第14話 伝説の剣・後

 確かに、道端に転がっているだけなら、全く問題なく往来ができる。

 衛兵たちは仕事が済んだとばかりに幌馬車に乗り込むと、馬車を走らせ始め、そして堂々とその剣を車輪で踏んだ。刹那――――。




 ――――ガタガタ、ガリガリガリガガガッッッッ!!!!



 一瞬にして幌馬車は傾き、轟音とともに地面に側面を擦りつけた。


「何だ、いったいどうしたというのだッ!」

「車輪が細切れになってます!」

「はぁああ? 何をふざけたことを言っているのだ!」


 車輪が剣を踏んだ瞬間、車輪、車軸が切断されたのだ。

 車輪がなくなったことで、馬車は完全に傾き、走行不可能な状態になっている。

 これを見ていたアルナが、怖い表情で呟きだした。


「神話級の神剣を車輪で踏みつけるだなんて、神を冒涜するに等しい行為です。生きているだけ儲けものです」


「なあ、アルナ……俺がそんな怖い剣の主人になるわけ? 大丈夫かな?」


 便所で横に立てかけたりしたら、アソコごと切断されるとかねえよな?

 剣にまで気を遣わないといけないとか嫌だぞ。


「大丈夫ですよ! ショータさんですから!」


「いや、意味がわからねえんだけど……」


 俺なら斬られても身内もいないし、大丈夫っちゃ大丈夫だけど、そういう意味じゃねえだろ?

 俺が心配していると、慌てふためく衛兵の下にリューシャが駆け寄り、何か話をしているようだ。


「こんな危ないもの置いてちゃダメだよねぇ? 処分してあげよっか?」


「くっ、しかし、あれはどうみてもかなりの値打ちもの……我らの判断でどうにかしていいものでは」


「みんな死んじゃうかもよぉ? あれ呪われてるのかも? もしかして魔剣かも? どこかの貴族様が同じようにこの剣に乗り上げて、万一死んじゃったら責任取らされるかも?」


 あれは脅迫かな?

 心配しているように見せかけて、かなり追い詰めてるぞ。


「そんな深く考えなくっても大丈夫だって! 落ちてたのは何の変哲もない、ただの剣だって報告しとけばいいの」


 リューシャは振り返ると、野次馬連中に向かって両手を広げる。


「みんなもこんな危ない剣があるのは困るよね? 一刻も早く持ち帰ってほしいよね?」


「そりゃあ、こんなもんがあったら危なくて歩いてられねえよ」

「さっさと持って帰ってくれよ!」

「そうだそうだ、誰のものとかどうでもいいから、早く通れるようにしてもらわねえと、仕事になんねえんだよ」


「ほらね?」


 何が「ほらね?」だよ!

 野次馬を味方に付けたリューシャに、嫌そうに了承する衛兵。


「ショータン、あそこの衛兵が持って帰っていいって!」


「全部見てたわ。お前怖ええよ」


「もう、ショータンったら、そんなこと言って私を突き放す作戦でしょ。その手には乗らないもんねー」


「いいから離れろ、くっつくな!」


 リューシャを引き離すと、周りからの殺意の込められた視線がグサグサ突き刺さってくる。

 見せつけるために、イチャついてるわけじゃないんだぞ。

 てか、これも計算されたものだったらどうしよう……。


「ショータさん、やっぱり私じゃこの剣は持てないです。早くどけてみなさんが通れるようにしましょう」


 アルナは、また挑戦していたようだ。

 結構負けず嫌いな部分があるのかもしれない。


「ああ、今すぐどけるよ」



       ◆  ◇  ◆



 神剣を回収し、一旦町外れの草原までやってきた。

 この剣がどういったものかわからないため、ここで試し斬りをしようと思う。


「これ鞘なくてもいいのか? すげえ危ないんだけど」


「また作りに行けばいいと思います。今はショータさんの意思で斬れなくすることも可能だと思いますから」


「そんなもんなのか……じゃあとりあえず、そこのゴブリン斬ってみるわ」


 意思で斬れなくできるってことは、こういう剣は意思で斬れ味も変わるってことだよな? じゃあとことん斬れるイメージでやってみるか。


「ふんッ!」


 思い切り振り抜くと、全く抵抗なく、ゴブリンが真っ二つに分かれた。

 剣には血の一滴すらついていない。


「おおお、メッチャ斬れ味いいぞ。これなら――」


 話し終える前に、その百メートルほど前方の木々が一斉に倒れた。

 それも、同じ角度で同じ方向に……。


「え?」

「ど、どういうことでしょう?」

「ショータンスゴい! 空間ごと斬り裂いたみたいだね!」


 やっぱりそうだよな……風で斬ったわけないし、空間を斬ったとしか考えられない。

 この剣自体も持てない奴は重いって言ってるが、あれは重量が変わってるわけじゃないようだし。停止した状態だと、俺が触るか自然による力が働かない限り、空間に固定されてると言ったほうが正しい。


「ショータさん、あそこにゴブリンの群れがいますけど、あれで試します?」


「そうだな、ちょっと振ってみるわ」


 斬れるイメージを保ちつつ、二百メートルほど先の群れに向けて振り抜いてみた。



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