第15話 リューシャの成長

 振り抜いた直後から猛烈に後悔した。

 ゴブリンの群れは一瞬にして上半身が分断され、辺り一帯が血の池地獄と化したからだ。


「上手いこと斬れたな……」


「わたしでも、一振りであそこまではできません……」


「神剣てスゴいんだねえ。もうショータンは神だね!」


 やめろ、「私は神ッッ!」って似非神思い出すからさ。

 何にしても、この剣はヤバい。

 もう存在しちゃいけないんじゃないかってくらいヤバい。


「この武器は振り回しちゃダメだな」


「神剣は本来、魔王や魔神相手に使うような代物ですからね。ゴブリン相手に使ってる人はいないと思います」


「いつでもどこでも、ショータンは全力だからカッコいいの!」


 こいつ、さっきから無理やりにでも、俺を持ち上げようとしてねえか?

 とりあえず、ゴブリンを100匹ほどと、オークを20匹ほど狩ってみた。収集値の変化を確認するためにだ。



【収集値】

 0pt(MAXまで100ptです)



 もうダメじゃん!!

 全く回復してねえよッッ!


「緊急事態だ。全く収集値が回復してない。もしかすると、もうゴブリンやオークじゃ回復しないのかもしれない」


「それは早かったね。じゃあ次の上位の魔物狩りに行こうよ」


 リューシャが、とても軽い口調でのたまう。

 自分のことじゃないからか?

 神剣で攻撃力は上がっても、俺の技術は攻撃も防御も初心者そのものなんだぞ。死地に向かえと言うのか。


「アルナ、オークより強い魔物って、俺でも倒せる?」


「神剣なら簡単に倒せますけど、攻撃を食らったら即死かなって……」


「大丈夫だよぉ、神剣があれば楽勝楽勝!」


「おいリューシャ、お前さっきから軽口叩いてるけどさ、俺を殺す気か? これだから夢魔なんて信用できねえんだよ」


 涙目になるリューシャ。

 結構そそられるから困る。


「そんなつもりないよ。ショータンを励まそうと、頑張ってるだけなのに」


 うん、ただのバカだったようだ。

 何も考えず、応援してるだけってことだな。

 まあ無茶であろうと、スキルを使うためには狩らないわけにはいかないんだけれども。


「この辺でオークより強い魔物がいるのって、どこだかわかるか?」


 首をブンブンと横に振ってみせるアルナ。

 リューシャは聞くまでもなく、知らないという空気を漂わせている。


「わたしはレイナス王国周辺には疎いので……」


「ということは、冒険者ギルドで聞くしかないか」


「たぶん教えてくれないかと」


 アルナが小さな声で答えると、リューシャがアルナの胸元から何かを取り出した。


「これが必要だと思うんだよねぇ」


 リューシャが手にしてるのは、ネックレスの先に繋がれた小さな黒いプレートだ。


「なんだそれ」


「冒険者のランクを表すものだよ。アルナちゃんはSランクだねぇ」


「俺はそんなの貰ってないけど?」


 一度も聞かれたこともないし、どういうことだ?


「ショータさんは基本ゴブリン狩りしかしてないので、ただのお掃除係かと……」


「はっきり言ってくれていいぞ。遠慮はいらないから」


「はい、冒険者ギルドでランク持ちになれない人は、お掃除係って呼ばれてるんです」


 あれか、実際は冒険者にすらなれてなかったってことか!


「一度レナの奴が討伐用の依頼を受けられるとか言ってたあれか。ならさっさと行って貰えばいいだけだろ」


「貰っても一番下のEランクスタートなので、オークより上位の討伐依頼は受けられません。なので、そういう場所も教えてもらえないと思います。冒険者に聞いてもいいかもしれませんが、わざわざ狩場を教える人もいないですね」


 糞面倒だな……ランクもあげないといけないのか。なんにしても今は収集値が期待できないし、ランク上げを目指すか。


「じゃあ、とにかくランクを上げて、収集値も金も稼げるようにならねえとな」


「そうですね、ショータさんならすぐに上がりますよ」


「上がったらお祝いしてあげるねぇ」


「リューシャのお祝いはいらねえぞ。その分しっかり働いてくれたら、俺はすげえ嬉しいぞ」


「え~~、そんな無茶言われてもぉ。耳切り取るのしんどいしぃ、臭いしぃ、お肌荒れるしぃ、面白くないんだもん」


 とにかく働きたくないって意思だけは、ひしひしと伝わってきたわ。

 面白くないってなんだよ! 労働だよ、労働!


「よし、それでは今から、ランク持ちになりに行くぞ」


「はい!」


「あ、リューシャは付いてこなくていいぞ。今倒したゴブリンとオークの耳を切り取ってからでいいから」


「ええええええっっ! それヒドいよ! ショータン待っててよ」


「俺がいたら急かすからな、一人でマイペースでやるほうが楽だろ? 耳切り取るのもしんどいもんな」


 リューシャに背を向け歩き出すと、「ショータンなんてキライ! でも好き! キライなのは嘘だからね!」などと混乱してる声が聞こえてきた。


「ショータさん、本当にリューシャさんを一人にしていいんですか?」


「いいのいいの。一人のほうが仕事ははかどるだろ」


「そうだねえ、スゴく捗っちゃったよぉ」


 もう誰もいないはずの背後から聞こえた声に振り向くと、麻袋を片手にしたリューシャが立っていた。


「おま、もう終わったのかよ」


「褒めて褒めてっ!」


 こいつも、超優秀なんじゃねえのかよ。

 普段どれだけやる気ねえんだ……。


「これからも一人のほうがよさそうだな」


「そんなことないよ! ショータンのために頑張ってきたんだから、一人はヤダよぉ」


 可愛い顔で甘えやがって、元マッチョのくせに!

 誰か記憶から消してくれねえかな。


「わかったよ。その代わり、今みたいにしっかり働けよ」


「……考えとく」


 即答で拒否せず考えるってことは、少しは成長してんのかな?

 牛歩並みの成長速度だが。



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