第18話 貢献度100%・後
一度深く息を吸い込み、神剣を握っている両手に力を込める。
「どぉおおおりゃぁあああッッ!」
巨大卵に向かって剣を振りまくる。
卵だけじゃなく、その向こうにある川の本流に届くイメージで。
しかし、うんともすんとも言わない卵。
「はぁはぁはぁ……なんで何も起こらねえんだ……」
かなり斬り刻んだはずなんだが、まさか、神剣は命が宿ってるものしか斬れないとか、何か条件がついてるとかじゃねえだろうな?
考えがてら休憩していると、リューシャがつるはしを卵に向かって投げつけた。
それがいい音を立てて卵の殻にぶち当たった。
「斬れてると思うんだよねぇ。きっとキッカケが必要なんだよ」
リューシャの言葉どおり、つるはしが当たった箇所から俺が斬り刻んだ箇所に亀裂が入ってゆくと、ドス黒い血液のようなものが溢れ出す。
それと同時に、川の本流から水が決壊したダムのごとく、一気に俺のほうへ押し寄せてきた。
「ちょっ、無理ッッ! 逃げられねえよッッ!」
「ショータさん! 掴まってください!」
いつの間にか真横に立っているアルナ。
その背中にしがみつくと、すげえ跳躍で一気に堤防上まで飛んでゆく。
――――胸のドキドキが止まらねえ! 死ぬかと思ったわ。
アルナは流石勇者なだけあって、凄まじい身体能力だ。それに、アルナにしがみついていると、髪のいい匂いと、小柄ながら程よい柔肌がたまんねえ。
正式惚れちまいそうなんだが――――いやいや、このドキドキと重なってそう感じるだけだ! これはつり橋効果でしかないんだ。まだまだお子様なアルナに惚れるわけにはいかねえ!
「どうかしましたか? ショータさんの体には、あの跳躍は負荷が大きかったでしょうか?」
「ショータンやったねえっ!」
堤防に降り立つと、すぐさまリューシャが背中に抱きついてきた。
それと同時に意識せずにはいられない、二つの双丘を背中に感じる。
これだよこれ! 誤った思考が一気に洗い流される!
今回ばかりはリューシャに感謝――って、この原因作ったの、つるはし投げつけたリューシャじゃねえかよっ!
「離れろリューシャ! 周りの作業員に俺が殺されてもいいのか?」
作業員からは、卵を破壊し、川まで完成させた俺に、感謝とともに嫉妬による殺意を向けられている。
「しょうがないなぁ。ショータン照れ屋さんだから、帰ったら裸でサービスしてあげるっ」
「こうなれば、男の仲間を拾って盾にするしかないな」
「やめてよっ! ショータンを巡って三角関係とか面倒だから!」
「お前の中では、どういう三角関係が成り立ってんだよ……」
「もういいかね? 今回は本当に君には感謝しかないよ」
作業員の中でも、偉い立場であろう背筋を伸ばしたおやっさんが声をかけてきた。
どうやら、俺たちのやりとりに業を煮やしたようだ。
「いえいえ、依頼は護衛だったのに、でしゃばった真似をしたみたいで」
「そんなことはない。君たちがいなければ、今回の灌漑工事全てが無駄になっていただろう。本当に感謝している」
作業員一同が頭を下げてきた。
この世界にきて、初めて感謝されたよ……涙が出てきそうだぜ。
俺が感動していると、その脇を抜けていくリューシャ。
「だったらさ、一筆書いてくれないかな? この工事の貢献度は100%だって。ショータンはギルドのお姉さんに、この依頼は貢献度だって言われてたんだよねえ」
「そういうことなら任せてくれ。しっかり書かせてもらうよ」
あいつ何言い出してんだよ……恥ずかしいこと言いやがって。
「ショータさん、リューシャさんはスゴいですね。ショータさんのためなら、どんなことでも全力でやれるんですよ」
アルナがそんなことを言いながら、キラキラした瞳でリューシャを見つめている。
――――たぶん違うと思うぞ。
あいつは、ただ自分がやりたいように、本能に従ってやってるだけだ。
それが俺を中心に動いてるってのは間違いないだろうが。
あれ? 結局俺のために全力になってる?
ダメダメだ! リューシャの評価を上げちゃダメだ! あれはマッチョなお兄さんお兄さん、と――――ふぅ、落ち着いたぜ。
「書いてきたぞ。これを持ってギルドに戻れば、君たちがどれほど私たちの力になったかわかってくれるだろう」
おやっさん仕事がはええな!
それを受け取ったリューシャが振り返ると、こちらにすぐさま戻ってきた。
「ショータンやったよぉ! これであのお姉さんを言い負かすことができるねっ!」
俺の貢献度ってより、レナを言い負かすための材料が欲しかっただけかもしれない。
リューシャはこれでも魔族だからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます