第26話 手のひら返し!

 この女、俺を利用しやがったな!

 普段は散々俺をコケにしておいて、裏ではこんな手を打ってやがったのか!

 俺がこのまま黙って、お前に甘い蜜を吸わせると思うなよッ!

 なにが「昇格なんて、ふふふふっ」だ、ボケナスがァッ!


「ギルド長、お話があるんですが」


「なんだい、ショータ」


「俺は普段から、そこのレナという受付嬢に酷い扱いを受けてますよ。全然、優秀な冒険者だなんて扱われ方はしてません」


 ギルド長は一瞬キョトンとした表情を見せると、爽やかに笑い始める。

 そのままソファに腰を下ろすと、隣にレナも勧める。


「ははははっ、どんな扱いかは知らないけど、レナくんは人によって、褒めて伸ばすか、厳しくして伸ばすか分けてるみたいだからね。きっと、君は厳しくしたほうが伸びると思われたんだろう」


 いや、オモチャにされてたんですが?

 それに、何回犯罪者扱いされたと思ってんだよ。

 俺が攻撃したとみるや、明らかにその目つきが変わるレナ。


「ショータさん、すみませんでした。今までは、ああしたほうがあなたのためだと思ってたんです、後生ですから許してください。これからは大丈夫です。これからは」


 なぜ「これからは」を二回言った。

 今までのことは、水に流せとでも言いたいのか?

 まあ、俺もガキじゃない。レナもちゃんと謝ってみせたし、いつまでも根に持って、グチグチ言うつもりはない。

 理不尽な要求は上司から散々呑まされ、もはや耐久値は上限を突破している!


「仕方ない。次からは普通の対応で頼むぞ。二度目はないからな。次変な対応だったら、ギルド長に言いつけるぞ」


「流石ショータさんですね。初めて会った時からこうなると思ってましたよ」


 レナは隣のギルド長に「私の言ったとおりの人でしょう?」なんて言いながら、俺をヨイショしまくっている。

 初めて会った時は、俺をゴミ漁り扱いして放り出したくせに、どういうつもりなんだか。


「それで、今回は魔族の指揮官を倒したんだってね。この前はドラゴンの卵を割って、灌漑工事も完了させたとか」


「まあ、俺だけじゃないですけど。勇者のアルナもいるんで」


「そうだったね。プロイラードの勇者と同じパーティーとか、スゴい冒険者がうちの担当になったもんだ。はははははっ」


 照れるアルナの横で、一人不貞腐れているリューシャ。


「私は役に立たなかったのかなぁ。頑張ったんだけどなぁ」


「リューシャも最初に比べれば頑張ってたな。何だかんだいって、ちゃんと耳も切り取ってたし、一筆書かせたり、周りを利用して脅すのは天才的だ」


「最後褒めてくれてる? 大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫!」


 思わず本音が漏れちまったわ。


「それでギルド長、俺たちがここへ連れて来られた理由はなんですか?」


「ああ、それだったね。今回君たちが倒した魔族については、国と他のギルド支部と共有することになる。そこで問題になるのが、君たちがまだCランクということだね」


「それが問題なんですか?」


「大いにあるね。本来、魔族の指揮官クラスなんて相手にするのはAランク以上の冒険者だ。それをCランクで倒したなんてなったら、それこそちょっとした騒動になるだろう。まあ今回の君には、そこのSランクの勇者がいるから何とか誤魔化せるけど」


 イマイチ何がいけないのかわからんのだが?

 べつにCランクが倒そうが構わんだろうに。

 すると、レナが一枚の紙を見せてきた。


「魔族を相手にするのはAランク以上が基本で、そういう時はギルドからも直接要請することがあるんです。これはアルナさんもご存知かと思います」


 アルナを見るとコクコクと頷いてくる。


「ですが、ショータさんはCランクですので、要請自体かけることができません。アルナさんの登録はレイナス王国ではないので、こちらのギルドでは要請できないので、問題があるわけです」


「言ってることはわかるけど、だからなんだって話なんだが? もう結論から言ってくれ」


 ギルド長は前のめりになると、怖いくらい真面目な顔つきになった。


「君のパーティーのリーダーを、そこの勇者であるアルナくんにして、アルナくんの登録をここに書き換える、もしくは、規則によって一気に格上げできない君のランクを、こういう特殊なものにするか、どちらか選びたまえ」


 そう言って、ギルド長が胸ポケットから取り出したのは、俺が付けているのとは違う、ブロンズプレートだ。

 だが、ギルド長がその表面をスライドさせると、中からゴールドプレートが出現する。


「細工をした。表向きは君はただのCランク冒険者。要請が出た時だけはAランク冒険者。さあ、どちらが君の好みだ?」


「『どちらが好みだ?』なんて真面目に聞かれても、両方お断りだけど? さっきから下手したてに出てやってたら、なんだそりゃ。それってギルドに都合よすぎだろ。そもそも俺が要請自体受ける必要ねえだろうが」


 俺の答えに、怒りを滲ませるギルド長。

 キレたのがマズかったか?

 でもこういうのは、勢いに任せて断ったほうがいいし。


「君はこのプレートを作った、この私の労力を無駄にするのかッ!」


 そっちか! そっちなのか!

 つうか、そんなもん知ったこっちゃねえよッ!


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