第29話 二つ名貰ったがいらねえ!

「アルナ、リューシャ、お前たちの仇は取ってやる。後ろに下がってろ」


「いくら頭にきたからって、間違っても殺しちゃダメですよ!」


「ショータン、あいつら殺していいよっ!」


 困ったな、こうも正反対のことを求められると……てか、リューシャ容赦ねえな。

 二人の言葉に俺だけじゃなく、男たちも反応する。


「ぶわははははっ! 殺しちゃダメとか、殺していいとか、生殺与奪権を持ってるのはこっちだっつうの!」


 えらい難しい言葉で語る男だ。

 他の男たちも、一様に笑い、同調している。


「殺しはしないが、一対一か一斉にかかってくるか選べ」


「俺たちがルーキー相手に、全員で襲うわけねえだろ! バカにすんじゃねえぞ。もし、そんなことをしてレナさんにバレたら、一生口もきいてもらえねえだろうがッ!」


「一つ確認しておきたいんだが、お前ら、レナと口をきいたことはあるのか?」


「ねえよッッ!」


 もう思い残すことなく死ね!

 どうせこの先も、望みなんてねえんだからよ!


 俺が剣を抜くと、男たちは「先に抜いたのは、お前だからな」と言いたげに、悠々と剣を抜き放ってゆく。

 

「そんな大層な剣を見て、俺らがビビると思ってんのか? 剣技ってものはな、武器に頼っちゃならねえってことを教えてやるよ」


 至極真っ当なことを言うじゃねえか、普通はそのとおりだよ!

 だがな、俺には通じねえんだよ!


 神剣に、とことん斬れないイメージを乗せ、上段の構えをとる。

 素人の俺が構えると、相手からは「さあ斬ってくれ」と主張しているように見えていることだろう。

 隙だらけでガラ空きなのは間違いない。


「そんな構えで、よくCランクになれたな。やっぱりレナさんを脅したに違いねえ! 天誅だボケナスがァアアアッッ!」


 一番小柄な男が俺に突っ込んでくると、胴を薙ぐように斬りかかってきた。

 Cランクの攻撃はまだ視認できる速度だ。

 だが、どこからどうみても、俺の胴に致命傷を与えるような速度と深さの一撃を放ちやがった。


「殺す気でやるとはいい度胸だなッ! こっちも容赦しねえぞッッ!」


 男の一撃を踏み込み、更に深い位置で受ける。

 攻撃を繰り出している最中の男は、防御ゼロと言っていい。

 防御しなくていいってのは、全く相手の攻撃を気にせず、見る必要もないってことだ。


「俺をナメるのもそこまでにしとけよ、雑魚がぁぁああああッ!!」


 男の無防備になった肩に目掛け、思い切り神剣を振り抜くと、低く鈍い音に混じって、骨の折れる感触が伝わってきた。


「アギャァアアアアッッ!」


 肩口を抑え、のたうち回る男を見る限り、全く斬れなかったようで一安心。


「で、次は誰が相手だ?」


 残った奴らに顔を向けると、全員固まっているようで微動だにしていない。


「おい、次は誰だって聞いてんだよ」


「お、お前、いったい何をしやがったんだ……先に胴に一発入ってただろうが」


「入ってないから無傷なんだろうが。知りたいならかかってこいよ」


 今度は一番大柄、俺より二十センチはデカい奴が相手のようだ。

 さっきと同じ上段の構えでいるが、一向にかかってこない。


「どういうつもりだ? やる気あんのかよ」


「お前は変な技を持ってるみたいだからな、俺に先に手を出させる戦法なんだろうが、そうはいかねえぞ」


 ジリジリと間合いを詰めてくる大柄の男。


「じゃあ遠慮なく、先にやらせてもらうからな」


「勝手にしろ。お前の剣速はかなりのもんだが、構えも動きも素人すぎて先読みできるからな」


 返事ももらっため、一気に距離を詰め肩を砕く勢いで剣を振り抜く。


「バカの一つ覚えの上段からの肩口狙いかよ! そんなもん簡単に弾いて――――うぎゃぁあっあああッッッ!」


 俺の神剣をただの剣で受けようとか無理だろ。

 男の剣自体を豆腐を切るようなイメージで斬り、体に当たる瞬間に斬れないイメージに切り替えると、そのとおり剣をスライスし、肩を粉砕する。


「危うくイメージが間に合わず、体まで斬るところだったぜ」


 少し練習しといたほうがいいな。

 ぶっつけ本番は心臓に悪い。

 再び残った奴らに向き直ると、二人とも剣を投げ捨てたところだった。


「俺たちが悪かった! 剣をぶった斬って、体は斬らないなんて技は見たことねえッ! 防御も無駄、攻撃も効かないなんて、俺たちはとんでもねえ人を相手にしてたようだ」


「夢でも見てたのかもしれねえ……そうだ、あんたの名前は、確かショータンだったよな?」


「違う! ショータだ!」


「でもさっきそこの女が……」


「気にするな!」


 男たちは倒れている仲間をそれぞれ抱き起こし、頭を下げてきた。


「まさか……こんなにも強かったなんて……痛ッ……確かに俺の一撃は当たったはずなのに……まるで幻を相手にしてるみたいに、すり抜けやがった。お前ならレナさんを任せてもいいようだ……」


「そうだな……幻は的確な表現だ……ゲホゲホッ……幻影のショータ、うむ、これがお似合いだ……さらばだ、幻影のショータ」


 男たちはそれだけ言い残し、去っていった。


「やりましたね、ショータさん! 瞬時に神剣を切り替えるなんて、使いこなしてますよ!」


「ショータンカッコいい! 幻影のショータン!」


「黙れッ! 誰が幻影のショータンだッ!」

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