第28話 レナのファンだと!?

 全て流れに身を任せたような形でことは進み、部屋を出る時にはCランク冒険者ではなく、偽装Cランク冒険者になっていた。


「ではショータさん、明日からもよろしくお願いしますね」


「あ、ああ」


 俺を送り出すレナの表情が、したり顔に見えるのは気のせいだろうか?

 俺は金に目がくらんで、一番の悪手を選んだんじゃねえか?


「そうだ、いい忘れてたけどな、レナ、もう俺の宿事情調べるんじゃねえぞ」


「そこまで気にする必要はないでしょう。部屋の内部で何が行われているかは知らないんですから」


「………………え? そこがOKならセーフだと思ってんのか? 全部ダメだからな?」


「はぁ……仕方ありませんね。リューシャさんを味方につけるためとはいえ、バラしてしまったのは私の失態ですし」


 こいつ反省するところがおかしいな……俺のプライベートを嗅ぎ回ることは問題ないと思ってやがる。


「まさかとは思うが、俺が今朝、朝食で何を食ったかとかまでは把握してないよな?」


「そこまでがご希望ですか? 少し気合を入れれば――」


「いや、俺が悪かった! 忘れてくれ!」


 危ねえ危ねえ……ストーカー魂に火をつけるところだったわ。



       ◆  ◇  ◆



 ギルド長との話も終わり、冒険者ギルドを出ると、どうにもおかしな視線を感じる。

 おそらく、奥の部屋から出てきたせいだろうが、あまり気持ちのいいものじゃないな。


「ショータン有名になったみたいだねっ」


「でも周りからは、あまりいい印象は持たれていないようですね」


 アルナも感じているらしく、たまに聞こえてくるのは、この短期間にランクを二つも上げた事実、ギルド長に呼ばれるという特別な冒険者といったものだ。


「おう兄ちゃん、いったい何をしたら、こんな短期間にお掃除係からCランクになれるんだ?」


「どうせ汚えことして、あのレナさんを困らせてんだろッ! 許さねえぞ」


「いつもいつもレナさんはお前ばっかり……いったい何を握って脅してんだ?」


「お前には天誅が必要なようだ」


 俺たちの周りを囲む四人の冒険者。

 どちらかというと、脅されてるのは俺のほうなんだが?

 あのレナがこんなに人気があるなんて、きっと嘘に違いない。何かの間違いだ。


「お前らレナのなんだ? あいつはヤバいからやめとけ。犠牲者は俺だけで十分だ」


「おっ? レナさんを呼び捨てか? 被害者面して、レナさんから俺たちを引き離そうたってそうはいかねえぞッ!」


「ち、違う! 誤解だぞ! 本当にあいつはストーカーだし、俺のことを犯罪者扱いするし、ろくでもねえんだから!」


 真実をバラしたにもかかわらず、男たちの表情は更に険しくなり、俺が嘘を言っているとでも言いたげに睨んできた。


「お前がストーカーだから、レナさんから犯罪者扱いされてんじゃねえのか? きっとそうに違いねえ!」


「わかったぞ。いつもレナさんがお前を特別扱いしてんのは、レナさんのプライベートをネタに脅してるからだな。Cランクに上がったのも、それなら合点がいくってもんだ!」


「やはりお前には天誅が必要だ、ちょっとツラ貸せや」


 周りの目も気になるため、とりあえずここは黙って付いていって、そこで誤解を解いたほうがいいだろう。

 アルナとリューシャに目配せすると、二人ともそれでいいとの返事をよこした。

 レナだけでも手強いのに、取り巻きもウザいのな……。


 四人に連れてこられたのは、人気が全くない、寂れた屋敷の中庭だ。

 壁のあちこちに、血痕らしき茶色の汚れがこびりついている。


「ここなら誰にも見られないだろう」


「俺たちは、もうCランクを十年以上続けてるベテランだ。昨日今日上がったばかりのルーキーには負けねえぞ」


 Cランクを十年…………それはベテランじゃなく、ただうだつが上がらないだけじゃねえのか?

 指摘したら、火に油を注ぐことになりそうだからやめておくが。


「マジでやるのか? 一応確認しとくけど、お前らレナがいいのか?」


「ったりめえだろうが! お前はレナさんの良さもわからず弄んでるのか!」


「いや、お前らの前には、ほら、こんなに可愛いアルナとか、こんなにエロさ爆発してるリューシャがいるのに、それでもレナがいいのか?」


 男たちの視線が、アルナ、リューシャの上から下まで移動する。

 だが、スゴくあっさりしたもので、重症度がわかる。


「小便くせえガキに、ビッチ臭漂う女とか興味ねえわ! お前はレナさんの、あの制服を着た、清楚且つ、厳しさ漂う仕事ができる女の良さがわからねえのか! あのピリピリした空気と真剣な眼差し以上に崇めるものはねえッ!」


 男の演説に、ただ頷き、肯定してみせる残りの三人。

 俺は泣きそうになっているアルナと、またビッチと言われ、憤慨しているリューシャをなだめるのに忙しい。

 結論として、こいつらはただ歪んでいるだけだとわかった。

 二人を傷つけ、俺の手間を増やした報いを受けさせてやろうじゃないか。


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