Task.1「残念ハイスペ美女の対処」
左側には、大樹。
右側には、タクシー。
目の前には、ロータリー。
そして、出入り口で出迎える、二人のサイボーグ。
あぁ……。帰って来た……帰って来てしまった……。
そんな
「ふっ……」
自嘲し、小さく嘆息し、
こうなってしまった以上、仕方が
そう
「あら?」
の
少し移動した所で、
が……
いけないわ、
あの本屋は、どう見ても中古は置いていない……。
衝動に駆られては
「
と、内なる
「
後悔しない?」
「……」
正直言うと、もうとっくに後悔しているのが実情だったりする。
だからといって、引き下がる
しかし、向こうが食い下がらない
おまけに、現実の自分は今、絶賛電話中。相手に怪しまれないべく、不自然に取られない程度の会話も進めなくてはいけない。
「……分かったわ。
それじゃあ、こうしましょう。
もし目的地に着くまでの間に、古本屋が
その時は、
どうかしら?」
初手から最大級に譲歩、妥協し、向こうを納得させんと欲する。
自分の提案を受け、悪魔は姿を消した。
どうやら了承、受け入れたらしい。
どうにか着地点、折衷案を見出し、
と同時に、電話の方も済ませる。
すっかり気を良くした
やったわ。
これで、余計な犠牲を払わずに済むわね。
第一そんなご都合主義が、そうそう起こってなるものですか。
そんなコメディチックな
……
ご都合主義も、道中に古本屋も。
「……」
手続きが完了したタイミングで、ふと
「嘘でしょ……」
計算外の展開に、頭痛を覚える
しかし、こうなった以上、致し
悪魔が出て来られるのも
こうして
そこから先は、計算外イベントのオンパレードだなどと、知る
※
「『いらっしゃーせー!!』」
「止めろ」
「ご、ごめんなさ『いらっしゃい。よく来たね、仔猫ちゃん』」
「だから、止めろ」
「そ、そんな
「よし。お前が一旦、裏に来い」
「
入店早々、そんなやり取りが聞こえ、色々と不安になる
彼女が足を踏み入れたのは、近くに有った、【
母から聞いた話によると、蔵書家な店長が
「ふむ……」
一通り確認し、
確かに、懐かしい物から新作まで並べてあり、
ゲームや機器が借りれるのも、ポイントが高い。これは、
「アッちゃん、ごめん……。
「日頃の行いが、
てか、『エラー』って言えよ。
つーか、またか……店長は?」
「ごめぇん、
研磨機もよ、調子が悪いみたい」
「防犯センサーもだわ。
何か、
「ねぇ。
スキャナーも、スマホのバーコードが読み
「パソコンもー。
なんか、カーネル? が勝手に動くんだけど」
「
てか、だから店長は!?」
「『頭、冷やしてくるー』って、
「俺に丸投げして、この
つか、カミュ! お前、この緊急事態にまでエミュるとか、
「大丈夫です!
この程度、
「
俺を持ち上げてないで、ちったぁ手伝ってくれ!」
「すいませーん。
お会計、お願いしまーす」
「はーい、
「……」
嫌な予感、的中。
今日まで持ったのが不思議な
結果、レジが使えないので、電卓での計算を
おまけに、金額は本に貼ったバーコードで表示されるシステムなので、実際に商品の置かれた場所に行かないと不明らしい。
「はぁ……」
読んでいた本を閉じ、
「330円よ」
「……は?」
「値段なら、
でしょう?」
「え?
あ……はい」
「ですって。早く済ませなさい」
「……」
「どうしてフリーズしてるのよ。
早くして
「は、はーい、ただいまー!
ほら、アッちゃん!」
「あ、ああ……」
アッちゃん? とやらも、無言で
「あぁりがとうございましたー」
「またお越しくださいませー」
お辞儀でお客を見送った二人は、他のスタッフと共に、
「……助かった。
「の割りには、タメ口なのね」
「
そうでなくても、あんたが
「どうだか。それより」
すると、それまで騒いでいたセンサーが正常に戻った。
「ゲーム感覚で子供が、
「あぁ、それでっ!
助かるー! ありがとー!」
「いつ戻って来た、あんた」
知らぬ間に
どうやら、彼女が店長らしい。どことなく、姉を連想させる言動だった。
「君、
何者ー?」
「ちょっと都会で、修理屋としてバリバリ言わせてた時期が有っただけよ。
それより、この店って、【TATSUYA】ポイントが
「うんー。
アプリのバーコードを読み取れば、チェック
「なら、スキャナーの以上は、スマホの画面の照度による、認識エラーと見て
同じくレジは
その
次は」
「
あと、もしかして、ファーストフィルターを交換したばかりじゃないかしら?」
「え、ええ。
そうだけど」
「だったら、ポンプで
面倒だから説明は
さて、ラストは」
パソコンと数秒、
「あんた……マジで、何者?」
この場に
「何?
とでも、
「
それより、どうだ?」
「ウイルスに感染してるだけよ。
大方、長年眠らせていた物を導入したんでしょ?
デバッグなら今、完了した。これで、応急処置は全て終わりね。
不安なら、別の業者も頼む事を
「分かった。
っても、杞憂だろうがな」
そんなやり取りをしていると、二人の後ろから、店長がやって来る。
かと思えば。
「君、採用」
の一言と共に、
※
『ネット銀行、ネット保険
ゲームを含むプログラム全般、エンジニア、ジャーナリスト、探偵
フリーで、確定申告の代筆や機械整備、シンセサイザーの経験も
「……どこのピュアにコネクトする主人公だ……」
休憩中、コンビニへと向かいがてら。
まだ
そのまま、彼女の名前と性別、そして住所を眺める。
「
それは、彼女に最適な名前だと、
あと、孤独を好む
それを抜きにしても、あの常識外のルックスも、低いマニッシュな声も、
実際、現在進行形で、歩道橋の下を物色し、慣れた
「って、おいっ!!」
一方の
「いや、止めろよ!
何してんだ!? あんた!」
「見て分かるでしょ?
野宿よ」
「の〜じゅ〜く〜!?」
あっさり
え? だって、嘘だろ? 東京でバリバリ働いてた元キャリアウーマンだぞ?
なんかこー、立ち並ぶ中でも最大規模のマンションかビジネスホテルで、豪華な装飾が目立つドデカいシャンデリラの下、部屋の真ん中で足湯しつつガウン姿で優雅に、洒落たクラシックを流しつつ膝に載せた猫とか撫でて、執事とかウェイター的なイケメン何人も侍らせてて、意味も必要も理由も無くグラスを軽く揺らして、夜景を見下ろしながらロマネ・コンティーでも一杯やりながら、意味も必要も
野宿?
「
もしかして、私有地とか?
恥を承知で、ネットで検索しながらの付け焼き刃だったんだけど、ファジーだった?」
「しかも、これが初キャンプかよっ!?
にしては、
「その前にツッコまなきゃならないポイントが
そこで、思い直した。こちらが一方的にヒートアップしていても埒があかない。自分も、相手に合わせなくては。
「……リアルな話さ。
あんたの実家、この近くだろ?」
頭を冷やして尋ねる
対する
「……ボスに聞いたのね。
そうよ。っても当分、帰れそうにないけど」
「ボスて。
「言ってないからよ。
仕事辞めたのも、里帰りしたのも」
「……は?」
突然の出来事の連続に、戸惑う以外の選択肢を
そんな彼を尻目に、
「心配、負担かけたくないのよ。
こちとら数日前まで、都会でブイブイ言わせてたのよ?
だってのに、いきなりノコノコ帰って来られても、困らせるだけだわ」
「……」
「……
まさかとは思うけど、『退職したと知られるとか、
「まぁ……」
「お
どうやら、こんな
悪かったわね。期待に添えられず」
「別に、期待してねぇけどな」
「……あんた、そっち系でもないのに、
善意だけで?」
「失礼だな!? あんた!」
素直に告げると、
これまで十年近く接客業に勤しんで来た
ここまで分かり
「……それに、
帰郷したてで絡まれるのは、我ながらキツいのよ」
「その日の
「成り行き上そうなっただけよ。
狙ってポストを手に入れた
「確かに。
まぁ、
でも、だったら今の
どうやら、それは
「……殺されたのよ。
愛する息子を」
風にたなびく髪を押さえ、
し、知らなかった……。
まさか彼女が既婚者で、そんな凄惨な事件に巻き込まれていた被害者だったとは……。
その一件を自分は知らないが、隠蔽されている辺り、
そう、
「す、すまねぇ……。
そんな
許してくれ……」
「……
あんたは何も悪くないわ」
「でも、俺……!」
そんな親身な
「
確かにショックだったけど、今ではもっと増やせたし。
あの子が抜けて
今じゃあ、一万人も
「そっか……。
……だと、
そんなに
にしても、一万人か。相当、頑張ったんだな。普通、そんなに作れねぇし、育てようだなんて思えねぇ。
……ん?
「なぁ……。
「……?
「いや……にしては、ちょっと? 大分?
具体的には、単位が」
「何言ってるのよ。この
そもそも何度、確かめたと思ってるのよ。
間違い無く、
ほら。そんなに疑うなら、ご覧なさいよ」
家族の写真か……? と予想しつつ、
そこには、目や指で追うのさえ億劫なレベルで、数字が羅列されていた。
「……なぁ。もっかい、聞くけどさ。
「
……。
…………。
……………………。
「いや、
いつから!?」
「最初から、そう言ってるじゃない」
「言ってねぇよ!
てか、『子供殺された』云々、どこ行った!?」
「だから。
ホテル代として、私の愛する諭吉ちゃんを手放さざるを得なかった、って話よ」
「そういうアレかよ!!
なんつー紛らわしい
「そっちが勝手に勘違いしてただけでしょ?」
「あんたが
勢い付け
参ったぜ。
そう。ここまで派手にやり取りしておいて
「……
「
「だったら、話は簡単だ。
無料の所に泊まれば
「は?」
ここに来て、立場が逆転。
今度は、
「……
そんな、都合だけが果てしなく
「有るぞ?
丁度、コネが
「ちょっと待ちなさいよ。
「そんな言い方ぁ
これから一緒にやってく仲間だ。困った時ゃお互い様だろ?」
「まだ保留中の
それに、仮にそうだとしてもってか、だったら余計、迷惑なんてかけられないわ。
「じゃあ、
あんな所で野宿して、あんたが危ない
もし
「折る」
「首だよな、腕だよな、鼻っ柱をだよなぁ!?」
「……腰柱? かしら。
どっちかってーと。
いや……腰棒?」
「何、
もう
彼女の言わんとする箇所が何となく分かったからこそ、
「
頼むから、そこで譲歩してくれ!
な!?」
手を合わせ、頭を下げる
彼の必死さ、誠実さが伝わったらしく。
「分かったわ。
今日の所は、大人しく従う。
お金を使わなくって済むんなら、
「
サンキュー! 恩に着るぜ!」
「
「……
ちゃんと笑えんじゃねぇか」
「
早く案内して
「切り替え、受け入れ早っ!?
待てって! 俺まだ、仕事中だし!
地図だけメッセで送るから、
連絡も、きちんとしとくから!」
「そうね。分かったわ。
じゃあ、これ」
言うが早いか、IDなども記された名刺を
「って、
了解の旨を伝えるより先に、
まるで今までのが夢であったかの
ご丁寧に、段ボールのテントまで消えていた。
「くノ一かよ……」
持ち上げ、中を見てみると、夜食と手紙が入っていた。
『
これで貸し借り
大事な休憩を奪ったお詫び。
PS.
「ははっ」
これは、
どうやら、彼女は善人寄りらしい。
それにしても一体、いつ準備したのやら。
「おっと。
こうしちゃいられねぇ」
大事な要件を思い出した
「おー、お疲れー。
悪ぃな。大至急、
※
「……この辺り、よね」
数分後。同僚(予定)から送られて来た地図を参考に、目的地周辺まで辿り着いた
しかし、旅館は
辺り一面、民家ばかりである。
「……デマでも掴まされたのかしら。
……
早々に見切りを付けた
その前に、キャンプの
「見付けた……」
「
「逃がすなー!」
「捕まえろー!」
と、前方から小中学生の声が四つ、耳に入り。
気付けば
「
「ねぇねぇ。お姉さんが、例の良い人!?」
「うーわっ。めっちゃ綺麗じゃん」
「
続いて、今度は高校、大学生辺りの声が四つ届き、同じく
こうして
「……どういう
開き直り、素直に質問すると、八人は顔を見合わせた。
程なくして、兎の人形を抱えた内気そうな少女が、首を傾げ不思議そうに言う。
「アツ
「アツ兄……」
そう言えば、あの妙にお節介な男の名札には、『熱田』と書いてあった。
つまり、下の名前はともかく、彼は『アツタ』というらしい。
アツ兄というのも、彼の
「
「アツター?」
「誰それー?」
「「ねー」」
ひょっとして、読みが、当てが外れたのだろうか?
などと
「ちょっと、
遊んでないで、早く帰って来て。
何やらしっかりした調子と共に、新たに九人目が現れた。
自分とさほど離れていない、最年長らしき彼女は、
「初めまして。
ご案内しますので、こちらへお越しください」
「え?
え、ええ。
ありがと……」
やっと話が纏まり、一段落し、
しかし、安心してばかりもいられない。
「ねぇ、ねぇ、お姉さん!」
「んっ!」
男の子二人が、
繋げ、という
それにしても、少し騒がしいが。
「……今時
その歳でレディーの扱いを心得ているなんて、将来有望だわ。
あなた達の
親の教育が、しっかり行き届いている証拠かしら。
冗談めかしつつ屈み、目線を合わせ頭を
「おばさん扱いしなかったご褒美、及びお礼よ。
気分が
「わーい♪」
「やったー♪」
年相応の反応に、自然と笑みが零れた。
子供も悪くないわねと思いつつ、
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