第17話 貢献度100%・前

 依頼にあった灌漑工事の場所にやってくると、かなり大規模な工事らしく、幅十mほどの川を掘り進めていた。

 だが、工事作業員の手は、その行く手を阻む大きな岩の前で止まっていた。


「どうかしたのか?」


 作業をしていた男に声をかけると、男は疲れた様子でこちらに顔を向けた。


「ああ、ギルドから雇われてきた冒険者か。いやな、この岩がクソ硬くてよ、全く進まないんだわ。これをぶち壊せば本流に届くってのによ」


 掘り進めている川底に下り、その岩を見上げると、その巨大さに口が開きっぱなしになる。


「本当にでけえ。護衛に派遣されたけど、これ、工事が進まなかったら全く意味ないんだよな?」


「そりゃあな。もう冒険者も全員引き上げちまったよ。よく兄ちゃん来たな」


 レナの野郎、貢献貢献て言ってたのはこれか。工事が進んでないのがわかってて紹介しやがったな。


「アルナ、この岩どうにかできないか?」


 アルナは俺の声を無視し、しきりに岩を触って何かをチェックしている。


「何か気になるのか?」


 アルナは戻ってくると俺の袖を引っ張り、人気のない所まで連れてきた。


「ショータさん、あれは、岩じゃないですよ」


「岩じゃない? 化石とか?」


「あれはドラゴンの卵ですっ!」


「卵? あんなにデカいものが卵!?」


 地表に突き出てる部分だけで、軽く数mはあるんだぞ?

 親はどんなデカさのドラゴンなんだよ……つうかやっぱりドラゴンいるのか!


「だから、むやみに刺激は与えないほうがいいです。もう孵化する直前だと思います」


「ちょ、放置してても孵化するんだろ? 今のうちに叩いたらいいだろ。アルナならできるんじゃないか?」


「殻はわたしの剣じゃどうにもなりません。孵化したてのドラゴンなら……それでもパーティーでどうにかなるレベルです。手段なら一つだけありますけど」


「どうすれば――――ってリューシャはどこいった?」


 さっきまで俺の後ろをついて歩き回っていたリューシャが見当たらず、辺りを探してみると、さっき声をかけた男と一緒になって、卵につるはしをガンガン当てていた。


「おいリューシャッ! 何やってんだよッッ!」


「何って見たらわかるでしょ? ショータンのために、この工事に貢献してるんだよ。褒めて褒めてっ!」


「むしろやめろ、頼むからやめてくれっ!」


 つるはしを捨てさせ、卵から引き離すと、かなり不満な顔をされた。


「私頑張ってたんだよ? 言いつけ守ったんだよ? ショータンヒドくない?」


「ああ、今回ばかりは俺が悪い。すまん」


「じゃあキスして。それで機嫌直るか――」


「アルナ、さっきの話の続きだけど」


「キスしてッ!」


「うるせえよっ! 謝っただろうが! 事あるごとに肉体的接触を図ろうとするんじゃねえよ!」


 リューシャが泣きつくのはいつもアルナだ。

 今度もアルナに泣きつくと、どうにも今日に限ってアルナの様子がおかしくなる。


「ショータさん、今回はリューシャさんは頑張ってましたし、そこまで言うのはちょっと……」


「アルナ、陥落しちまったか……だが、俺は落とされねえぞ」


 リューシャのほっぺを両手で左右に引っ張ってみる。


「どうだ、あんまりワガママ言うとこうだからな」


「い、ひはい……れも、こうひうのもいいほね」


 なぜか喜んでるように見えるんだが? 気のせいか?

 手を離すと、頬を抑えながら顔を赤くしている。

 引っ張ったせいだろう。きっとそうだ。


「それで何をやればいいんだ?」


 アルナがドラゴンの卵を指差した。


「ショータさんが、卵を粉砕するんです。ドラゴンも倒せて、一気に工事も捗って一石二鳥ですっ!」


 満面の笑みで言われても……本当に粉砕できるのか?

 神剣の力を疑うわけじゃないが、あの大きさと硬さの卵も斬れるのか正直わかんねえ。

 空間を斬るのに硬さが影響するのかどうか……。


「作戦はわかったけどさ――ってもういねえッ!」


 アルナとリューシャは作業員の誘導に向かったようだ。

 川底に一人残された俺を、堤防の上から見つめる作業員たち。

 アルナとリューシャもそのまま堤防に残り、戻ってきてくれなかった。


「マジでやんのか……頼むぞ神剣!」


 背負っていた神剣を手にし、斬れるイメージを、これでもかというくらい強くしていると、堤防の上からリューシャとアルナの声が聞こえてきた。


「ショータン頑張れ! 頑張ったら挟んであげるからっ♪」


 リューシャの隣のアルナはオロオロすると、意を決したように俺を見つめてきた。


「頑張ったら、私は、まま、また一緒に寝ましょう! マッサージには自信あるんで、してあげます!」


 いったい何を張り合ってるんだろう……それより、作業員から誤解を受けるからやめろ。

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