第16話 お掃除係♪

 冒険者ギルドの前にやってくると、動悸が激しくなるのはなぜだろうか?

 もう何もやましいことはないはずだ。

 いや、いつも疚しいことなんてしてねえんだよ!

 あの受付嬢が、俺を犯罪者扱いするのがいけないんだ。


 冒険者ギルドに入り、受付に並んでいると、背後から肩を叩かれた。


「ショータさん、あなた、その剣をどこで盗ってきたんですか。衛兵呼びますよ」


「またお前かレナ! これは……拾ったんだよ。証人ならいっぱいいるぞ! 衛兵からも許可は得てんだからな」


 俺が背負っている剣をマジマジと見てくるレナ。


「これはただの剣ではありませんよ。かなり、というか凄く価値のある剣なのは間違いありません。で、どこで盗ったのですか?」


「しつけえな! こんな価値のある剣は落ちてないって言いたいんだろ? これが俺のスキルだよ、どうだすげえだろ! こんなもんまで拾えるんだぞ!」


 俺とレナの間に割って入るアルナ。


「これは本当に落ちてたんです。南門近くの広場ですから、衛兵に聞いてもらえばわかると思います」


 もうアルナがいい子すぎて、撫で撫でしてやりたくなるわ。


「アルナさんが言うのなら間違いないでしょう。それで、今日は何の用ですか?」


 こいつ、アルナの言葉ならあっさり聞き入れやがるのか……。

 早く実力付けて認めさせてやりてえ。


「依頼を受けたくてきたんだよ。まだ説明受けてねえけど、冒険者にもランクがあるんだろ」


 なぜか残念そうな顔をするレナ。

 そのまま受付窓口にいる受付嬢と交代すると、ランク表らしきものを出してきた。


「とうとう知ってしまったのですね。できることなら、このままお掃除係で一生を終えてもらってもよかったのですが」


「いっぺん殴っていいか?」


「何か勘違いをしてらっしゃいませんか? 前にもオススメはしないと言ったはずです。この道に進むということ、それは死と隣合わせの危険な道を歩むということです。そんなことをしなくても、生きていくのは可能なのですから」


「ショータンのことを、こんなにも思ってくれてるなんて、ショータンは幸せだね」


 リューシャが目尻に涙を溜めながら、俺の手を握ってきた。


「そういうことだったのか、悪かったな。俺はてっきり、お掃除係がお似合いだってバカにされたのかと思ってさ」



「本音はそうですよ」



 思わず膝から崩れ落ちたわッ!

 まあリューシャがしっかり握ってくれてたから大丈夫だったが。


「建前なら最後まで貫けよ!」


「嘘はつきたくないものですね――――それでランクの件ですが」


 ダメだ、こいつと真面目にやりあったら負ける……冷静に、対応するだけにしよう。


「上からS、A、B、C、D、Eとランクがありまして、ショータさんは最底辺のEランクからのスタートになります。わかりましたか? 最底辺からですからね」


 わざわざ最底辺を強調しなくてもいいのに、ここまで強調するか。

 絶対わざと言ったに決まってる。だが、その手には乗らねえぞ。


「Cランクに上げるにはどうしたらいいんだ?」


「今からもうCランクに上がる気でいるんですか。アルナさんがいるからって、増長するのも大概にしないといけませんよ。だからあなたにはお掃除係がお似合いなんです。やはり、まだお掃除係でいたほうがいいのでは?」


「ボロカスだなおい! 冷静でいられねえわ! 俺のこの剣なら、オーク程度じゃ相手にすらならねえんだぞ!」


「武器に頼った攻撃、技術はなし、防具は初心者のまま。それに、受付嬢の私に対するその態度。まずCランクの資質に欠けていますね」


「た、確かに前者はそのとおりだけど、後者は今までのお前の態度のせいだろうが!」


 興奮しすぎたせいか、背中をアルナがさすってきた。

 ちょっと深呼吸が必要なようだな。


「ちょっといいですか?」


「アルナ、どうかしたのか?」


 アルナは受付窓口の前に立つと、背伸びをすることでギリギリ窓口に顔を出す。


「ランクに資質は関係ないと思うんですけど、レイナス王国は違うんでしょうか?」


「そうでしたね、関係ありませんでした」


 何が何でも、俺をお掃除係に留まらせておきたいってことだな!

 だが、アルナに言われ観念したのか、レナは一枚の依頼書を提示してきた。


「ランクを上げるためには実績が必要です。それなら一番貢献度が高い、この依頼をやってください」


 レナが素直に出してきた依頼、それは灌漑かんがい工事の護衛とある。


「今、王都周辺の耕作地を広げているのですが、水が足らず、水を引っ張ってくる工事中の真っ最中なのです。しかし、魔物の襲来が多く冒険者が足らない状況です」


「無事工事を完了させればいいってことだな?」


「そうです。いくらゴブリンを狩っても意味はないですよ。工事に協力し、貢献することがポイントです」


 自分勝手に狩っててもダメってことだな。

 極端な話、一匹も狩らなくても、貢献さえすればいい依頼だ。


「よし、引き受けた!」


「ではこの依頼書と、Eランクの証である木製のプレートです」


 木のプレート、それも手彫り……早く金属製にしねえと。



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