第25話 おとなしい受付嬢レナ

 翌日、酒臭い村長たちに見送られ村を出た。

 建物の陰から一人の関取が見送っていたのに気づいたが、無視して出発したのは内緒だ。


「昨夜は、かなり遅くまで起きてたんですね」


「アルナも起きてたのか。ちょっと村長と酒を呑んでたんだよ」


 アルナが俺の顔を覗き込み、浮かない表情で語りかけてきた。

 まさか起きてたとは……。


「ショータンもお酒呑んでたんだね。酔って襲ってくれてもよかったのにぃ。今度は私と飲もうね♪」


「断る」


「え~、なんでよぉ」


「俺の記憶がなくなるまで呑ませて、逆にお前が襲ってきそうだからだ」


「はははっ、ショータン鋭いね」


 …………冗談のつもりだったのに、マジだったのかよ。




 半日ほどで王都に着くと、冒険者ギルドへ向かう。

 今日はガツンとやってやる材料は揃えたからな。

 いつものように、レナに先手を取られることはないだろう。

 ギルドへ入ると、普段どおり雑然とした雰囲気の中、窓口へ並ぶ。


「護衛なのに早かったですね」


「そりゃ討伐したからな。その証拠のオーガの耳だぞ」


 リューシャから受け取り、それを確認するレナ。

 いつもならここで何か言ってくるが、今のところ何もない。


「かなり多いですね。オーガは買い取り対象外なのでお金にはなりませんよ。そこはご了承ください」


「お、おう、そうなのか」


 アルナに腕を引っ張られ、お掃除係で無条件に買い取りされるのは、ゴブリンとオークだけだと耳打ちされる。


「では依頼達成ですね、では――」


「ちょっと待ってくれ。今回はそれだけじゃないんだよ」


 今度はアルナが、魔族が率いていた証拠をまとめた袋を受付台に置いた。


「これは?」


「今回のオーガは魔族が仕組んだことだったんだよ。それで、オーガを率いていた指揮官を倒したから、その証拠一式だ」


 ここでいつものツッコミが出せるなら出してみろ!

 身分証もアルナが確認して間違いないし、装備も魔族の指揮官クラスが使ってるものだ。

 ついでに村長の一筆まで足してもらったからな。抜かりはない!


 レナは淡々とそれらの証拠品を確認すると、袋に再度仕舞い込んだ。


「確認いたしました。間違いなく本物ですね。これらの状況から、ショータさんはCランクにアップするのは確実です」


「あ、ああ、そうだろうな。なんたって魔族の指揮官を倒して、村を救ったんだからな」


「そうですね。スゴいですね」


 おかしい……何も言ってこねえぞ。

 裏があるのか? 今Cランクになったら罰ゲームでも待ってんのか?


「今回の魔族の件については、少々重大な案件になりますので、ギルド長と話し合いをしていただくことになりますが、よろしいでしょうか?」


「ギルド長? まあいいけど……」


「では、後ろのお二人もご一緒に、どうぞ中へお入りください」


 というわけで、奥の部屋へ通されることになってしまった。

 周りからの視線が熱い。

 そういや、ここに来てから、奥へ通される奴なんて見たことないな。


「ショータさんも大変なことになりましたね。ギルド長と話し合いをすることなんて、一般冒険者ではそうありませんから。それだけスゴいことをしたってことですよ!」


 アルナも、なぜかテンションが上がってきている。

 面倒ごとに巻き込まれるのなら、勘弁してほしいんだが。


「では、こちらに座ってお待ち下さい。ギルド長を呼んでまいりますので」


 淡々とした口調で、それだけ言い残し部屋をあとにするレナ。

 何の変哲もない応接室で、言われたとおり、ソファに腰掛けて待つことにした。


「なんかいつもと態度が違って、こっちまで調子が狂うな」


「もうショータンに飽きたのかなぁ?」


 飽きたってなんだよ……嫌な言い方だな。寂しくなるじゃねえか。

 リューシャは「ライバル一人減っちゃった♪」なんて言いながら、気分をよくしている。

 ライバルって、レナはただのストーカーだっての。

 それにしても、ストーカーらしからぬ、おかしな変貌ぶりだ。

 絶対何かあるに違いない。俺は期待して待っとくからな!



 ――――――――コンコンコンッ。



 扉がノックされると、仕事ができそうな紳士とレナが入ってきた。


「ほう、君が魔族の指揮官を倒したというショータか。レナくんが言っていただけのことはある」


「俺のことを言っていた?」


「ああ、優秀な冒険者がいると言っていたんでね。きっと大きなことを成し遂げると。レナくんも優秀で見る目がある。これは近々昇格させないといけないね。ははははっ」


「ギルド長、そんな必要はありません。これは冒険者のショータさんが優秀だっただけのこと。昇格なんて、ふふふふっ」


 レナが俺をチラ見した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る