はいはい。もう少し、こっちに来て
「……」
気付けば至って普通に溶け込んでいる
やっぱり、何だかんだで愛されキャラだなぁ、と。
「それにしても、
あなた、
長い事、都会に
お抱えのシェフに任命したい
「い、いえー。
今日のは、私じゃなくって……」
そこに
「……何か?」
「べ、別に……
「もっと称賛してくれても
で?
「その鬱陶しい絡みを
「要は
にも
「お?」
強気同士がレスバを繰り広げる中、不意に呼び鈴が鳴る。
予測していたのか、
「付いて来てくれ。
あんたに合わせたい人が
「ナッちゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁんっ!!」
それは
「ふんっ」
「ごえっ!?」
……
「お姉ちゃん、すっげー♪」
「もっとやってー♪」
見事なアクションを唐突に披露した
涌いている小さなファンに大人びた笑みを見せた
「また今度、気が向いたらね。
で、
「それは、こっちの
帰ってるなら、
ツヅの
ツヅの
ツヅの
「……長い。相変わらず。
あと、こうなる
「感動の再会頭の初手ガチ回し蹴りに関しては、スルーなんか……」
「ごめんちゃんくださぁい。
あー、もう、
また
しっかりしなさいよ、お姉ちゃんなんだからぁ。
突然お邪魔ちゃんして、お騒がせちゃんして、すみませぇん」
「いや、そっちが姉なのかよっ!?
てか、のんびり! ちゃん多いっ!」
相変わらず、
その
「あらぁ。
あなたが、
今日は、お招きちゃんくれて、ありがとぉ」
「あーいえ、こちらこそ、ご足労頂き、ありがとうございます。
っても、家の中にまでとは思わなんだですが……」
「私もよぉ。
それより、
いつまでも長居ちゃんしてたら、ご迷惑ちゃんでしょぉ?」
「いや……
「そうだよ、ナッちゃん!
帰ろーよぉ、我が家に! ビバ、カモナ・マイホーム!」
「聞いちゃいねぇ……」
頭を抱える
その瞳には、失望感と猜疑心がチラついていた。
「……あんたが呼んだんだ。
「んな
ただ」
ドカッと胡座を掻き腕を組み、父親の貫禄さえ感じられる雰囲気で、
「……どんな時も、ってのは無理だとしても。
なるべくは、一緒に
家族ってぇのぁ」
願わくば、あと
でも……それは、今すべき
そんな葛藤の
そんな彼の微妙な心境を汲み取り、どこか晴れやかな呆れ顔を、
「
「あんた
「それは
昨日の解決っ
「いんや。
昨日の、金絡みだと
うん、うん。と、母や姉のみならず、一家一丸となった
満面朱を注いだまま、
「な、
「リード代わりよ。
それより、世話になったわね。
とっとと帰るわよ、
「そ、その前に、離して……。
天国に、帰っちゃう……」
「地獄の間違いでしょ、おだづなよ。
そのまま猛省してろ、痴れ者。
首輪じゃないだけ、未だに放し飼いされてるだけ、ありがたいと思え」
「では、失礼ちゃんしますぅ。
お礼ちゃんは後日ちゃん、改めてぇ」
「お、お気遣い
ペースに飲み込まれそうになりながらも、愛想笑いを振りまき手を振る
そうして
「
「……
「そうじゃなくって……」
「……
『地元でも都会でも、主にクルトンしか食べて来なかった』って」
クルトン。焼いたり炒めたり揚げたりしたパンに砂糖をまぶした、おやつ。
昨晩、
という
「せめてカップ麺、惣菜レベルであれよぉ!?」
思っていたより大分低かった食事水準にツッコミつつ、
「
それを、
「
行ってらっしゃい」
家族を代表し、今度こそ心からの笑顔を見せる
「……おうっ!!」
それに後押しされ、家族からの応援を追い風にして、騒がしく忙しく、一直線に全力疾走し、
「
今日ちゃんはママ、ふんぱつちゃんしちゃおうかしらぁ」
「も、もしかして、あれですか!?
焼きクルトン、炒めクルトン、揚げクルトンの揃い踏みですかぁ!?
やったー! これで勝つる!」
「決まりね。
久し振りに手伝うわ、母さん」
「いや、マジにクルトン縛りかよぉっ!!」
その開催、暴走を止めるべく、馳せ参じた
黄金伝○染みた
「
どうしたの?
「ああ、そうさ……!
あんたは……忘れて、行ったんだ……!
この俺を、な……!」
「……
てか、大丈夫? 息切れしてるじゃない」
「誰の
息も絶え絶えな状態で、
「あんた、言ったよな……!?
『専属シェフとして、俺が
「え、ええ。
てか今、そんな冗談話してる場合じゃ……」
「今じゃなきゃ
呼吸が落ち着いて来たタイミングで、覚悟を決め、
「請け負ってやんよ、その役目!!
あんたん家の食事……!! 今日から、この俺が三食、全員纏めて面倒見たらぁっ!!」
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