第21話 これは拾うという表現でいいのか?・後

「とりあえず、村に向かいませんか?」


「そうだな、たとえ見逃したとしても、1ptだしな」


 このわけのわからない拾い物を探して、依頼が遅れるのはよくない。

 何が起ころうとも、アルナもいるし心配はいらないだろう。

 リューシャはというと、さっきから最後尾でずっと嬉しそうにしている。


「ショータンが私が推したやつを選んでくれて、もうさっきから、ここがキュンキュンしてるよぉ」


 胸でも押さえているのかと思いきや、下腹部を撫でている。


「きっと子どもが欲しいんだと思う」


「俺の選択全く関係ねえよな? それ、ただのお前の本能じゃね?」


「違うよぉ。ショータンの想いが伝わったんだよぉ」


 んなわけねえだろ――――ってなんだこりゃ!


「リューシャ、お前の足元、なんだよそりゃ」


 リューシャの足元には銀色のヌメヌメとした、粘液のようなものが広がっている。


「お前…………そんな色の……いや、口に出しちゃいけないな」


「違う、違うよショータン! 私こんな液垂らしてないから!」


 それ以上口にしたら、またほっぺた引っ張ってやろうかと思ったが、その前にアルナが動いた。

 俺でもわかるほどの殺気を放ち、既に剣を抜いて。


「二人ともソレから離れてください! ソレは魔物です!」


 魔物というワードを聞いた瞬間飛び退き、銀色の粘液から距離を取る。

 リューシャも魔物だとわかると安堵した様子を見せ、俺の後ろに隠れた。


「アルナ、これはなんて魔物なんだ? スライムか?」


「スライムだとは思いますけど、こんな銀色のスライムは見たことがありません」


 アルナが目にも止まらない速度の一撃を繰り出すと、金属同士がぶつかったような、甲高い音が鼓膜を揺さぶる。


「ダメージが通ってません! 普通のスライムなら、核を壊せばダメージが通るんですけど、その核の場所もわかりません!」


 この硬さ、この見た目、某ゲームのスライムにクリソツなんだが、突然逃げ出したりしないだろうな?


「ねえねえ、ショータン。ダメージが入ってないってことは、これがダメージ無効の拾い物かも?」


「……マジか? それならいらねえぞ」


「ですね。スライムを盾にする人なんていませんしね」


 というわけで、正体不明のスライムに背を向け、とある村に行こうとした時、その声は聞こえてきた。


「アル……ジ……マッテ」


「主だと!?」


 振り返った瞬間、その銀色スライムは俺に覆いかぶさるように襲いかかり、俺の全身を飲み込んだ。


「ショータさん! 大丈夫ですか!」


「ショータンが食べられたよぉ、私もう生きていけないよぉ」



 ――――俺は食われたのか? 拾い物に?

 こいつ、主って言ってたんだぞ。つうか意識あるし。

 ちょっと息苦しいが、大丈夫みたいなんだが?

 ゴボゴボゴボボボボッ…………。



「ショータ、さん?」


 泣き崩れるリューシャの横で、アルナが放心状態で俺を見つめている。

 暫くすると、体を包んでいた銀色スライムが体に染み込んでゆき、その姿を消した。


「どうなってんだ? 何ともないぞ」


 腕を動かし、屈伸をし、どこにも異常がないことを確かめる。

 すると、俺が生きているとわかったリューシャが、いつものごとく抱きついてきた。


「よかったよぉ、ショータン無事だったよぉ。キスしてあげるぅ!」


 今回は完全に不意を突かれ、唇を奪われた――――はずだった。


「なんじゃこりゃぁあああああっ!」


 襲ってきたリューシャの唇が、俺の唇をすり抜けた。


「えっ? ショータンどうなってるの? 今、体をすり抜けたよ?」


「まさかとは思うが、アルナ、剣で俺を突いてみてくれ」


「いいんですか!? 本当に突きますよ」


 今のすり抜けを見てたせいか知らないが、容赦なく俺の腹に剣をぶち込んできたアルナ。

 だが、その剣は刺さらず、すり抜けた。


「信じられないだろうが、おそらく、ダメージを受ける攻撃は、体が受け付けないみたいだ」


 普通に接する分には問題はないため、ダメージ判定のある行為はダメなんだろう。

 銀色スライムみたいに、攻撃を撥ね返す金属人間にならなくてよかった!

 まさかすり抜けるようになるとは思わなかったけど――――半分人間やめたようだ。


「それ少しおかしくない? 私のキスがダメージ判定ておかしくない? ショータンヒドくない?」


「そんなこと言われてもなぁ、ダメージ判定は俺が決めてるわけじゃないし。まあ俺からしたら大丈夫だろう」


「じゃあ試してよぉっ!」


「依頼に遅れるのはよくない。さっさと村に向かうぞ」


 リューシャを無視し、アルナと歩きだすと、背後から錯乱した声が聞こえてきた。


「ちょっとぉ、ショータンの意気地なし、ヘタレーーッ! やっぱり今のはなしでっ! キスしてよぉぉおお」



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