第19話 ランクアップ!

 三人で意気揚々と冒険者ギルドに戻ってきた。

 貢献度100%なんてそうそうないだろう。

 きっとランクアップに近づいたはずだ。


 ギルドの中はそこそこ人がいて、受付窓口もどこも数人並んでいる。だが、ただ一つ誰も並んでいない窓口があった。


「お前のところ誰も並んでないな。避けられてるだろ」


 そう、それはあのレナが座っている窓口だ。


「私はショータさん専任ですから、他の冒険者が来ても断ってるだけですよ。というか今はあなたが来るのを感じたので、急いで窓口を開いたので誰もいないだけですけどね」


「どっちの理由でも怖いわッ! それより依頼をこなしてきたぞ」


 依頼書とともに、リューシャが一筆書かせた紙も一緒に渡すと、それに目を通すレナ。

 そして読み終わると、目を疑う行動を取った。


「おい、なに丸めて捨ててんだよッ!」


「認めません。正式なものではありませんので」


「じゃあどうやって俺の貢献度を把握するつもりだったんだよ! しっかり責任者のサインがあるだろうが!」


「それでも認めたくありません」


「本性だしやがったな、コノヤロウ!」


 掴みかかろうとしたら、背後からアルナが引っ張ってきた。


「それは本物で間違いないですから、しっかり査定に入れてください」


「仕方ありませんね。アルナさんがそこまで言うのなら」


「……お前、俺とアルナの扱い違いすぎるだろ」


 すると、急に悲しそうな表情になるレナ。

 何かマズいこと言ったか? 傷つけること言ったか??


「なぜ認めたくなかったか、ショータさんはわかってないのですね。こんな誰にも割れなかったドラゴンの卵を割って、更に灌漑工事自体完了させてしまうなんて、ここまで貢献したらランクアップしかないじゃないですか。上位になればなるほど、死というものが足音を立てて近づいてくる世界ですよ。そんな危険な世界にショータさんが近づくと思うと……専任の私の気持ちがわかりますか?」


 そう言うと、俯いてしまうレナ。

 やたら長かったな……まあそれだけ心配してくれてたってことか。


「悪かったな。そこまで考えてくれてたなんて」


「そうですよ。冒険者ギルドの受付嬢として、冒険者をこうやって送り出して、何人別れることになったことか。もう少し私の気持ちも考えてください」


 俺が悪いんだと、更に責めてくるレナ。

 しかし、何か引っかかるんだよなぁ…………。




 ――――――――ああ、あれだ!!





「お前、俺が来るのと同時に冒険者ギルドに転職してきたよな? 冒険者送り出したことねえよな?」


「…………」


「なんか言えよ!」


「……ランクアップの話でしたね」


 こいつ、無視しやがった……。


「これでショータさんはDランクに昇格です。最底辺から二つ目、ブービーですね」


「ブービーだと? お前日本人だろ! 最下位から二つ目をブービーと呼ぶのは日本だけなんだぞ」


「はははっ、何のことでしょう? 誰が東京都足立区出身なんて言いました?」


「誰もそこまで言ってねえわッ!」


「冗談ですよ。知り合いの転移者に、そういう人がいるから知ってたまでのことです」


 俺とレナのやりとりを、怪訝そうに見つめるアルナとリューシャ。


「何の話をしているんでしょうか?」


「ちょっと異世界会話をな――それより、早くこのダサい木のプレートを交換してくれ」


「わかりました。これがDランクのスティールプレートです」


 鈍い光を反射させる金属製プレートだ。

 それを受け取り首に掛ける。


「やっと冒険者って感じだ。流石に木製プレートはな」


「この前までお掃除係だったくせに……」


「おいレナ、今何か言ったか?」


「次の依頼はどうしますか?」


 何事もなかったかのように、淡々と依頼書を広げるレナ。

 ふざけたことを言ってたような気がしたんだが。


「次も、ランクアップできそうな依頼を頼む」


 俺の要求にパラパラと依頼書を捲っていくレナ。

 そして一枚の依頼書を見つけると、俺の前に出してきた。


「これなんてどうでしょう。とある村から来た要請なのですが、報酬があまりに少ないために、誰も受けない依頼です」


「まあ、金は今はいいや。とにかくランクアップしたいからな。で、内容はどういったものなんだ?」


「村の近くにオーガの群れが出ているので来てほしいと」


「オーガ?」


 イメージは、体がデカい鬼だけど合ってんのかな?


「ショータさん、オーガは巨大な戦鬼です。動きも体に似合わず速いので、ショータさんが攻撃を受ければ……死んじゃいます」


「どういうことだレナ! お前俺を殺す気かよ!」


「確かにオーガは強敵ですが、ショータさんは嘘かホントか、ドラゴンの卵を破壊したのでしょう? このオーガも討伐ではなく、村近辺に出たから警護する意味合いが強いですし、大丈夫でしょう?」


 こいつまだ信用してねえな?

 どう聞いても、挑発してるようにしか聞こえないんだぜ。


「それで、そこで何をすれば任務完了になるんだ?」


「討伐が一番いいのは確かですが、オーガの群れが確認できない状況になれば完了でいいですよ」




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